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2章 敵影

 そんなギンガリオンとはいうと・・・、

「ふ~~む。」

 難しい表情を浮かべ、腕組み。

「今日はどうするか・・・。どれも甲乙つけがたいな・・・。」

 彼の前に並んでいるのはロボットアニメのDVDが数枚。

 今日はどのアニメを観るかで電子頭脳をフル回転させていた。

 決定打が見出せずに唸っていたその時、玄関の扉が勢いよく開く音と同時に「ボス~~~~。」と叫ぶ男の子の声がギンガリオンの側頭部に搭載されている集音器に届く。

「おおシンタ隊員、よく来た。早速作戦会議を行うぞ。」

「お邪魔します。」

 美桜(みお)の弟――花巻(はなまき)(しん)()は靴を揃え、リビングへと上がる。

「ほぉ、今日もなかなかの重装備だね、シンタ隊員。」

 半袖短パンの服の上には変身ベルトや武器のおもちゃが体の至る所に装備。

 統一感は全くない。

「うわ~~、今日も凄い散らかっているね~。」

 ギンガリオンの周囲はDVDの他にスナック菓子の残骸や飲みかけの缶ジュースなどで散らかり放題。

 ちょっとした混沌(カオス)である。

 英智(えいち)美桜(みお)が家を出てわずか2時間で汚したギンガリオン。

 この状態を英智(えいち)が見れば、怒り心頭になることは必須。

「片付けないでいいの、ボス?」

「愚問だね、シンタ隊員。」

 愚問、という単語の意味が分からず首を傾げるシンタ。

「シンタ隊員はロボットアニメなどでヒーローロボットが掃除をしている所を見たことがあるかね?」

「え~~と―――。」

「ないだろう?つまり私は掃除をしなくてもいい、ということになのだ。」

 小学4年生の子供に対して、屁理屈をつけて自分を正当化させようとするロボット。

(ふっ、これで私が掃除しなくてもいい、という大義名分が出来た。)

「では早速、このアニメを観て作戦会議を――――。」

「でも、前観たアニメではヒーローのロボットが掃除していたよ。」

 晋太(しんた)がそのロボットアニメのタイトル名を告げる。

「・・・・・・・。」

「だからボスも掃除しないといけないね。」

 こうして作戦会議(アニメ鑑賞)の前に掃除する羽目となった。


「どうして私がこんなことを・・・・・・。」

 ぶつぶつ文句を言いながらゴミ袋にお菓子くずを入れていくギンガリオン。

 手よりも口の方がよく動く。

 その横で黙々と雑巾がけする晋太(しんた)

 家事に関して厳しい母と姉の指導の賜物のおかげか、とても手際がいい。

銀河の十字架(ギャラクシー・クロス)の中でも優秀な私がどうしてこんなことを・・・・・・。」

「そう言えばボスって、地球以外の星を守ったことがあるの?」

 バケツの傍で雑巾を絞る晋太(しんた)がふと質問を投げかける。

「も、もちろんだとも。私のおかげで暗黒あんこく(さめ)の侵略から逃れた星は数多くあるぞ。」

「へぇ~~。」

 目を輝かせる晋太(しんた)

「どんな風に救ったの?」

 晋太(しんた)の興味津々の顔にギンガリオンは気を良くしたのか、自慢げに話す。

 しかし、話す内容は今まで観てきたアニメの内容や先輩達の手柄を都合のいいように繋げた嘘八百。

 ギンガリオンはこの地球が初めての任務―――そもそも任務すらない(・・・・・・)のだ。

 

 ギンガリオンは銀河の十字架(ギャラクシー・クロス)が開発した人工知能搭載の戦闘ロボット――製造番号ZS‐R03。

 少数生産されており、『ギンガリオン』というのは固体名になる。

 自律プログラムが組み込まれており、個々体にそれぞれ性格があるのだが、このギンガリオンはかなり特殊。

 我儘で怠け者。

 人の話は全く聞かない。

 全員が受ける講習も「私には必要ない。」と言ってサボり、そして物事が上手くいかなくなると逆ギレする、など銀河の十字架(ギャラクシー・クロス)内の問題児であった。

 そんな彼の態度と行動に上層部はあのまま任務に就かれるのはとても危険だと判断、本部にて厳重管理、更生を試みるがその決定に対してギンガリオンはまたしても逆ギレ。

 そんなギンガリオンを仲間達は「使えない奴」と嘲笑われていた。

「どうして私を任務に就かせてくれないのだ。」

 自分自身は優秀だと疑わない彼はある日、またまた暗黒あんこく(さめ)が地球への侵略を介する情報を傍受。

 手柄を得る(仲間を見返す)為に無断出撃した次第である。

 ちなみにこれが初出撃だった(+講習をサボっていた)ため、大気圏突入は大失敗。

 墜落した衝撃でいくつかの機能は故障。(しかしギンガリオンはその事に全く気付いていない。)

 ギンガリオンが地球へやってきたのには、このような経緯があったからである。


 そんな感じでギンガリオンは嘘の自慢話を流暢に話し続けていた(もちろん掃除の手は止まっている)、その時だった。

 事件が起きる。

「うわ!」

 ギンガリオンの演説をBGM代わりに雑巾がけを続けていた晋太(しんた)の前を高速で通り過ぎる黒い物体。

 驚きのあまり尻餅をつく。

「どうしたのだね、シンタ隊員。」

「あ、あれ・・・。」

 指差す先――木の床をガサガサ動く黒光りのG。

 小学4年の晋太(しんた)はGが大の苦手なのだ。

「ほう、この私の前に姿を現すとは愚か者だな。」

 近くにあった新聞紙を丸めて構えるギンガリオン。

 宇宙の平和を護る組織が作った戦闘ロボットでもGを素手で仕留めることにはかなり抵抗があった。

「どれ、この私が一撃で仕留めてやろう!」

 振り下ろされた一撃。

カサカサカサ。

「逃げられたね、ボス。」

「ふっ、今のは情けだよ。今度こそ、仕留める!」

 パン!と景気のいい音。

 しかしGはギンガリオンの攻撃を躱していた。

カサカサカサカサ。

 ギンガリオンの周囲を動き回るG。

 その動きは2度も攻撃を外したギンガリオンを馬鹿にしている、そんな風にしか見えなかった。

「(ピキッ!)その行為、この私に対しての宣戦布告と見なしたぞ!」

 怒り沸点がかなり低いギンガリオンは新聞紙二刀流でGにラッシュ攻撃。

 しかし、Gは華麗な動きで攻撃を躱す。

「うが~~~!」

 その動きに怒りゲージがさらに上昇。

 ガサガサ逃げるGを一心不乱に追いかける。

ガシャン!ドタン、バタン!

「ボス、ちょっと落ち着いて。」

 机や椅子をなぎ倒してGを追いかけるギンガリオンを落ち着かせようとする晋太(しんた)

 だが、怒り狂うギンガリオンに隊員(シンタ)の声は全然届いていない。

 素早い動きで逃げ廻るGを仕留めることが出来ないギンガリオン。

「覚たる上は!」

 新聞紙を投げ捨て、怒りのまま手にしたのはバズーカだった。

「ボス、それはダメだよ!」

 Gに狙いを定めるギンガリオンを慌てて止める。

「家が無くなっちゃうよ。」

「ええいシンタ隊員、止めるな。奴は暗黒あんこく(さめ)が送り込んだスパイに違いない。ここで仕留めなければ!」

「それは違うってば~~。」

「腕から離れるのだ、シンタ隊員。狙いが定められないではないか。」

 しがみつく晋太(しんた)を振り解こうと暴れるギンガリオン。

 その為リビングは更に無茶苦茶に。

「撃っちゃだけ駄目だよ~~。」

 その時、玄関から「ただいま~。」の声が。

英智えいちお兄ちゃん!」

「な、んだ、これは・・・。」

 帰宅した英智(えいち)が絶句するのも無理もない。

 リビングは滅茶苦茶、の一言。

 机や椅子、ソファ、棚、テレビはなぎ倒され、カーテンやテーブルクロスはボロボロ。

 床や壁には無数の傷跡。

 家内で竜巻でも発生したのか、と疑いたくなるほど。

 家を出た時の面影が全くない、この散らかった光景に英智(えいち)は唖然茫然。

 美桜(みお)英智(えいち)と同じで、やっとの思いで「ねぇ、晋太(しんた)。これ、どういうこと?」と尋ねた。

「あ、あの、お姉ちゃん・・・、そのね・・・。」

 戸惑う晋太(しんた)

 申し訳ない、という気持ちが十分に伝わる。

 俯いたまま、そしてギンガリオンに視線を向ける。

「はっはっは~~、エーチ君。安心したまえ。私のおかげだ。」

 一方のギンガリオンは反省の色、全くなし。

 胸を張り自慢げに報告する。

「私はこの家の危機を救ったのだ。」

「家の危機を救った~~~?」

「そうだ、この家に暗黒あんこく(さめ)のスパイが潜り込まれていたのだ。それを私が退治したのだ。」

 と自慢げに話す横で晋太(しんた)が真実を告げる。

「ふざけるな~~~~!お前、ゴキブリ相手に何やっているんだよ!」

 怒る英智(えいち)

「家を滅茶苦茶にして。ちゃんと戻せ!」

「何故私が怒られるのだ。私はこの家の危機を護ったのだぞ。寧ろ褒められるべきであろう。」

「何が家の危機、スパイだ!」

「ちなみにボス、そのゴキブリを仕留め損ねたよ。」

 晋太(しんた)の発言により冷たい視線に晒されるギンガリオン。

「・・・・、何、大丈夫だ。こんなことがあろうとスパイに発信機を付けておいた。すぐにアジトを見つけてしんぜよう。」

「ちょっと待て。」

 そう言うが否や、家から出ていこうとするギンガリオンの肩部を掴む英智(えいち)

「何誤魔化して、逃げようとしている?」

「逃げる?この私が?私は一刻も早く暗黒あんこく(さめ)のアジト壊滅の為出撃しようと―――。」

「お前が今やるべきことはアジト壊滅ではなく、お前自身が散らかしたこの家の片付けだ。」

「ふ、何を言っているのだエーチ君。君はアニメなどで戦った後の片付けをするロボットを見たことがあるのかね?いないであろう。つまり私はそんなこと―――。」

「四の五の言わずにやれ。」

「ボス、そんな言い訳、通用しないよ。」

「ギンちゃん。」

「・・・・・・・。」

 3人の背後から怒りの炎を見たギンガリオンは身の危険を感じ、白旗を上げざる負えなかった。


 こうして、3人とロボット一体は部屋の大掃除にとりかかることに。

「何故私がこんなことを・・・。」

「うるさい、口ではなく手を動かせ。」

 文句ばかりで手を全く動かさないロボットを叱責しながら、英智(えいち)はぼそり呟く。

「何がスパイ、悪の組織、だ。そんなのいる訳ないだろうが・・・。」


 しかし、現実は違う。

 悪の組織――暗黒あんこく(さめ)はすでに地球に襲来していた。

 そして彼らが英智(えいち)のすぐ側にいることを知る由もなかった。



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