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『オシガタリ』とはかくも恐ろしい

『だ〜〜めだめだめ、ぜえ〜〜ったいに、だめよっ!!』

「煩いわね、どちら様?名を名乗りなさい」

『アタシ?アタシの名前はコトブキナノハ!ナノハでいいわ!って、そういうあなたこそ、誰よっ?!』

「わたくしは………」


薄ぼんやりとした空間の中、体の怠さと裏腹に明快な声が鳴り響く。少なくとも自身のものでも、知り合いのものでもないその声は、記憶の持ち主と同じと気づいた。


姿は見えないけれど、確かにすぐそこに誰かいるのだ。これは夢だろうか。


『ちょっとおー!アタシにばっか名乗らせてないで、あなたも名乗りなさいよね!不公平でしょーが!!』

「あら、御免遊ばせ。わたくし、…………ですの」

『ふぅーーーん?ま、良いけどね。………やっぱりそうなのか………』

「何か?」

『あーーいやいや、気にしないで?!』


動揺のせいか、声がひっくり返る。まぁそれは置いておくとして。一体何の用だろう、と疑問が浮かぶ。これまでこのようなことは起こらなかったのだ。それが突然となれば、用があると考えていいだろう。


「御用は何?コトブキナノハ」

『だからナノハで良いって!…………さん。そうそう、用ってあーーーー!もうもう、そういえば言わなきゃいけないことが有ったんだよ~~!』

「落ち着きなさい、だから今それを聞いているんじゃないの」

『そうだった!って、ねぇ、…………。あなた、アタシのサイオシを対処するとか云々カンヌン言ってたでしょう?!アタシ、どうしても許せないんだけど!!対処って要するに、ころ、ころ、っうわあ〜〜ん!やだやだやだ、アタシのサイオシをころ、ないで〜〜〜〜!!』

「うっ……」


頭の中に響いてくる甲高い音に、くらくらする。なんて面倒なの、と思いつつ、今現在注視している存在の名前に反応する。


「その、『サイオシ』の話が聞きたいのだけれど」

『え?!聞いてくれる?!聞いてくれるの?!うっそ〜嬉しすぎるよ!だって最近じゃあ誰も聞いてくんないんだもん〜!あのねあのね、サイオシことラスボス様はね〜、まず何より顔がいい。髪は灰色と銀色の混ざった感じで〜、キューティクルのはずなのに何故かいつも薄汚れているって原作では有ったけどさ~、それって館がホコリまみれだからなんだよ!!でもね、とにかく顔がいいの!!あと、瞳の色はね?!暁色ってわかるかな〜?!オレンジや黄色、赤、紫、青、そして光が混ざったビューティフルなグラデーションでね?!あとあと、声がすっごくエロ……いやいや、かっこいいんだよ!それで、昔フードを被ったまま出かけたら老若男女にうっとりされるくらいのいい声でね〜?!』

「ちょ、貴方、少しはお待ちなさい、確かに容姿の情報はありがたいけれど、もう少し沢山情報を、特に物語にどう関わっているのか教えて頂戴!」


余りの早口に、思わず声を張り上げて遮った。今知りたいのは容姿の細やかな情報ではなく、今後どう関わりを持つのかの情報なのだ。

少し止まり、再びナノハが話し出した。


『ごっめ〜〜ん!あのねあのね、まず大前提で物語について話さなきゃだよねっ?!この物語は珍しく短いタイトルのゲームで"愛故(あいゆえ)に"って言うんだけど〜、そのシンプルさが物語を引き立ててるよね!それで世界観はファンタジー…つまり、アタシの故郷とは異なる世界、エリュノーディスって世界を舞台にしてるの。』

「エリュノーディス……確かに、我が国を含めた世界各国を総称してエリュノーディスと言うな……続けなさい」

『はーーい!そして、エリュノーディスの内主に描かれるのがグランドキューマって国、その中でも主人公と主要メンバーが集まるグラットリーズ学園。ここがゲームの舞台なの。』

「ゲーム?」

『えーと、物語のこと!んで、回想というかプロローグ的に、珍しくヒロイン以外が登場するのが特徴でさ、そこでいきなりサイオシとあなたが遭遇するシーンがあるの!』


んっ、と思わず息を呑んだ。声の主から記憶を一部流されたとはいえ、全てを覚えているわけではないからだ。それほど私の中で物語の場面が印象に残っていなかったということか。それとも、このナノハにとってサイオシが重要すぎて同時に登場する"私"の存在感が薄くなったのか。


『サイオシは何か、ううん、誰かを探していたみたいでね?「ドコダ……ドコニイル…」ってセリフがあったわ!でも最初は黒い影として登場するから、わかったのは兎に角声がエロ…かっこいいってことくらいかなっ?!んで、偶々迷子になっていたのかな?あなたがいてね、あなたを見つけた瞬間サイオシはあなたに勢い良く近づいて「オマエか……?」って尋ねるの。そしてあなたは「……」というセリフがあってね、いや無言なんだけど、多分怖かったのかな?動けずにいるあなたに、サイオシは闇の魔術であなたの口に黒い霧を送り込んで、その後あなたは倒れるの。血を吐いてね。スプラッタな音が鳴ったから、すごく痛そうだったけど。そして、サイオシはあなたを観察して、「チガウノカ……」って呟いてね?かわいいんだから〜!うおっほん、とにかく、サイオシの初登場シーンはそれで終わっちゃったわ!』

「わたくし、それで死んだのではないかしら?なぜサイオシは、わたくしを殺さなかったの?」

『あ〜、それ謎なんだよね〜!でもでも、一説というかコウサツハンによるとね、昔の恋人と似ていたからなんじゃないかって〜!青い髪だからじゃないかな?濃さも髪の長さも似てたと思うよ?キャラデザからして凄く似てた!だからアタシ、もしテンプレで異世界転生したらあなたになりたいと思ってたのよ〜!!だってヒロインはサイオシを殺しちゃうのよ?!幾ら他の男の手を借りたからって間接だろうが死因作ったのはまず間違いなくヒロインよ!!アタシあの子にだけは絶対転生したくなかったの!!』

「ヒロインとは?」

『あ〜〜、ヒロインってのはね〜、』


とこのように、声の主を問い詰め続けると、以下の情報が使えそうであった。

一つ、二度目に私が大怪我を負うのはヒロインという娘のせいであること。ヒロインと友人になった私は、ヒロインと間違えられて罠にかかり、命を落としかける。しかし、ヒロインという娘は私を想って泣くばかり。そこに現れたのが、私の婚約者であるユグドール・ラ・センティーネルスである。兄と比べて聖属性の魔術ができないことをからかわれ落ち込んでいたが、ヒロインのために汗水垂らして何度も挑戦し、私を見つけ出した上癒しをかけることができたのだと。学園とセンティーネルス家は離れており、長男は卒業して次期侯爵家当主の役割を家でこなしていた。それ故貴重な癒しの術をかけられるのはユグドールだけだったのだ。

ユグドールはその後魔術を極め、遂に実力で兄を超える。それはヒロインの応援もあったことで、ユグドールとヒロインは仲睦まじい関係になる。が、婚約者である私がいるため、叶わぬ恋として学園の間のみの交流を誓うシーンがあったらしい。


一つ、ヒロインがサイオシのラスボスを倒すが、その協力者はユグドールを始めとする学園関係者であること。その中に私もいて、サイオシに真っ先に狙われ、足を負傷。後方支援に専念するも、最後にヒロインがサイオシに襲われ、咄嗟に庇ってしまうらしい。結局私はサイオシに殺され、それに激怒したヒロインが仲間の魔術効果を増幅する。対抗しようとしたサイオシが幻覚の術を行使するも、ユグドールが反転の術でサイオシに幻覚を返す。この攻撃はヒロインが増幅したことにより過剰な苦痛を伴い、サイオシは恋人の死の瞬間のショックを何十倍にも味わい消滅したのだとか。


『あんな、あんな最期……悲しすぎる〜〜うわあ〜〜〜〜〜〜ん!!』

「っ、わかったわ、わかったわよ。あなたの望み通りに、そのサイオシとやらをできる限り手助けすればいいのよね?」

『うん〜〜、うん〜〜、あのね、アタシ、コウサツハンが言っていた通り、あなたはサイオシにとって恋人の影だと思うの』

「……え?」

『生まれ変わりにしては瞳の色が違ったり、サイオシがチガウノカって呟いたりするから生まれ変わりとかではないかもだけどさ。ぐっううっ、でも、サイオシが消滅したのは、ヒロインのせいでも、ユグドールのせいでもなくてね、あなたを自らの手でころ、ころっちゃったから、そのショックで余計に苦しんだんじゃないかって言われているの。だからね、どうか、どうか、サイオシと仲良くしてあげてね?アタシ、サイオシは実は繊細説信じてるから、泣かせたらだめだよ?わかった?』

「…はぁ、まぁ、泣かせるどころかこちらは殺されかけたり殺されたりしているけれどね…泣きたいのは普通こちらだと思うのだけど」

『とにかく!2人のハッピーエンド、アタシ見守ってるから!もしまたサイオシをころ、っころっしようとしたら、アタシがあなたを絶対止めるわ!いい?!』

「ええ、善処しましょう」

『良かった〜〜〜!あ〜〜もう、ほんと、アタシ、もう、……ひっく、ひっ、うぐっ、サイオシよ幸せにねえ〜〜〜!!』


姿は見えずとも、ぐずっているのはわかった。まだまだオシガタリしたりないらしい。しかし、今日のこの情報を踏まえて早く対策に動きたい。

果たしていつ元に戻れるのか。


『もっともっと、アタシのサイオシの愛すべきところを、あなたに、伝えるわあ〜〜っうっ、そしたら、あなたも、少しは優しくなりそうっぐ、だからあ〜〜』


「はあ」


どうやら、このオシガタリは、貴族の礼儀作法の授業よりも厄介なものらしかった。

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