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勇者はやがて魔王となる  作者: 緑川
本編

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21/53

勇者VS勇者一行

「ヒスロア・ノースドラゴン」


「ウェストラ・イミテイト」


「カースッ・アルマーニ‼︎」


 静寂。


「身を切り裂いて……」


「己を成せ」

「己を成せ」


 二者の詠唱が重なるとともに、靄の揺蕩う其々の瓜二つな姿の分身が切り裂かれ、蜃気楼は霧散した。


 ウェストラは二人に、勇者は五人へと。


 巨躯に匹敵する肥大化した腕を振り翳し、耳を劈くかの如く咆哮を上げて、突き進む。


 五人へと為った勇者は離散する。


 カースに二人を残し、自らを含む二人で血気盛んなウェストラを囲った。


 土石と砂埃が舞い上がる最中にも、煙の影から仄かに浮かび上がるカースは、無闇に縦横無尽に両腕を振るっていた。


「……」


 ポタ。

 

 たった一滴の清澄なる透き通った雫が、勇者の肩先の鎧を掠めて、糸も容易く其の身を切り裂いた。

 

 そして、勇者の鎧をも貫く、大雨が降り注ぐ。


「爆雷」


 幾千万を超える黄金を帯びた雷光が疾風迅雷の如くに迸り、俄かに紅き光輝を灯す。


 囂々たる爆炎が辺り一帯を覆い尽くした。


 爆風に髪を靡かせるウェストラは周囲に目を凝らしつつ、魔導書の新たなる頁を疾くに開く。


 暴れ回っていた筈の精霊が、眠りに堕ちたかのように、ぐったりと項垂れて静かに目を瞑っていた。


「汝、我の求めに今一度、応えよ」

「聖なる光を帯びて、獰悪を極めし真似事を為す憐れな賢者を檻に閉ざせ」


 神出鬼没な勇者たちが唐突に言葉を放つ。


 三人目の勇者が爆炎が盛んに燃え上がる中、心から物ともせずに猪突猛進に突き抜ける。


「万、勇者、成せ。律せ!か……」

「律せ」


 紅き瞳が異なる水晶体へと変わりゆく。


「チッ!」

「サンクトゥスカヴェア」


 一人の勇者が瞬く間に駆け出し、一瞬にしてウェストラの懐に掻い潜った。


 鳥籠たる牢に閉ざされた二人。狭き空間で其々の刃渡りの異なる刃が交差する。


 氷剣の鋒が鉄格子にぶつかり、思わぬように振るえぬ最中に、短剣を存分に振るう。


 胸を容易く貫くとともに、盾代わりに勇者を二人の視線の前に向けた。


「爆ぜろ」


 だが、勇者の全身が燦々たる灯火に満たされた。


「はっ⁉︎」


 再び、轟音とともに爆ぜる。


 逃げ場のないウェストラは、猛き紅焔と爆煙に瞬く間に呑み込まれていく。


 その頃、遠方で見ていた白装束たち。


「ど、どうされますか⁉︎ ゆ、勇者様の増援に……行かれた方が」


 一人の白装束の男が戦慄く。


「不要。あれ程の戦闘では、下手な助力は却って足手纏いであろう。今は此処で様子を窺いましょう」


「……ハッ。承知致しました」


「それにしても、凄まじいですね。これが勇者……まるで人の域を超越した厄災のようですね」


 ウェストラは灰も残らぬほどに焼け焦げていくが、幾度となくその身を立ち所に治癒を繰り返し、かろうじて原型を保っていた。


 そんな真っ只中、勇者は燃え上がる炎の渦へと悠然と闊歩し、歩み寄っていく。


 無愛想極まる面差しに紅き鱗を纏い、さながら赤龍のような形相となって、跪くように蹲ったウェストラを、侮蔑を含んだ眼差しで、ただただ手を拱く。


 そして、瞼から剥き出しになった鋭い眼球の矛先を勇者へと向け、未だ尚、灰はおろか、燃えることすらしない魔導書を握りしめる。


「っっ‼︎」


「この炎の中では、呼吸することさえままならないだろう。お前は焼き尽くされて死にゆく定めだ」


「なん。っで先代を……殺した?」


 勇者はその一言に、限りない狂気を露わにする。


 鬼気迫る形相を浮かべ、空を裂くような咆哮とともに土石の刃を頭上へと振り下ろした。


 その瞬間、ウェストラは静かに微笑んだ。


 眼前に迫った刃は、自らを禦ぐ氷の仮面となって形を変えていき、粉砕音が響き渡る。


「爆ぜろ」

「解」


 三度、ウェストラの懐へ潜り込む。


 その言葉を発した途端、印を結ぶ手から上腕を覆い隠す程の爆炎を放った。


 ただ、瞠目する。


 右腕の有様を。


「乱用し過ぎた結果だ」


「これがリスクか――――」


 三度、閃光。


 迫り来る業火から逃げるように、退く。


 満身創痍のウェストラは、膝立ちで立ち尽くし、茫然と天を仰ぐ。


「ハァ……。此処が終着点か」


 ガラ空きの喉笛に刃の鋒を添え、侮蔑を含むように見下ろしていた。


「言い遺したことはあるか」


「死ねよ、贋作」


「まだ死ぬ訳にはいかないんだ」

 

 勇者を呑み込むほどの人影が、背後から包み込むように覆い隠した。


「ヴァァァァ‼︎」


 徐に見上げる勇者の頭上に、両の手を重ねた鉄槌が降り掛かる。

 

 前髪に触れる寸前、大地を踏みしめる自らの足場を泥濘に嵌め、弧を描いた鉄拳は、掠めるだけで、カースの眼下の大地に叩きつけられた。


 土石の雨が飛び交い、粉塵が舞い上がる。


 ウェストラを挟み込むように、双方は数メートルと距離を空け、悠然と睨み合う。


 大地に大剣を突き立てるとともに、忽然と宙に刀を創り出した。


「お前はこの刃の脅威を、どれ程理解している?」


「……」

 

 柄を両の手で握りしめ、重心を低く落としながら、眼下に紫紺の陣が色濃く発光する。


「それは、お互い様だろう」


「さっさと逃げろ、馬鹿がっ!」


「成長しない者などに、明日はない」


「成長?己の力量を見誤るなよ」


 疾くに陣に足を乗せ、刃を斜に振るう。


 目にも止まらぬ速さを維持し、ウェストラをも纏めて断ち切るように、迫り来る。


 ウェストラの瞳に映り込む、鋼の刃。


 だが、其を遮って、無数の鱗が宙に舞う。


「っ⁉︎」


 数多の鱗を何重にも重ね、幾層もの楯なる防具を右腕へと集中し、眼前へと翳した。


 一縷の火花が迸り、耳を劈く金属音が鳴り響く。


 そして、拳は虎視眈々と勇者の顔面を捉えていた。


「此処で無様に死ぬといい」

「この程度でこの刃を禦ぎ切れるとでも?」


 前傾姿勢に身構えた巨躯が、後ずさる様に大地を抉り取りながら徐々に押されていく。


「今死して、無き明日を想え」


「っ⁉︎ 死ぬ気か!」


 ウェストラの新たなる詠唱に、カースは思わず一瞥する。


「無論、全員道連れだ!」


「――――フッ」


 カースは静かに微笑んだ。


「余所見か?随分と余裕があるようだな。紅、白、黄、蒼……」


 膨らむ籠手から燻る炎。

 発した順に色が変わっていく。


 未だ尚、渾身の拳を惜しむ中でも、時間は流れ、詠唱は終わりへと進んでいく。


「サラマンダー――」

「供し、泡砲刺衝、大気を変えよ」

「ヴァァァッッ!」


 三者の得物は其々の元へと牙を向く。

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