世界を救う大英雄になれるのは……たった一人だから……。
歪んだ空間の中には眩しい魔法の光が点滅しているが、光は闇を追い払うことはできるが、恐怖や…鮮血…を追い払うことはできない。
まるで壮麗な闘技場のように、宇宙を圧縮して凝縮された堅固な灰耀石の円壁には、精緻ながらも単調な浮き彫りが刻まれている……。華麗な浮き彫りは、異なる時代に染み込んだ血痕によって彩られ、奇妙な魅力を添えていた。この豪華な『闘技場』は今、生臭い血腥さと腐敗した死体で満ちている。そこにはかつて凶暴だった魔獣もいれば、12、3歳ほどの子供も、そしてより多くいるのは、人とも怪物ともつかない異形の存在たち……。それらは全て、エドの実験体だった、すべてが。
むせ返るような屍の山のなか、上半身裸の子供が跪いていた。犠牲者たちの血はすでに彼女を全身真っ赤に染め上げ……この血まみれの存在こそ、今回の実験で唯一の生存者だった……。こんな実験を、彼女はもう幾度も繰り返し経験してきた。
「やっぱりね、今回生きている子はあなたのままなの……ジューン!」エドは興奮した顔をした。ためらうことなく血の海に足を踏み入れ、新鮮で腐った死体を踏みにじると、エドは血の海にひざまずいていたジューンを抱きしめた「やはりな! 私の実験は成功だった!あなたはまた『大英雄』という目標に一歩近づいたね!ははははは!!」エドは興奮してジューンを抱きしめながら大笑いし、激しく足踏みして二人の体に血しぶきを浴びせた。
乱暴に抱きしめられるジューンは、魂の抜けた人形のように、虚ろな目で前方を見つめていた。何かを思い出すかのように、ぼう然とした声で口を開いた「……わたしは彼らを殺した……アンドリュー……ジョージ……パパミー……リリアン……みんな、わたしが殺した。」
ジューンはぎこちなく首を回し、エドの目を見つめた「リリアンは……前にこう言ってた……『好きだ』って……ここから、一緒に生きて抜け出すって……約束したのに……。」
そう言いながら、ジューンはうつむき、自分の眼前に横たわる小さな遺体を見下ろした……喉を一閃で断たれた、愛らしい少女だった……苦しみすら感じさせない潔い死に様だ。ジューンは女の子の額の前の前髪を優しく手で梳いていたが、目には感情が見えないほど空洞だった「でも、わたしは彼女を殺した……わたしたちは……わたしたちが一緒に他のすべての人を殺した後……わたしは彼女の喉を自分の手で切った……。」
ジューンは声が少しむせび泣くようになり、ついに涙が虚ろな黒い目からあふれ出てきた……彼女は、所詮ただの子供だった。
エドは無言で立ち上がり、上から見下ろすようにジューンを見つめた。その眼差しは氷のように冷たかった。
「これは本当に英雄なのか……?」ジューンは嗄れた声で呟くと、リリアンの死体の服を必死に握り締めた「世界を救う大英雄になれるのは……たった一人だから……。でもエド様……こんなわたし……こんな私たちが……本当に……英雄になれるんですか? この世界を救えるんですか!?」ジューンは思い切り振り返ってエドを見つめ、顔にこびりついた血の塊が熱い涙と共に剥がれ落ちた。血涙で滲んだその顔は、もはや人間の形相を超えていた。
エドは穏やかに微笑むと、血の臭いで汚れたジューンの髪を撫でた「もちろんさ、お前はこれからもずっと――私の大英雄として育ててやる……。私の願いが叶ったら、この世界を救う使命はお前に託すんだ。」
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楽しい一日はあっという間に過ぎた。ジョイは自分が経験した無限の歳月の中で今日ほど楽しかったことはないことに気づいた。シェリはあの強大な亡霊にやすやすと「治されて」しまい、ジョイにはどう見ても不自然に映ったが、もう気にしないと決めていた……違和感なんてどうでもいい。今、シェリは彼女の腕の中で心地よさそうに眠っている……それが彼女にとって唯一の真実だった。
「ありがとう……ィアナ。」ィアナは反対側で眠り、二人でシェリを包み込むようにしていた。ジョイのロリ体型を無視すれば、それはまるで温かい家族のようだった「お姉ちゃん……。」ジョイの腕の中で眠るシェリは、何か不思議な夢を見ているらしく、手でジョイの体を探るように動かしていた。ジョイは苦笑いを浮かべながら、優しくシェリの額にキスをした「おやすみ、ィアナ、シェリ。」
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ジョイ荘園の地下図書室。ドリス……いや、亡霊姫は魔力で形成された蔦のブランコにゆったりと腰かけ、楽しげに揺れていた。そこには亡霊の気配など微塵もなく、ただの無邪気な少女の姿があった。
無限の図書館には無限の貴重な文献が所蔵されており、宇宙戦争以前の無限の歴史から始まった吸血鬼たちの秘蔵品だ。ブランコで一人遊びに興じる亡霊姫のほか、エラもここにいた。実際、そのブランコはエラの魔力で形作られたものだ。エラが亡霊姫をここに呼び出した目的は、ただ一つしかない。
シェリ。
「さて、そろそろ話してもらおうか、亡霊姫。」エラは手懐けた扇子をくるりと回しながら、子供のように遊ぶ亡霊姫を鋭い眼光で見据えた。
「え~? 変なこと言う。何を教えてほしいの、吸血鬼さん?」亡霊姫ドリスはひとりでブランコを揺らしながら、さらに贅沢にも魔力で無限の地下図書館の天井に桜を咲かせていた。人為的に作り出された夜桜が、幻想的に舞い散る情景が広がる。
エラは手を伸ばし、ひらりと舞い落ちる桜の一片を受け止めた、小さな鼻を動かしてほのかな花の香りを嗅ぎ、目を細めた「実に美しい花ですね、亡霊姫閣下。ジョイ姉様はお気づきにならなかったようですが……わたしを欺くことはできません……『シェリの記憶素子(集合の元素)』を、あなたが改竄した……そうでしょう?」
桜の雨はますます激しくなり、無限の図書館の床はすでに花びらの絨毯と化していた。エラは冷たい表情でゆっくりとドリスに近づき、こう言った「あなたはきっと、シェリの記憶を取得したのでしょう。そして彼女の記憶を改ざんした……ジョイ姉様には気づけなくても、ずっとシェリのそばにいる私が……気づかないわけないでしょう?」エラの声が落ちた瞬間、無限の図書館に一陣の風が巻き起こった。降りしきる桜の雨と共に、それは『桜の嵐』へと変貌していく。
「頭がいいですね、エラ。」亡霊姫はブランコからふわりと降り、重さのない身体をエラの目の前に浮かべた。舞い散る桜花と共に、優雅に揺れながら「あのシェリという吸血姫の記憶は、少なくとも宇宙戦争以前に改ざんされていたわ……わたしの推測が正しければ、おそらくこれが彼女が崩壊した原因なのでしょう。」
「記憶(元素)による崩壊である以上、この崩壊を解決するには……記憶から始めなければなりません。記憶を改変(元素を修正)するのも間違いありません。」
「でも単純に記憶を消すだけじゃダメよ。だって、彼女の記憶の中にとっても面白いものを見つけちゃったんだもの。見たい?」ドリスは手のひらでエラの扇子とそっくりな扇をふわりと出現させ、それを口元に当てながら笑った。
「面白いもの?」エラは眉をひそめた。亡霊姫の口調から、それがシェリ崩壊の直接的原因だと容易に推測できた。根本的な原因はおそらく、母親の死と家族の崩壊だろう。そう考えながら、エラはうなずいた「ええ、見せてください。」
ドリスは軽く笑うと、白く繊細な指をエラの額にそっと触れた、ひとつの光点がエラの額に吸い込まれていく……エラの瞳はたちまち焦点を失った。シェリを崩壊させた記憶が、怒涛のように押し寄せてくる……。
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