幼馴染はミニクロワッサンの薫りがするのです
今日はなろうのお友達のお話のテイストを浴びて書きました。
なんの因果か腐れ縁か、幼馴染の彩夏とは度々クラスが一緒になる。
小学校も低学年の頃なら「帰り道も一緒でいいわね」なんて親も喜んでいたけど、こちとら親の思惑からはドロップアウトするものなので、集団登校の縛りが解けた5、6年生にもなると悪口の応酬で口げんかの挙句、行きも帰りもソッポ状態!
まあいいのですよ。それで!!
どこもかしこもすくすく成長している彩夏は担任の相沢先生からスカウトされてバスケ部へ入部!
一方、当時のオレは……運動会とかで「前へならえ!」の号令が掛かると腰に手を当てる最前列!のチンチクリン!!
その割にオツム(オムツじゃねーよ!!)だけは早熟で、彩夏の色んな所へ目が行ってドキドキだったんだ!
たまに彩夏が“昔のノリ”で仕掛けてくるイタズラで……オレに後ろから抱き付いたりするものだから、オレの後頭部に彩夏の柔らかいものが当たって、口から心臓が飛び出そうになった事がある。実際に口から出たのは「ヤメろよ!!うっぜーなー!!」って言葉だったけど……
そんな“黒歴史”を持つオレは中学に上がると“ロードオブ厨二”をまっしぐらの“異端児”。
彩夏は“ロードオブ美少女”を着々と歩み、クラスの“王女様”の立ち位置!
だもんで、中一、中三は同じクラスだったのにまったく会話しなかった。
そんな“王女様” 彩夏の第一志望校は有名女子大の付属だったから……
公立狙いのオレは「これでやっと腐れ縁が切れる!!」と清々した!!
でも、ほんのちょっとだけ……物足りない感じがしたりしてた。
ほんの僅かだけどね!
ところがですよ!!
いつもは風邪ひとつひかない彩夏が事もあろうに私立受験の当日にダウン!
試験を受けられなくなった。
オレも滑り止めの受験があったのでお見舞いにも寄れずに試験会場へ向かったのだけど、帰りの電車の中でスマホが鳴った。
彩夏からのメッセだった。
『試験お疲れ様!』
「ありがとう!彩夏、残念だったな。具合どう?」
『すっごく悪い!!!死にそう!!!だからカメリア堂のミニクロワッサン買って来て!!』
こんな事を書かれちゃ、「例え日頃は国交断絶状態でも行くのが男!!」と駅前のカメリア堂でミニクロワッサンとミニチョコクロワッサンを一袋ずつ買って彩夏の家へ……
ドアを開けたくれたオバサンも意気消沈していて、見るのも辛かったけれど……彩夏の部屋へ通してくれた。
部屋に入ると、さっきまで布団を被って泣いていたのか、彩夏はボサッ!とした髪でカメの様に顔を出した。
「なんだ!小谷くんかと思ったら大樹か!」
「悪かったな!イケメンじゃなくて!」
「まあ、仕方ないよね……小谷くんは、今日は本命の快晴高校の受験でそれどこじゃないから! 単なる滑り止め受験のアンタとは違うんだから!」
小谷は学年一の秀才でイケメン、女子の憧れの的で……「実は彩夏と付き合っている」と言う噂まであった。
本来なら買って来たミニクロワッサン達を投げ付けてソッコー帰るところだけど、「今は彩夏が一番辛い時だから」とグッ!と我慢してベッド脇のカーペットの上に正座した。
「頼まれたミニクロワッサン買って来た」
「ちょうだい!」
二袋とも口を開けて渡してやると彩夏はミニクロワッサンとミニチョコクロワッサンを次々と口に放り込み、オレにペットボトルのジュースの口も開けさせてグビグビ飲んだ。
あまりの勢いにちょっと驚いていると彩夏から「見るな!スケベ!!」と怒られた。
--------------------------------------------------------------------
結局、彩夏はオレと同じ高校に進学し1年が過ぎた。
天文部に入部したオレは初めての春合宿の前に張り切り過ぎて風邪をひいてしまい……
その結果、合宿に参加できないばかりかせっかくの春休みにこうして部屋で寝込んでいる。
ドアチャイムの鳴る音が微かに聞こえて……
「まあ!!彩夏ちゃん!!久しぶり!!」とオフクロのはしゃぐ声が聞こえた。
やがてトントンと階段を昇る足音がしてドアがコンコン!とノックされた。
オレはなんだが気恥ずかしく寝たふりを決め込んでいるとドアがそっと開いた。
ふんわりと花の香りがして、オレの机の上にコトリ!と花瓶?が置かれる音がした。
そしていつかのオレの様に、彩夏がベッド脇にペタン!と座る気配がする。
「なんだろう??」
不意に遠い昔を思い出してオレの胸はドキドキする……
ガザガザガサ!
次の瞬間、袋を開ける音がしてモシャモシャ咀嚼する音が……
「ええええ???!!!!」
思わず薄目を開けたら目の前に、両手にミニクロワッサンを持ち口をモグモグさせながらグフフと笑う彩夏が居る!
「なんだよ!!お前!!」
「ほらっ!やっぱり“狸”だった」
「ウッセーな~!人の部屋で勝手にもの食うなよ!」
「他に言う事ないの?」
「それって!オレへのお見舞いじゃないの?!勝手に“お持たせ”にするなよな!」
「他には?!」
「……お花、ありがとう」
「他には?!!」
「……その、なんだ! そんな風に頬張ってると、せっかくの美人が台無しだぜ!」
彩夏は強く頭を振って更に聞いて来る。
「他には??!!」
そんな事いわれても!!思い付かない……
しばし気まずい沈黙が流れて……彩夏はゴクリ!と嚥下し薄くため息を付いた。
そのため息にオレの胸はチリリ!と痛む。
といきなり!!
オレの両頬は彩夏の手のひらに包まれ、彩夏とくちびるが重なった。
「あの受験の日。実は私、半分ズル休みしたんだ……大樹と別れたくなかったから」
顔を真っ赤にして話してくれる彩夏は全てが天使だった!!
その彩夏の事を!!
オレはこんなにも好きだったんだ!!
オレにとって……
幼馴染の彩夏はこの世にたったひとりきりの大切な女の子で……ミニクロワッサンの薫りがする事を……この時、オレは初めて知った。
おしまい
こんな感じで……少しは可愛いく書けたかな??
ご感想、レビュー、ブクマ、ご評価、いいね 切に切にお待ちしています!!