授業開始
得意科目は国語です。苦手科目は数学です。…高校って、なんの授業あったっけ?
「初めまして、長月まひるですよろしく。」
「はいじゃあ窓際の一番後ろが空いてるからそこに。」
「はい」
形だけ、とはいえ一応転校生なので挨拶をすませ、好奇の視線を浴びながら指定された席に着く。
教科書も何も入っていないスクールバッグを机に掛けて、どこかやる気ない先生の話を聞く。すでに日常の話に戻っていた。
チャイムが鳴り、1限までの5分間の休憩が始まる。
まぁ、予想どおりかな…
「どこから来たの?」
「私酒井由香。部活に入る予定ある?」
「3年から転校って大変じゃない?進学するの?」
質問責めになるよね、そりゃあ。
高校って普通転校しないし。
ひとつひとつに、適当に愛想が悪くない程度に答える。印象が悪くなければいい。
5分はあっという間に過ぎて(在学中から。ここ10分にしてくれないかなぁ)、1限の日本史の先生が入ってくる。
懐かしいなぁ…
点呼を取り、さらりと名前が呼ばれ(もしかしたら覚えてないのかもしれない)、授業が始まる。
教科書はすべて机の中に入れてあり、その中から世界史の教科書を引っ張り出す。
しかし、覚えている限りでは机に教科書がおさまらなかった気がするけど…教科書減ったかな。
まぁ教科書があると言えどもそう真面目に授業を受ける必要はない。試験やレポートの類は一切免除だし、授業で指されたときに答えるだけの努力をすればいい。
…あれ、指されるって方言だっけ?
まぁいいや、世界史世界史。
とりあえず教科書に目を通す。うん、一般常識で対応できる。
本当は中世欧州が得意だけど、そうは言うまい。
本来の目的は授業を受けることじゃない。
鞄の中からA5のノートを出し、5分間の休憩時間に聞いた学校の情報を書き込む。
女子バスケ部は廃れてるけど先生が張り切っててうざいとか、物理部は本当に実在するか謎だとか。
たかが5分されど5分。
私がこの学校に来た理由。
この学校の生徒の、意識調査である。
私はプロの派遣員ってやつで、TVでよく問題になっているような日雇いだったり3カ月だったりの短期仕事ではなく、半年以上、場合によっては3年以上の仕事を請け負うような派遣会社に勤務している。
今回は約1年、卒業までの仕事になる予定だが、実は今までの仕事でぶっちぎり長かったりする。
いつもは1週間とか、短い周期の仕事に飛び回っていたのだが今回高校に入らないといけないと云うことで、最年少である私の仕事になった。
ぶっちゃけ、2年ぶりの母校にテンションが上がりすぎて酷いことになっているのだが、それは出さない。
1年間、頑張らなければ。