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勇気ある選択

作者: 砂虎

万能の天才として世界にその名を知られる我が国の偉人アリウスは愛国心に燃える10代の頃、軍人になることを夢見ていた。

しかし彼は軍人になれなかった。あろうことか万能の天才は士官学校の筆記試験に落ちたのである。


彼を落第させた試験の問題は以下のようなものだった。



セルドンの戦いにおいて将軍ガレアルは兵数に勝る蛮族に対抗するため篝火の前に立ち

自軍の兵士30名全員に秘蔵の酒を振る舞いながら明日の戦いでは自分が先頭に立って突撃すると演説した。

それに対し参謀のアルマンは将軍が死ねば指揮系統が崩れ全軍が危険に晒されると警告し将軍を諌めた。

兵士の一人ロジャーはならば自分が将軍の剣を貰い受け先頭に立つと志願した。

副将のパンネルはこの戦力差は戦術の工夫で覆せるものではないと撤退を進言した。


彼らの中で最も勇気ある選択をしたものは誰か、その理由も合わせて回答せよ。



これに対する万能の天才アリウスの答えは以下のようなものだった。



この中に勇気ある選択をしたものはいない。

彼ら「我が国の兵士と認められた30余名」は篝火にあたり高価な酒を味わいながら

その横で寒さに震え飢えに苦しむ5000人の亜人奴隷兵たちに対し何の気遣いも見せなかった。

それでもあえて一人を選ぶとするならば

晩年にこのことを後悔し教会で懺悔したことで破門された兵士ロドイックが「遅すぎた勇者」と言えよう。



現代人である読者諸兄らには理解しがたいだろうが

アリウスの回答は奴隷制によって繁栄する祖国への反逆行為であり死刑となる可能性すらあり得た。

しかしアリウスは生き延びた。彼に渡された不合格通知は以下のようなものだった。



王立士官学校は貴君に本学の学生たる適性なしと見なしここに不合格を通知します。

貴君は先の受験の論述問題において「勇気ある選択」をしたと考えているでしょうがそれは間違いです。

物事における正解は時代ごとの価値観によって変化するものです。

一方でどの時代においても通用する普遍的な正解も存在します。

それは自分の人生を精一杯生きるということです。

もしも採点者が私以外の教官であれば貴君はたった一枚の紙切れに書いた皮肉によって死んでいました。

実技を含む得点の高さ(合格していれば貴君は歴代1位の成績で首席でした)から

貴君が祖国の宝と呼ぶべき有望な若者であることは疑いようがありません。

その才能を下らない度胸試しで無駄にするような真似はこれで最後にして下さい。


いつか貴君の回答が正解となる日がこの国にも訪れるでしょう。

あるいは貴君こそがそれを正解にする人なのかもしれません。

この不合格通知が貴君が命を大切にするきっかけとなることを祈っています。




この「アリウスの勇気ある選択」の逸話は20年前の学習要項改定によって削除されるまでの間

高等教育を受けた者ならば誰もが知っている有名なエピソードだった。

大統領となったアリウスが亜人奴隷解放令を行ってから今年で100周年となるが

現代の大統領候補たちは時よ戻れと言わんばかりに「亜人の壁」建設を訴えている。

アリウスの命を救った名もなき採点者は物事における正解は時代によって変化すると語った。

同時にどの時代においても通用する普遍的な正解も存在するとも語っている。

仲間を守るという行為は社会的動物である人類にとって普遍的な正解であると私は信じている。

隣人を見捨て壁の向こうへと追いやる生き方が胸をはれる「精一杯の生き方」といえるのか。

読者諸兄がこの問題について真剣に向き合い次の選挙で勇気ある選択をすることを祈っている。


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