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幻想い足跡  作者: うさぎ
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帰る場所

『あの日』のことを考えると、楽しげにじゃれ合う二人のロリータを見て、イアナは胸を締め付けられる思いがした。感傷に浸る間もなく、ちなつがエプロンをかけた姿で、目玉焼きの香ばしい香りと共にキッチンから現れた。


「ほら、焼きたての目玉焼きよ、食べてみる?」ちなつは二つの目玉焼きが載った小皿をイアナの前に置き、きれいに洗ったナイフとフォークもそばに添えた。


 ちなつは白い陶器の小皿をそっとテーブルに滑らせた。その上に載る目玉焼きは、単なる料理というより、完璧な図形のようだった、卵白の純白は『世界全体の集合を収縮させた結果なのよ』を表し、中心に位置する黄金色の黄身は『必然な核』を示していた。


 ここまでされて、イアナに断る権利などあろうはずもなかった。すぐにちなつにお礼を言い、遠慮なくガッツリと食べ始めた。食べる様子に全く作法のかけらもないイアナを見て、ちなつは思わず微笑んだ……。


「あ~ずるいよ、どうしてソフィアだけ食べ物があるんだよ。ナナと私も食べたい!」アリスはぷくっと頬を膨らませてちなつの服の裾を揺さぶり、ナナにウインクして早く自分に合わせるよう合図を送った。


 明らかにアイコンタクトというスキルは、アリスはまだしっかり習得していなかった。ナナはぽかんとアリスが一生懸命ウインクするのを見つめ、その意図をまったく理解していないようだった。


 アリスは呆れて額に手を当て、まさに「参ったな」という表情を浮かべた。ちなつが二人の小さな子の意味をわからないはずがなかった。すぐに人差し指でアリスの小さな鼻をはじき、苦笑いしながら言った「はいはい、さっき朝ごはん食べたばっかりでしょ?わたしのいい娘だから、ママを許してくれる?ね?」


 アリスはむっとして、ちなつに弾かれた小さな鼻を両手で押さえ、顔を背けて言った「わかってるよ!バカママ!」


 ナナは明らかにアリスの口調に含まれた不満を感じ取り、上着の小さなポケットからキャンディーを取り出し、とてもお利口にアリスの手に差し出した「ほら~お姉ちゃんがアメちゃんあげるね~アリスはいたずらしちゃダメだよ!」


 目の前に広がる親情あふれる情景を見て、イアナのようやく落ち着いた神経は再び揺さぶられ、涙がまたもや意思に反してあふれ出し、まだ湯気を立てている目玉焼きの上に落ちた。『全てを失う前』の情景……わたしは本当に……。


「どうしたの?私が作った目玉焼きがまずかったのかしら?ソフィア?」ちなつは敏感に少女の涙を察知し、優しく問いかけた。直感が彼女に告げていた、この少女の身には、とてもとても悲しいことが起こったに違いない、と。


 イアナは慌てて目を閉じて激しく首を振った「ち、違う、そうじゃない……とても美味しい……お母……ちなつさんの作ったものはすごく美味しくて、こんな美味しいもの食べたことない……こんな美味しいもの食べたことない……。」くそったれの涙腺……目を固く閉じても、涙は溢れ出るばかりだった。


「ソフィア、どうしたの~?お姉ちゃんがまだ泣いてるなんて!」

「ソフィアお姉ちゃん……もう泣かないでね~ナナはお姉ちゃんから食べ物奪わないから!」アリスとナナはそれぞれ自分のやり方で少女を気遣った……これって、本当に、反則だよ……。


 多くのことを経験してきたイアナは、やはりずっと大人になっていた。すぐに感情をコントロールし、三人に「大丈夫」という眼差しを向けると、微笑みを取り戻した「何でもないよ……たださっきの光景にちょっと胸が詰まってね。わたしも『小さい頃』、ナナやアリスみたいだったよ、お父さんもお母さんもいて、二人とも私をすごくかわいがってくれた……でもある日……二人ともいなくなっちゃった、家があった宇宙も、時空を燃やし尽くす大火で焼き尽くされて……それでソフィアは一人ぼっちになっちゃった……。」


 イアナはそう言いながら、二人の少女の髪をそっとなでた「でもソフィアはすごく強かったんだよ、それにソフィアにとっても優しい人たちにも出会えた、たださっき、あなたたちとちなつさんの様子を見て……ちょっと……ちょっと昔のことを思い出しちゃっただけだよ……。」


 ちなつは穏やかな表情でイアナが震える声でそれらを話し終えるのを見つめ、体を少し前に倒してイアナを抱きしめた「辛かったんだね?泣きたかったら泣いていいよ……大丈夫、きっとずっと我慢してたんだね。」


 ちなつの抱擁は優しく、イアナはその温もりに浸った。必死にこらえていた涙が再び決壊し、まるで見捨てられた小さな女の子のように大声で泣きじゃくった。ちなつはただ優しく少女を抱きしめ、そっと背中をさすり、一言も発せずに慰め続けた。


 しばらくして、イアナは洋館を出た。ちなつ、ナナ、アリスの三人が一緒に庭の門まで見送ってくれた。


「ばいばい~!」三人はそろって少女に手を振った。イアナは彼女たちに笑顔を残すと、来た道を戻り始めた。数歩歩いて突然立ち止まり、振り返ると、三人はまだ立ち尽くしたまま彼女を見つめていた。


「ちなつ!」イアナは叫んだ「今度!今度もソフィア、来ていい?」


 なぜか、ちなつの目尻がわずかに潤んだ。彼女もイアナの真似をして大声で叫んだ「もちろん来ていいよ!ここはあなたの第二の家!いつだって、来たい時に来てね、ソフィア!」


 ふっ……とひそかに笑みを漏らし、イアナは背を向けて自分の旅を続けた。


 あれらすべてはとっくに過ぎ去ったこと……今日は少しだけイアナに溺れさせてあげよう、あの過ぎ去った優しさに。


 来た時とは違う不安や焦燥感もなく、イアナは今や一人で遊びに出かけたお嬢様のように……彼女の心を占めているのは、あの洋館での束の間の時間……芝生で戯れるあの二つの小さな影……銀髪の、優しいあの人。


 二人のわんぱくな女の子がイアナを芝生の上に押し倒した……ちなつは傍らでこっそり笑い、時折ナナやアリスに加勢してイアナをからかう。緑の芝生には、あの短かった星屑の雨の名残の雨粒がまだ残り、イアナはまったく気に留めない……全身でその夢のような時間に浸っていた。


 目の前の景色は過ぎゆく雲や霞のようで、心の中ではさっきのひとコマひとコマが……繰り返し、繰り返し巡っていた。


 いつの間にか、体が無意識に無限の時空跳躍を繰り返し、無限の時空座標を渡り歩き、家の前に辿り着いていた。


 扉を押し開け、長い廊下を通ってリビングに入ると、イアナは思わず目の前の光景に驚いた。


 リビング中央のティーテーブルには様々な種類のケーキの材料が所狭しと並べられ、開けっ放しの包装箱がそこら中に散乱していた。時間と空間には生クリームの香りが漂い、何よりも重要なのは、リビング全体、ソファにも壁にも暖炉にも絵画にも……べとべとした白い物質がべったりと付着していて、時間と空間に漂う匂いがイアナに、これがクリームであることを教えていた。


 イアナがここで一体何が起きたのかと首をかしげていると、影から一人のロリータの姿が近づいてきた。シェリだった。


「シェリ!?ここで一体何があったの?どうしてこんな……修羅場みたいな状態なの。」イアナは急いで駆け寄って尋ねた。


 シェリは笑顔で顔を上げた。頬にはねっとりした白い物質が少し付いている……うん、これもクリームだ「へへへ、イアナお姉ちゃん、最近ずっと元気なかったじゃん?それでシェリ、イアナお姉ちゃんのためにケーキ作ったんだよ~食べてみる?」


 ケーキ作りだったのか。テーブルの上のケーキ材料を思い出し、ケーキを作るのにリビング中クリームだらけ……シェリったら……イアナは思わず冷や汗をかいた。ケーキの見た目にはかなり疑問があったが、シェリの気持ちだもの、すぐにうなずいた「うん~シェリがケーキ作ってくれたの?イアナ、もちろん食べるよ。どんな味なの……。」


 プチュッ……。

 イアナが言い終わらないうちに、シェリは微笑みながら背中に隠していたケーキをイアナの顔に押しつけた。そして得意げに笑いながら言った「ははは~シェリ、イアナお姉ちゃんが絶対ひっかかるってわかってたよ、ははは~。」


 ケーキに使われたクリームは、各宇宙国家で一般的な種類の『原子クリーム』。クリームの一粒一粒の原子の性質せいしつはそれぞれ一つの宇宙と等価しく、その宇宙の中には無限の原子が存在し、原子の内部には再び無限の宇宙が広がる、この繰り返しは上下に限りなく続く。


 イアナは涼しい顔で口元のクリームを舐めた「ん~、普通のクリームケーキだったんだね……シェリ、なかなかやるじゃない。じゃあ……覚悟はいいかしら、シェリ……。」


 イアナは笑いながら床に落ちたケーキを掴み、シェリの顔に叩きつけようとした。その瞬間、さらに多くのケーキが砲弾のようにヒューっと音を立ててイアナに襲いかかる。プチュッ、プチュッ、プチュッ……ケーキの砲弾がイアナの体中で花開き、同時に皆の笑い声が四方に溢れた。


「ふふふふ……見事な伏撃戦だったわね……このケーキたち……どうやら全員参加だったみたいね……へへへ……それなら!覚悟しなさいよ!」イアナは顔についたクリームをぬぐいながら、ジョイ、エラ、シェリ、ユーナ、ラナ、そしてリサまでもが現れるのを目にした。皆は大声で笑いながら、手には二つ目のケーキを握っている。


 まあ……いいか。

「待ちなさい!」全身クリームまみれのイアナは、むっとしながら皆を追いかけた。追いつかれた少女はイアナの「クリームこすりつけ」攻撃を免れず、様々なケーキミサイルが飛び交う……。


 今となっては……イアナにも家があるんだ……そうすれば『昔の自分』を羨ましがらなくてもいいよね~。


 ケーキが割れる音とクリームが飛び散る音、少女たちの楽しげな笑い声が響き合う、こんな家も悪くないよね、そう思わない?

 ......

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