7章「砲撃用意!目標、未確認物体!」
「よし、この場面は使える。」
映像を一旦停止し、シーン全部を切り抜いてデータ変換。
クルサードはただいま自室(本人曰く作業室)にてプロモーションビデオと偽報告用の動画を絶賛制作中。
ちなみに今のは某有名怪獣が出演する特撮映画の自衛隊による攻撃シーン。
「この場面を我々が撮影した動画に追加して、っと。」
撮影の方は(クルサードの不祥事で延期になった以外は)順調に進み、先日無事にクランクアップを迎えた。
しかし戦闘や爆破などの過激なシーンは自分達では撮影できないので映画やドラマなどの使われているシーンを無断使用することにした。
人間に化けたクルサードが近くのレンタル店で大量に借りて確認、使えるシーンを切り取り自分達が撮影した動画に繋げる、という作業を一人で黙々と続けていた。
「う~~、これで半分ぐらいはできたな。」
前足をぐるぐる回し固まった筋肉をほぐす猫の姿をしたクルサード。
「あ~~、眠い。二日徹夜での動画編集作業は心身に堪える・・・。うわっ、眩しい!」
暗闇の中での徹夜作業後すぐの朝の陽射しは目に毒。
たまらず洗面台で顔を洗うことに。
「ふう~~。さてと・・・。」
タオルで顔を拭きながら部屋の端にポツンと置かれている目覚まし時計を見る。
「朝9時30分・・・。仮眠をとる暇はないですね。」
朝10時までに返さないと延滞料金が発生してしまうのだ。
疲労の大あくびを一つ零し、作業室へ戻ったクルサード。
1分後、人間の姿に化けたクルサードは借りたDVDを抱え、レンタル店へ足を向けるのであった。
「ぬおおおおおおおお、何ということだ~~~~。」
ギンガリオンの咆哮が家中に大反響。
家主である英智がもしこの場にいれば「うるさい、近所迷惑だ!」と叱りつけたであろう。
が、当人は只今学校にて勉学中。よって怒られずに済んだ。
「この私があるまじきミスをしてしまうとは!さすが私の好敵手だ。」
テレビ画面に映るキャラクターへ格好良くポーズを決める。
「これではクリアでは無理だ。折角エーチ君にばれないよう徹夜してまでやっていたというのに・・・。」
家主である英智が聞けば、十中八九彼を叱っていたであろう。
「さてと、この場合はどうすればいいのかな?」
テレビの電源を点けたままリビングから離れ、1階の別室へ移動。
パソコンの前に座り、電源を入れる。
「検索、検索。あのボスを簡単に倒す方法。」
ネットで攻略方法を探るギンガリオン。
彼は自分で攻略法を考えることはしない。
思考を巡らす、という行為が大嫌いなのだ。
金属製の指が器用にキーボードを叩き、マウスを操作。
こうして辿り着いた先はいつもお世話になっているゲーム攻略サイト。(違法)
正規ではない裏ワザばかりを公開しており、ゲーム会社から度々閉鎖が求められている、かなり危険なサイトである。
因みにギンガリオンはこのサイトの違法性を十分承知の上で閲覧している。
「えっと何々、・・・ふんふん。ほう、前作でのデータがそのまま流用できると!なるほど・・・。」
正義のロボットとは思えない邪悪な笑い声を見せるギンガリオン。
「違法でも卑怯でも勝てばいい。勝つことが正義!」と豪語するギンガリオンは早速その違法裏ワザを試してみることに。
だがここで問題が一つ発生。
「前作のソフト、どこに置いた?」
片付けや家の手伝いを全くしないギンガリオン。
遊び終えたゲームソフトを片付けるのはいつも英智と美桜なので、どこに何を仕舞われているか全く知らないのだ。
そして人の話を全然聞かない彼はゲームソフトの収納場所を再三教えてもらっているのに、聞き流している為覚えていない。
「そうだ。エーチ君が私に意地悪して隠したのだ!そうに違いない。」
本当はテレビ横に置かれている収納棚に仕舞われているのだが探すこともせずに的外れな結論を導き出すギンガリオン。
「許さんぞエーチ君。この私が正義の鉄槌を振り下ろして見せようぞ。」
身勝手な怒りを振い上げ、2階へ猛進する。
目指すのは英智の寝室。
「エーチ君の考えることだ。自分の寝室に隠しているはず。出入り禁止がなんだ!そんなことで私を止めることなど出来ん。」
『ギンガリオン、入室禁止』の札が提げられた扉を勢いよく開けて英智の部屋へ侵入。
「どこにある!私のゲームソフト!」
ベッドの下を覗き、布団を剥ぎ取り、勉強机の引き出しを全て開けてひっくり返すが目的の物は見つからない。
「くっそ~~。こっちか!」
襖を開けるとそこには目張りしている巨大な段ボールが1つ。
ギンガリオンは躊躇うことなく、封を開けた。
「ほお~~、これは懐かしい物ではないか。」
中身はヒーローの武器や変身グッツなどがたくさん入っていた。
「そういえば、エーチ君も昔はシンタ隊員みたいにいつもこのような物を身に着けていたな~~。」
出会った当時の英智を思い浮かべ、懐かしむ。
「あの頃のエーチ君は素直だったのに・・・。今では私を虐めるばかり。」
それは間違い。
怒られることばかりしているだけで決して虐めてなどはいない。
「おっと、懐かしんでいる場合ではない。目的の品を探さないと。」
ポイ、ポイ。
英智の思い出の品をぞんざいに扱うギンガリオン。
段ボールから次々とおもちゃを放り投げる。
「そうそう。この武器を使うヒーロー戦隊もいたな。これも懐かしいな。―――――おや?」
一定のペースでおもちゃを放り投げていた腕の動きが止まる。
「なんだ、これ?」
それは柄の先の紫の勾玉が特徴的で刃の幅が大きい両手剣だった。
「エーチ君、こんな物も持っていたのか。」
全長1mぐらいはあるだろうか。
他のおもちゃと比べても大きい。
「こんな武器を使うヒーローっていたか?」
興味があることに関しての驚異的な記憶力を発揮するギンガリオン。
地球に来て以降、数々のヒーローモノを見てきたが、目の前の剣だけは記憶データと全く一致しない。
「ふ~~む、ま、いっか。」
考えることが苦手なギンガリオンは思考と共にその両手剣を放り投げる。
「さてと続きだ。エーチ君が隠した私のゲームソフトを見つけ―――――。」
「誰が、何を隠した、だって?」
怒りが込められた低い声。
振り返れば奴がいた!
「え、エーチ君?!」
「お前、俺の部屋で何をしている?」
「何でエーチ君が家に?まだ昼前だぞ?学校は?」
「今日から個人懇談が始まるから午前授業で終わりって、朝伝えただろうが。」
例のごとく、人の話を全く聞いていなかったギンガリオン。
「で、お前は何をしている?」
「そ、それは・・・その・・・。」
「以前、俺の部屋に勝手に入って飲み食い散らかして汚したから、以後一切俺の部屋には入るな、そう言ったよな。」
「そ、それがどうしたのかね。」
立ち上がり虚勢を張って抵抗を試みるギンガリオン。
相手を威圧してこの場を切り抜けようと考えたのだ。
「で、今回はどういうことだ?1階はテレビは点いたままで、パソコンの電源も入れたまま。そして俺の部屋はぐちゃぐちゃ。」
「それは全てエーチ君が悪いからではないか!私のゲームソフトを隠したして、常日頃から意地悪するからいけないのだ!」
「何が意地悪だ!自分で片付けないからだろうが!おまけにゲームソフトは全部1階の収納ケースに直してる、って何回も言っているだろうが!」
自分勝手な言い分を述べるロボットに対して遂に堪忍袋の緒が切れた英智。
日頃積もりに積った鬱憤が大噴火した。
「今度の今度は絶対に許さないぞ。いい加減にしろよ。人の話は聞かない。一日中ゲームやテレビばっかりで何もしない。散らかすだけ散らかして後片付けもしない。何が宇宙の平和を守るロボットだ。自分のことすらまともに出来ない駄目ロボットが。」
「駄目ロボット」の単語に、怒り沸点が低いギンガリオンはキレる。
「宇宙の優秀たる頭脳が集い作られたこの私が駄目ロボットだと!!」
「ああ、そうだよ。どうせ、お前は向こうでも不良品のレッテルが貼られたお荷物ロボットだったんだろうが。」(正解)
「な、なんだと!!」
「何が、悪の組織が地球に攻めてくる、だ。それも嘘なんだろう!嘘やいい訳しかできない、いい加減なロボットが!」
「~~~~~~~~、ぬがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
本日2度目の咆哮。
屋根で羽を休めていた雀達は驚き、空へと逃亡。
「そこまで言うとは!!エーチ君、君には心底失望したよ。」
それは俺のセリフだ!と言い返す英智。
「昔の君はそんないう人間ではなかったのに・・・。いいだろう。それならば私にも意地がある!見ておれ、エーチ君!」
「お、おい!」
窓を開けて外へ飛び出すギンガリオン。
背中から飛行ウイングを展開、そのまま上空へと駆けて行った。
英智は彼を追いかけることが出来なかった。
ギンガリオンの行動が素早かった訳ではない。
ジェットのせいで更に滅茶苦茶となった部屋に愕然のあまり、立ち尽くしていたからだ。
「アイツ・・・・・だから片付けていけよ。」
がっくり肩を落とした。