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作戦を練りましょうか

結局、私は気がつけばお茶会室に座っていて、その後やって来たお父様に激怒された。それを宥めて息子であるユグドール様を拳骨で殴った閣下。


「すまなかったね、愚息が余計なことをしたようだ」

「父様!!」

「黙れ!お嬢さんに突然叫んだから何事かと思えば…全く、レディに優しくしろとアンナティーヤにも言われているだろうが!」

「閣下、我が娘がきっと何か怒らせるような発言をしたのでしょう…ほら、謝れ」

「……私、謝罪するつもりはございませんわ」

「お前っ!」


どちらも譲らぬ膠着状態であり、また互いの父親が謝罪する姿勢を見せたことで何とか収まった。


しかし、帰り際に睨みつけて来たユグドール様にわざと微笑んで見せれば、口元をひん曲げて出て行った。

お父様は私に詳しい話を求めたが、「馬が合わないようですわ」と答えると、反省のためしばらく部屋に籠ることになった。


これで、邪魔されることなく計画を練れるわね。

ふふ、と機嫌よく紙を広げ、ペンで書き進める。


最終目標:ラスボスを救いつつ殺されない

最低条件:私が生き延びる

やること:護衛探し、ラスボスに関連する情報収集、婚約者の説得


護衛探しは、人材確保という名目でスカウトしましょう。一応国境の森があるけれど、いつ誰が侵入するかもわからない土地柄だもの。となれば、私兵の訓練も確認しておくと良いかしら。犯罪者対策では私兵の配置や予想される逃走経路の監視も必要よね。となると、地元住民の理解と協力を促す説明が必要ね。やはり権威と信頼は併せ持つのが大切だもの。なるべく仲介が入らないよう、私直々に行くのが良いかしら。となると、護衛スカウトは最優先事項かしらね?


ナノハが言うには、ラスボスは物語で何故か人間を片っ端から襲うようになるらしい。襲う理由は明言されていない。ただ、その連続殺人未遂事件がどういうわけか一介の学生や教師に任せられ、解決する展開が良く分からないけれど。将来のための予行演習かしら?基本的に貴族が通う学園だけあって、求められる水準が高いのでしょうね。

まぁそれは良いとして、学園とラスボスの関係についても情報収集が必要かしら。いえ、それ以上にまずはなぜラスボスが突然現れるのか。なぜ突然人を襲うのか。どのように対処するべきなのか、考えなくては。


ラスボスは我が子爵領の森の奥の館に住んでいて、森へは許可なく立ち入ることができない。ラスボスはこれまで情報が入ってこなかった程に静かなのだ。それが暴れ始めるのが、どうにも不可思議だ。


ナノハは、ラスボスは意味もなく人を傷つけないが、かつて恋人を傷つけ殺した貴族らを皆殺しにしたという。別にそれはラスボスがおかしいのではなく、貴族が愚かであったのだ。誰かを大切に思う心があるのなら、話も通じるかもしれない。

だが、恋人以外に話しかけられてまともな返答を期待できるのか。現に物語において、私をはじめ誰に対しても言葉のみでの戦いを挑まなかった。闇属性の魔術は効果がハッキリしていないため断言できないが、恐らく攻撃ばかりだったはずだ。


お手上げだわ…いえ、ラスボスに直接干渉が難しくとも、周辺環境を変えればあるいは…といったところかしら?

攻撃ばかりではなく情報伝達にも私兵を割く必要があるかもしれないわ。そうすれば、ラスボスの動きに合わせて住民の避難や対策も打てるようになるでしょう。

そうね、確か王都には仕事にあぶれた者たちもいるみたいだから、あちらにも求人を出そうかしら。幸いこの国では住民の移住は可能で、定期的に馬車が通るから引っ越しはそれに乗って行われる。国が主導だから護衛も雇われているし、賃料を払えば安全に移動できるのよね。

名目は、……盗賊や魔物、馬車事故、道路整備等が良いかしら?あとはお忍びの貴族がいるとか零せば誤魔化せそうよね。横暴な貴族はどこにでもいるし、トラブルの回避ができるとわかれば素直に従ってくれるでしょう。


さて、ラスボスの情報は過去のものも重要よね。少なくとも一度貴族と揉めたのなら、何らかの記録はあるはずよ。貴族と揉めてただでは済まないから、きっと犯人を捕まえようとしたのではないかしら。どれくらい前の話かわからないから、時間はかかりそうね。気長にやりましょう。できれば信頼できる人手が欲しいけれど。我が家門というよりも、私にそれ程使える家臣がいないのよね。何分まだ七歳になったばかりだから。

家庭教師にも手紙を書こうかしら。もしかすると良い人材が見つかるかもしれないわ。


そして、婚約者の説得…これが一番難しいわ。ナノハの言い分では、私はやがてラスボスの恋人の影…つまり身代わりになるそうだけど。私は子爵家の次期当主であるし、そうするとラスボスを配偶者として迎えることになるのかしら?お父様が決めた縁談を断るのは難しいけれど不可能ではない。

でも、相手が侯爵家なのだからそれよりも下位の婚約者は望めないと言われるでしょう。センティーネルス家に喧嘩を売るようなものだから。お父様は子爵位に上がりたての我が家門を何とか支えようとしているわ。それなのに、次期当主たる私がそれを邪魔すれば、部屋に拘束どころでは済まないでしょうね。

あぁ、嫌になる。籠の鳥はつまらないのに。


破談の前に、ラスボスを口説き落とす必要があるのね、きっと。正確には、捕縛だけれど。無理にでも幸せにしないとまた声が煩いから。はぁ。

子爵家の運営は私が担当するから、せめて持ち前の闇の魔術で防衛面を担ってくれないかしら?仮にも貴族を殺すならその周辺の手練れを軽く捻る実力があるのでしょうし。無職を遊ばせる余裕は我が家門にはないのだもの。


そのうち森にラスボスの館探しに行くなら、許可証の手続きも求人募集と同時にやっておきましょう。あとは、突然私兵を増やしたら国内では謀反か、国外では戦争かと疑われるから、それについても名目を用意しないと。

治安維持?まぁ、微妙なところよね。住民との協力を強調し、政策の評判をじわりと上げ噂を広げつつ、何らかの利を国内外に配ると良いわね。噂をコントロールできると尚良いわ。お父様にそちら方面について相談しないとね。あれでも一応、私の頭は信用しているみたいだから。


粗方紙にメモをしたので、背を伸ばし首を揉む。口角をにっと上げて、呼び鈴を鳴らした。


「お父様に謁見許可をお願いね」

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