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幻想い足跡  作者: うさぎ
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 イアナは額に手を当て、再びツッコミをこらえる。


「じゃあ、殺しちゃうよ〜。」狂った笑みを浮かべたジューンがイアナの背後に閃現し、鎌は死神的な招きのように彼女の喉元を撫でる。


 刃は無音のまま、イアナの首の柔らかな肌に触れていた。しかし、ジューンが予想した、喉が切り裂かれる鋭い痛みは、一向に彼女の神経を伝わって来ない。むしろ、鎌の先端から感じるのは、空虚な『無反応』という硬質な触感だけだった。


「……え?」ジューンの狂気の笑みが一瞬で凍りつく。眼前のイアナの輪郭が、ゆらりと滲み、まるでより高次の論理階層に記述された対象が、下位の論理で定義された攻撃を原理的に無効化するかのように、刃は『存在』そのものを捉え損ねていた。


「『到達不能性』って知ってる?」いつの間にか、ジューンより無限の光年離れた虚無に、イアナが飄々と立っている。彼女はそっと手を上げると、無限の時空構造を、あたかも集合のモデルを扱うように軽々と再配置してみせる。


「君の攻撃は、たとえ『この世界』を壊せても、わたしが立つこの『階層』には届かないのよ。まるで、『ある公理法則のシステム』の中から、『到達不能』の存在を証明できないようにね。」イアナの声には、からかいと憐れみが混ざっている。ジューンがどれだけ『強い』かは問題ではない。問題は、その『強さ』がどの論理の階層に定義されているかだ。


 ジューンは瞬時に無限の時空点から同時に斬撃を放つ。しかし、どの攻撃も、イアナの『真の位置』には、公理法則的に言えば『到達不能』だった。それは、有限のステップで無限を追いかけ続けるあがきのように、常に一階層だけ『下位』の『この世界』で空を切るばかり。


「もっと、『高み』から見下ろしてみなよ。さもないと――。」イアナが指を鳴らす。


「君の『存在証明』そのものが、わたしの手のひらで簡単に反証できちゃうわよ。」ジューンの背後で、彼女自身の『存在証明』が、より強い無矛盾な体系によって、ねじれて壊れ始めた。


「ちっ……こんなの……何が『上位存在』だっ!」ジューンが咆哮する声は、崩れゆく時空の断層を揺るがす。しかし彼女には、眼前に咲き乱れる「戦場の花」を鑑賞する余裕などない。


 ィアナの手にある長劍、星かり花が放つのは、ただの斬撃ではない。一閃ごとに、刃の軌跡は、ジューンが足場とする論理階層そのものを、より高次からの存在証明のように軽々と書き換える。


「どうしたの? さっきまでの余裕はどこへやら?」ィアナの声は冷たく響く。その一撃ごとに、ジューンの領域は侵食され、彼女の『存在を仮定して初めて成立する』上位の暴力そのものが、より上位の論理によって『反証』されていく。


 ジューンは狂ったように鎌を振るう。だが、その刃は常に『一階層下』の虚像を斬り裂くだけだ。まるで、自身の存在基盤を支える公理系そのものが、敵の前に無力であることを証明されるかのように――。


「お前の『仮定』そのものが、わたしの前では……『不完全』なのにね。」ィアナの呟きと共に、星かり花の尖端がジューンの『存在定義』そのものを貫く。


 イアナの無限の斬撃の下、ジューンは全身血まみれになる。しかし、このような壊滅的な打撃を受けても、ジューンはなおも踏み堪えて立っていた。


 なぜなら、イアナとジューン、ユーナとイニンが怪物と戦うその傍らで、この虚無の戦場には、まだ手を出していない存在がいたからだ。


 エドと、彼女が『復活』させたブルダ、そして彼らを警戒するエラ。


「無駄だ。君たちはもう負けたのに、なぜいまだに抵抗を続ける? 素直に運命を受け入れた方が良いとは思わないか?」エドは魔法陣の中央に立ち、明らかに彼女が結界を張り巡らせている「この結界の魔力源は、破壊された『幽暗の間』の破片、そして戦死した全ての吸血鬼と教会騎士の心の源。更に蘇った母さんの力で増幅されている。最高位の拘束牢獄だ。今の君たちに破れるわけがない。」


「バカなこと言わないで。」イアナが手にした星かり花を軽く一振るう。

 その軌跡が虚空を横切ると、エドが誇張した結界に、さざ波のような揺らぎが生じた。剣先が触れた時間と空間そのものが『書き換え』られ、結界を構成する魔力の流れがほんの一瞬、断ち切られる、『幽暗の間』の破片から滲み出る暗黒のエネルギーが、一瞬で純白に浄化され、戦死者の心の源から響く嗚咽が、かすかな希望の調べに変わる。結界そのものはまだ崩壊していないが、イアナの一撃が、その『絶対性』にほんの少しの亀裂を入れたのだ。結界を維持しているブルダも鮮血を噴き出した。


「今の状況がまだ見えてないの?優位に立ってるのはこっちだよ……そのボロきれな結界なんて、暴力でぶっ壊せばいいだけじゃない!」イアナは剣をエドに向け直した。


 エドは慌てず、笑みを帯びた眼差しでイアナをしっかりと見つめる「ハ!面白い……ますます君に興味が湧いてきたよ、イアナ。早く解剖台に乗せて、君の脳みそがどんなバカな構造になってるのか確かめてみたくてたまらないね。」


 イアナの表情が少し曇るのを見て、エドはさらに嬉しくなる「優位?そうだね、確かに今は君たちが優勢だ……だが、すぐにそうじゃなくなる。そうだろう?聖女さん。」エドは笑いながら星の方を見た。


「!!!」エラとイアナは心中で同時に驚き、星を見つめる。相手の表情から自分が求めるものを見出そうとした。しかし、彼女たちは失望した。星は相変わらず、いつものように氷山のように無表情で、エドを見つめながら機械のように口を開いた「はい……お待たせしました、ご主人様。」


「星!これはどういうことだ!」エラは星の手を掴み、何かを見出そうとするように彼女の瞳をじっと見つめた。


「あははははははっ!!!まだわからないの、エラ?」エドは笑いのあまり涙を流しながら「サプライズだよ。宇宙戦争で滅ぼされた宇宙国家で君が拾ったこの娘、実は私がわざと送り込んだんだ。彼女は人間なんかじゃない、その正体は――『魔物』!そう、私の最も得意な作品なんだよ......グラハム数の『悪魔』の鮮血で作り出された悪魔だ!」そしてエドは惜しむような表情を見せる「ただし残念なのは、賞味期限の問題でね。運が良ければ、あと一年ほどしか寿命はないだろうさ。」


 星の目に突然、悲しみと哀願の色がちらりと浮かぶ、エラはそれを鋭く捉えた。星はエラの胸を押さえ、強く押しのけようとした、エラは頑なに手を離さなかった……星の眼差しを読み取った彼女にはわかっていた――この別れが永遠の別れになってしまうことを。


「まだ何を待っている?聖女よ、早く本来の姿を現して、彼女たちを、全て殺しなさい。」エドは微笑みを浮かべて促した。試験体が感情を抱くという問題は、彼女も以前から想定していた。しかし、彼女が作り出した試験体が、自分の命令に逆らうことなど、絶対にあり得ないのだ。


「やめて……星……お願い……。」エラの目には恐怖が満ちていた。彼女は星の両手を強く握りしめ、弱々しく懇願する。


 星は目を閉じた「ご命令の通り、ご主人様。」

 ブシュッ!ブシュッ!ブシュッ!

 無限の不気味な触手が内側から星の皮膚を突き破り、最後の意識が残っている星はエラを強く蹴り飛ばす。

『さようなら、永遠のご主人様……どうか……わたしを殺してください!』

 ......

 ......

 赤き吸血姫が無限の虚無宇宙を切り裂き、長い軌跡を残して遙かな彼方へと向かう。


「ドリス。イアナ、エラ、星、それにラナまでいない……あの人たち、どこに行ったか知ってる?ねえ……まさかわたしを置いてこっそりどこかで情事でもしてるの?四人で……大丈夫なのかな?」


「おや?もし君が今心配していることなら、確かに問題ないね。残念ながら、彼女たちはどうやら情事には行っていないようだ。」


「え?じゃあ、彼女たちがどこへ行ったか知ってるの?」

「..................。」

「うん?」


「言うべきかわからないな…彼女たちには内緒にする約束だったけど…でもね…今この瞬間、彼女たちのうちの一人が生命の危機にあるらしいよ〜。」


「どこだ、彼女たちはどこにいる。」


「まあ…あなた方向音痴でしょ?受け取って、これが進むべき時空座標へ導いてくれるから……。」


 無限の虚無宇宙の中で、ジョイは平板端末のようなものを両手に抱え、指し示される時空座標へと高速で穿梭していた「決して有事があってはいけない、わたしのために死ぬなんて……。」


 あまりにも価値がない。

 ......

ここまで書いてみて、完全に最初の構想から離れてしまったことに気づきました(苦笑)。面白い設定を思いつくと、つい直接取り入れてしまうんですよね。

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