8章 見ておれ!絶対に見返してやる!
見事な逆ギレで家を飛び出したギンガリオン。
彼の頭部に備え付けられている電子頭脳のコンピュータがフル稼働。
目的は英智君を見返すため。
同型機であれば変な意地を張らず素直に謝る、という答えが導き出されるのであるが、彼は違う。
彼のプログラムの中には素直に謝る、というデータは存在していないのだ。
普段使われていない錆びついた電磁頭脳による計算の結果、導き出された答え。
それは、「悪の組織を見つけ出し、殲滅させる。さすれば私の正しさをエーチ君に証明することが出来る!」という滅茶苦茶な結論。
自分に対し英智が土下座して謝る姿が脳内コンピューターに映し出され、俄然やる気が湧き上がる。
「ふふふ、よ~~しやるぞ!敵感知センサー発動。」
敵感知センサーは右側頭部のアンテナから特殊な電波を発信。
半径10㎞内の敵を察知することが出来る・・・のだが。
「センサーに反応なし、か。」
ギンガリオンは知らない。
敵感知センサーは地球に墜落時の影響で壊れていることを。
そして講習をサボり続けていた彼は自身の機能チェックと修理の仕方を学んでいなかった。
「どうやらこの付近にはいないようだな。よし、次だ。」
ギンガリオンは次のポイントへ飛ぶ。
悪の組織がいるかいないかもわからない状況で、闇雲に。
「ふう~~、なんとか借りれましたね。」
レンタル店を後にしてノロノロと帰路へ就くクルサード。
彼の脇には行きと同じように大量のDVDが。
「しかし1回に10枚が限度とか、ちょっと厳しいですね。おかげで何度も足を運ばないといけない。ま、それでも格安で借りれたのでいいですが。」
厳選に厳選を重ねて選んだ10枚。
その為かなりの時間を要した。
「さてと、家に着いたら少し仮眠をとって作業の続きをしましょう。ミア様も学校から直接バイト先に行く、とおっしゃっていましたし。のんびり寝れますね。」
欠伸を噛み殺したその時だった。
にゃ~~。
「むっ、こ、この鳴き声はココちゃん!!」
バ!バ!
と素早く周囲を確認するクルサード。
さっきまでのろのろ歩いていた彼から想像のつかないほどの速い動きだ。
(いた!)
小さな公園の端で丸く蹲る白猫。
そして白猫を囲むように立つ男子中学生3人組。
不敵な笑みを浮かべる彼らの顔と怖がるココちゃんの様子を見て、クルサードは一瞬で理解。
「こら、君たち!そこで何をしているんだ!」
眠気を吹き飛ばして、ココちゃんと3人組の間に割って入る。
(こ、こいつら!)
近付いて気付く。
自分の足元に転がる無数のBB弾。
そして男子中学生達が手にするモデルガンと純白の柔らかな毛が赤みを帯びている痣を眼にして、自分の考えが正しかったことを理解した。
「ちょっとおっさん、邪魔。どいて。」
「俺達、この猫と遊んでいるの。」
「遊んでる?動物に銃を突きつけることが遊びなのか!」
「そうだよ、遊びだよ。おもちゃだしな。」
「おっさん、帰れよ。俺たちのストレス発散の邪魔、するんじゃねえよ。」
へらへら笑う彼等から罪悪感は一切見受けられない。
(こいつ等、吾輩の大切なココちゃんに~~~!)
「なんだ?こいつ、怒っているみたいだぜ。」
「たかが動物だろ?おかしいじゃねえの。」
「おっさん、怪我したくなかったらどきな。」
強そうには全く見えない細身の男性。
中学生達は睨みを利かせればすぐに逃げ出す、と思ったのだろう。
しかし彼らの目測は謝った。
自分達の前にいるのはただの人間ではない。
人間に化けた地球外生命体なのだ。
「そうそう、正義の味方を気取っていたら大怪我するぜ。」
ピキッ!
その一言にクルサードの脳内で何かが切れる音がした。
「正義の、味方・・・。この吾輩が正義の味方だと・・・・。ふふふ・・・。」
悪の組織に属することに誇りを持っているクルサードにとって《正義の味方》は屈辱の何者でもないのだ。
「な、なんだ、こいつ?」
「お、おかしいんじゃねえの?」
肩を震わせ、不気味な笑身を浮かべるクルサードに、中学生男子3人は少したじろぐ。
「許さん!吾輩に与えたこの屈辱、身を持って償ってもらうぞ。餓鬼ども!」
「「「ひぃ!!」」」
3人の口から情けない声が漏れる。
クルサードの右手が突然、大きな鎌に変形したのだ。
3人は揃って腰を抜かす。
「ふふふ、吾輩は戦闘要員ではありません。が、これでも暗黒ノ鮫の一員!貴様らのような小物を消し去るぐらいの力を十分に備えているのですよ。」
一歩一歩相手に恐怖を植え付けるように近づくクルサード。
恐怖のあまりその場から逃げ出すことができない3人。
化け物、と叫ぼうにも言葉がでない。
「悪魔の鉄槌、受けるがいい!処刑執行!」
悲鳴と共に振り下ろされる鎌。
近くで目撃していた鴉達が羽ばたく音と突き刺さる音が公園中に響き渡る。
「・・・・・・・。」
振り下ろされた鎌は3人の眼の前、わずか数ミリの所に突き刺さっていた。
ほんの少しずれていれば自分達の身体に突き刺さっていた、という恐怖が上書きされたことで3人の金縛りが解ける。
「ぎゃああああああ!」
泣け叫びながら逃げ去る3人を見て大満足のクルサード。
「ふふふ、これで彼等には死より恐ろしい恐怖を抱いたに違いない。さぁ、ココちゃん。もう大丈夫ですよ~~。ってあれ?」
後ろにいるはずの白猫の姿はない。
彼女はクルサードが3人組と言い争いをしている隙を見て、すかさず逃げていたのだ。
「あれ、どこにいったのですか?ココちゃ~~ん。まぁ、いいでしょう。彼女は無事なのですから。しかし、これでまたココちゃんへの吾輩の印象がUP。ウフ、ウフフ・・・。」
猫界のマドンナを助けた優越感に浸るクルサード。
しかし今は人間の姿。
彼女は助けてくれた人間が黒猫のクルサードだとは全く知らない。
それ以前に、クルサードを便利屋としか見ておらず、特別な感情など一切抱いていない。
そんな可哀想なクルサードは高らかに笑っていた時だった。
「・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
上空に浮かぶロボット―――ギンガリオンと眼が合う。
(な・・・・、まさか吾輩の行動を見ていたのか?)
その通り。
ギンガリオンは偶然にも一部始終目撃していた。
(拙い。あの機体はZS‐R03型。銀河の十字架が開発した戦闘ロボットではないですか・・・。)
沈黙。
お互い出方を伺っていた。
(いや、大丈夫であろう。誤魔化せば何とかなる。)
「さ、さ~てと、家に帰って借りてきたDVDでも観ようっと。」
白々しいセリフを発してその場を速やかに立ち去ろうとするクルサード。
(見逃してくれ~~。)
しかし、彼の願いは届かなかった。
「見つけたぞ!!!!!」
「ぎゃああああああああ!」