6章 違和感??
「ボス~~~。」
「シンタ隊員!?」
いつものように自宅にて特撮鑑賞(本人曰く自主トレ)を勤しんでいたギンガリオンの元に晋太が元気よく訪問。
「ど、どうしたのだね!?」
「うん、お姉ちゃんが英智兄ちゃんの家で昼ご飯を食べなさい、って。」と家から持ってきた炒飯が入った弁当(2人分)を見せる。
「おお、これは!ありがたや~ありがたや~。」
神々しく輝く(ように見える)お供え物に拝むギンガリオン。
「それじゃあ、温めるね。」と言いながら晋太はキッチンへ。
「ねえボス。他にも何か作ってもいい?」
「ああいいぞ。好きに使ってくれたまえ。」
家主(居候)の許可を得たので冷蔵庫から卵と牛乳を取り出す晋太。
小学4年生の晋太も料理の心得は多少あり、簡単な料理なら作れる。(母と姉の厳しい指導の賜物だ。)
また英智の家で何度か料理したこともある為、調理器具の場所も把握しており手際よく料理を始める。
「それにしてもさすがミオ君だ。ちゃんと私のご飯の用意をちゃんとしてくれる。それにくらべエーチ君は・・・。」
料理を全くしないギンガリオンはテレビアニメに噛り付きながら家主に対して文句。
勿論晋太の手伝いをするつもりもない。
「私の昼飯も用意せずどこかへ遊びに行って。隊員としての自覚がなさすぎる。」
「うん?最初からお姉ちゃんがボスの分も用意するって話になってたらしいけど、知らなかったの?」
「ああ、全然。」とギンガリオンは答えたがそれは間違い。
英智はちゃんと伝えたがテレビに全神経を集中していたので全く聞いていなかっただけである。
「時にシンタ隊員。私の家に来るのなら、前もって連絡してくれたまえ。私はいつ出撃するかわからないのだからな。」(因みに出撃回数は0。)
「ごめんなさい。ボスからもらった通信機、どこかに無くしちゃって・・・。」
「無くした?」
「うん。家には絶対あるはずなんだけど・・・。はい、出来たよ。」
温めた弁当と晋太が作った炒飯とスクランブルエッグを乗せた皿がテーブルに並べる。
「ふむ、それでは頂くとしよう。」
「「いただきます。」」
2人は食事に摂りかかる。
「ねえ、ボス。聞いてもいい?」
テーブルに置かれた食事が殆ど無くなった頃、徐に尋ねる晋太。
「なんだね?」
「ボスってロボットだよね?」
「そうだが。」
「それなのに僕達と同じものを食べて大丈夫なの?」
「大丈夫だ。私の体内には食物を動力エネルギーに変換することが出来る装置が搭載されているのだ。」
「へぇ~~。」
閑話休題。
黙々と昼食にありつく。
「ボスって、悪を倒すために地球へやってきたんだよね?」
「その通りだよ、シンタ隊員。」
「でも僕、ボスが悪と戦っているところ見たことがないんだけど。」
「・・・・・・そ、それは、そう、秘密裏に戦っているのからだよ。隠密活動というやつだな。私や悪の組織のことは地球人に知られてはならない。地球人に不安や恐怖を与えてしまうからね。」
「へぇ~~。じゃあ、いつも家にいるのはそのため?」
「も、もちろんだとも。それでも常に地球の平和を守る為、アンテナを巡らしているのだ。」
「すご~~い!」
目を輝かせる晋太。
尊敬の眼差しにギンガリオンの(僅かな)良心システムがエラーを表示。
今言ったことは全て嘘。
地球へ来たばかりの時はアンテナを巡らして索敵を行っていたが、サボリ癖がある彼は2週間で飽きてしまい、それ以来ずっとかまけ続けていた。
「ねぇねぇ、ボク、ボスが戦っている所を見たいな~。」
「いいだろう。今度出撃する時はシンタ隊員も同行してもらおう。」
「ヤッタ~~。」と喜ぶ晋太を尻目にギンガリオンは密かに体内で鳴り響く良心システムの電源をシャットダウンするのであった。
「ふう、ごちそうさまでした。」
「お粗末様でした。」
昼飯を食べ終えた4人。
午前中の撮影は問題もなく順調に終了。
撮影は人間に変装したクルサードが三脚にビデオカメラをセットし、動画を撮ると同時に首から提げているカメラ(これも店長から拝借)で写真撮影。
「本当に美桜って料理が上手ね。弁当とてもおいしかったわ。」
「えへへ、ありがとう。そう言ってくれるとうれしいな。」
本日、全員分の弁当を用意してきた(某魔法少女のコスプレ衣装を纏っている)美桜はとてもうれしそう。
「ああ、今日もおいしかったよ。」
英智も未亜の感想に全面同意。
因みに未亜と英智もコスプレ衣装を着ている。
未亜は漆黒のマントと龍の骨が全身に散りばめられた衣装。
製作者本人曰く、魔族の幹部をイメージしたらしいのだが、肌の露出がかなり多い。
スレンダーの彼女にとても似合っているのだが、眼の行き場に少し困ってしまう。
対する英智は肌の露出は一切ない真っ赤なヒーロースーツ。
数年前に大ヒットした戦隊シリーズ、金属戦隊ハルコンジャーのハルコンレッドの衣装だ。(英智も大ファン)
「2人のおかげで滞りなく進んだわ。」
「私は少し恥ずかしかったわ。」
「そうか、俺はそんなことなかったぞ。」
「えーちゃんはヘルメットで顔が隠れていたからよ。私達は顔映っているんだよ。」
美桜の言う通り英智はヘルメット装着して撮影していた。
「でも最後の方は結構ノリノリだったわよね。」
「もう~~、未亜ちゃんたら。」
女子2人は仲良くいちゃつく中、先程から寡黙な人物が一人。
難しい顔をしながら女子2人をずっと見ている。
「あの、車さん?」
「は、はい!な、なんですか?中富さん。」
「いや、先程からずっと黙ったままだったので。もしかして体調が悪いのですか?」
「いえ、大丈夫です。すこぶる元気ですよ。」とアピール。
ワザとらしい行動だったが誰も彼に対して追求しなかった。
「そうですか・・・。(まぁ、美桜が作った料理も食べていたし、大丈夫だろう。)体調が悪くなったらすぐに言ってください。」
「はい、ありがとうございます。」と答えたクルサードであるが、意識は別の――未亜といちゃつく美桜の方に向いていた。
(やはり、微かだが彼女から力を感じる。)
諜報員であるクルサードは戦闘能力が低い代わりに高い感知能力を備えている。
そんな彼は美桜から発せられる僅かな力をずっと感じ取っていた。
(彼女から感じる力はこの地球上には存在しない力・・・。彼女は一体何者?ま、まさか銀河の十字架の者!)
とはいえ、ここで疑問が一つ。
(確か彼女はミア様の大親友。地球へ来て以来の付き合いだと聞く。そんな長い間共にいてミア様が気付かないとはどうも考えにくい・・・。)
表情を出さずに脳内で考察し続ける。
(はっ!もしや、洗脳!あ、ありえる。考えてみれば学校に行き始めてから地球侵略に対して消極的になり始めたし。)
鉄の椅子に縛られ、怪しい薬を投与される未亜の姿が脳内で鮮明に浮かび上がる。
(そうに違いない。ミア様は洗脳によって敵のスパイとされたに違いない!)
そう結論が出た時、未亜が「それじゃあ、午後の撮影を始めましょうか?」と立ち上がった。
「午後はどうする?この衣装で続きを撮影するのか?」
「ううん、午後は別の衣装に着替えるわ。」
それを聞いた美桜は恥ずかしそうに縮こまる。
「大丈夫よ美桜。今度のは普通の衣装だから。着替える場所はあそこね。最初に美桜で、次に私、最後に英智君を撮影するわ。」
「了解。それじゃあ俺は車さんと一緒にカメラの準備をしておくよ。」
「うん、お願いね。美桜は一緒にきて。これから着る衣装を渡すから。」
未亜は美桜を連れて近くのプレパブへ移動。
この公園にはプレハブで作られた個室があり、そこを衣装の着替える場所として利用していた。
(こ、これはチャンスです。)
「ん?どうしたのですか?車さん。」
「い、いえ、別に。」
慌てて誤魔化し、英智と共に準備に取り掛かる、が、しばらくして、
「いたたた・・・。」
「どうしたのですか?車さん。」
「急にお腹が・・。」
お腹を押さえて蹲るクルサード。
勿論これは嘘。
トイレを装い、美桜を監視しよう、という魂胆なのだ。
「大丈夫ですか?」
「ええ多分。お手洗いに行けばなんとか・・・。すいません、後の用意お願いしていいですか?」
「分かりました。」
彼に謝りつつ、その場から離れるクルサード。
未亜達とは反対の方向へ歩き、英智の視線が届かない場所に着くと形態変化。
猫の姿に戻り猛ダッシュ。
目的地は勿論プレハブだ。
「よし、ここだな。」
周囲を見渡すクルサード。
誰もいないことを確認し、スライムに変形。
扉と床の隙間10㎝を通り抜けて見事侵入成功。
(よし、他に誰もいない。)
人の気配は美桜一人だけ。
(ミア様もいない。これはチャンス。)
「今度は婦警なのね。」
奥の個室から聞こえる美桜の声を目指しスライム状態のクルサードは忍び足でゆっくりと近付く。
(くっくっく、見ておれ。正体を暴いて見せようぞ。)
「タイトのミニスカートなんて私、似合わないわよ・・・。」
壁にかけられている次の衣装にため息をこぼしつつ、着替え始める美桜。
フリフリのミニスカートと大きなリボンが地面に落ち、胸元のボタンを外していく。
無防備に下着姿を晒す美桜は知る由もない。
地球外生命体が自分の着替えを覗いていることに。
(ほお~~、なかなかいい身体をしておりますな~~。)
個室の扉の隙間から美桜を覗くクルサード。
(ミア様と比べれば太いですが悪くないですな。くびれもあり肌も綺麗。健康的で何よりあの巨乳!あの胸の大きさは中々お目にかかれない逸材ですぞ。あれに抱きしめられたらたまらんでしょうな~~。)
むふふ、と変態な笑みを浮かべた所で我に返る。
「って、吾輩は覗きの為に忍び込んだ訳ではないのだぞ。しっかりしろクルサード。」
とはいえ、魅力的な美桜の身体から目が離せない。
「―――っていかんいかん。さてと、やるぞ~。」
やるって何を?
「何を?って決まっております。あの娘を襲って――――。」
「襲って、どうするつ・も・り?」
背後からの囁き。
美桜に襲い掛かろうとしていたクルサードの全身に恐怖が走り、硬直。
「そ、その声は・・・・。」
恐る恐る振り返ったクルサードが眼にしたのは―――、
「ミ、ミア様!」
満面の笑みを浮かべ仁王立ちする未亜。
こめかみには怒りの筋、そして背後から見える激怒の炎にクルサードは身の危険を感じた。
「な、なぜ、ここに・・・。」
「飲み物を買って戻ったらあなたの姿が消えていたからよ。」
クルサードに排泄行為は必要ないことを知っている未亜。
英智の話を聞いた彼女は嫌な予感がして、彼の姿を探していたのだ。
「で、あなたはここで何をしているの?」
「こ、これは、ですね。その、ミア様のことを思いまして・・・。その・・・洗脳が・・・・。」
恐怖のあまり言葉が上手く出ない。
その結果、未亜には一切説明できず。
「へぇ~~。私の親友の着替えを覗くことが私の為、だというのね・・・。(がしっ!)」
クルサードをわし掴む未亜。
彼女の微笑みは悪魔みたいで壮絶に怖い。
「ミア様。吾輩の話を聞いて――――。ちょっとミア様。待ってください。それだけはご勘弁を・・・・。」
美桜に気付かれないよう引きずられ、プレハブから退場する2人。
数分後、猫らしき大悲鳴が公園中に響き渡ったそうだ。
「あっ、お帰りお姉ちゃん。」
「ただいま。」
「早かったね。」
「うん、撮影担当の人が突然体調を崩したから午後の撮影が無くなったのよ。」
「ふ~~ん。」
「それはそうと晋太。これ、落ちていたわよ。」
美桜はポケットから取り出した物を晋太に見せる。
「あ、ボスから貰った通信機だ。朝からずっと探していたんだ。」
「探していた、じゃないわよ。洗面場に落ちていたのよ。」
「本当に?」
「自分の物はちゃんと自分で管理しなさい。」
「は~い。ごめんなさい。」
「はい、よろしい。ところで晋太。夕ご飯何がいい?」
「ハンバーグ!!」
「いただきます。」
「ミア様~~~。」
「そんな顔してもダメ。今日は夕ご飯抜きです。」
「そんな~~。」
ロープでぐるぐる巻きにされ、天井へ吊るされているクルサードの悲しそうな鳴き声が六畳間の部屋に虚しく響く。
「全く、美桜から不穏な力を感じた、私が洗脳されている、って何よ。失礼にも程があるわ。」
「申し訳ございません。」
クルサードによる細かな診断の結果、未亜が洗脳された形跡は一切出てこず。
それによりクルサードはさらなる叱責を受け、只今絶賛反省中。
「ですが・・・、吾輩は確かに感じ取ったのですよ・・・彼女から不穏な力を。ですから―――。」
「まだそんなこと言うの!」
「ひい!」
未亜の力のよって強化された割りばしが自分のひげを掠り、天井に深々と突き刺さるのを目の当たりにして真っ青になるクルサード。
「美桜は私の大切な友達よ。これ以上私の友達を侮辱したら、いくらクルサードでも許さないわよ。」
鋭い眼光はクルサードの反論を黙らせる。
「いい?二度と私の友達――美桜と英智君に手を出さないこと。いいわね。」
コクコクコク。
クルサードはただ頷くことしかできなかった。