12章 正義
「凄いわ英智君。デュランダルの力を十二分に引き出しているわ。」
地上へ無事着陸した英智に尊敬の眼差しを向ける未亜。
「デュランダルは多数の形態を兼ね備えた万能剣。あの武器一つで近距離から遠距離まで対応することが出来るわ。それ故扱いが物凄く難しいの。それにしてもどうして英智君がデュランダルを持っているのかしら?」
疑惑と困惑の視線の先にいる英智は背中に手を回し、剣の形態に戻ったデュランダルを構える。
「ぐぐぐ、こんなはずでは、こんなはずでは・・・。」
瓦礫を押しのけながら、立ちあがるギンガリオン。
―――。」
「馬鹿野郎!責任をなすりつけるな!お前はいつだってそうだ。身勝手な言い訳ばかり!」
英智の怒りはギンガリオンの怒りを遥かに上回っていた。
「今回だって全てお前が元凶だろうが!こんなにも街を破壊して・・・。自分の周りをよく見てみろ。」
瓦礫の山と穴だらけの道に破壊された看板や車。
そして天まで立ち昇る黒煙、焼け野原と化した町。
ほんの一時間前までは人々の活気に溢れていた町の面影は全く残っていない。
「お前がここまでこの町を破壊したんだぞ!それに対しての罪悪感はないのか?!」
「わ、私はただ暗黒ノ鮫の一味を探していただけに過ぎない。奴等がこの付近に隠れて出てこないから悪いのだ。奴らさえおとなしく出てこればこんなことには―――。」
「だからいい訳をするな!お前がこの町を破壊したんだ。暗黒ノ鮫が隠れている、いないは関係ない。お前が町を破壊したのは紛れもない事実だ!目的と手段を履き違えるな!」
「私は・・・私は・・・・・・。」
頭部を抱えるギンガリオン。
事の重大さにようやく気付いたようだ。
彼の内部に搭載されている良心回路が頭脳コンピューターに働きかける。
(私は取り返しのつかないことをしたというのか?もしそうならば私はどうなってしまう・・・。)
本部に今回の事が報告される?
それは拙い。
無許可での出動の上、不祥事となれば始末書では済まない。
罰則・・・、いや、スクラップ刑も辞さないであろう。
(ど、どうすれば・・・・・・・・。)
オーバーフローで強制フリーズ状態である脳内コンピューターを強制的にフル稼働。
ここで普通ならば自分の非を認め、謝罪。
自らを罰し、誠意に復旧に努めるというのが常識。
しかし彼は違う。
不祥事を起こしてしまい怒られることを恐れるあまり、良心回路がシャットダウン。
どうすればこの場を誤魔化せる?
どうすれば自分は助かる?
何でこんな目に遭わないといけないのだ?
その以前にどうしてこんなことになったのか?
自己中心的で身勝手な思いが膨れ上がり、爆発。
理不尽な思いを雄叫びにしてぶつける。
「うがぁ~~~~~~、私は全然悪くないぞ!私は悪くないのだ!!」
「いい加減、自分の非を認めろよ!」
「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!ここで私は勝利を手にして、自分の正しさを認めさせてやる!私こそが正義。勝利こそ正義なのだ!」
咆哮と共に再び上空へ飛びあがるギンガリオン。
「力で捻じ伏せてやる。宝玉 in スペース・ライフル!」
巨大なライフル銃を召還、構える。
照準は地上、英智。
「スペース・ライフルはこの私の最強の武器。エネルギーの大半を消費するが、この町なんぞ塵と化すほどの威力があるのだ!これでこの町に隠れている暗黒ノ鮫一味共々を消滅させてやる!」
「な、何を考えている!お前は馬鹿か!他の人もいるのだぞ!」
「うるさい!これは敵を倒すための必要な犠牲なのだ!!!!」
「だから目的と手段を履き違えるな、と言っているだろうが!」
「この町一つで地球上の平和が守られるのだぞ!地球人の平穏が守られるのだ!安い物だろう。必要な犠牲だ。そうだ!私は間違っていない!私は正しい!正義なのだ!」
「違う!目の前の人々を守れないで、何が正義だ!」
英智は必死に説得させるが、ギンガリオンは聞く耳を持たず、チャージを始める。
スペース・ライフルの銃口からエネルギー粒子が集まり、徐々に大きくなっていく。
(皆に避難を促す・・・・・駄目だ、間に合わない。こうなったら・・・。)
頼れるのは手元にあるデュランダルだけ。
「頼むギュランダル、アイツを止める為に力を貸してくれ!」
―――yes(了解です), Master. bastard mode set(展) on(開)!―――
鍔部分が90度に曲がり、刀身が縦二つに分かれ、銃へと変形。
自分の思いに答えてくれる相棒がとても頼もしい。
「よし、これで止めてみせる!」
グリップに左手で握り、右手で銃形態に変形したデュランダルに添える。
―――(エネルギー放出時の衝撃に備え、踏ん張りを)―――
デュランダルのアドバイスを受け、肩幅まで足を広げ、銃口を上空のギンガリオンへ向ける。
―――target lock-on.―――
刀身部から飛び出た銃口に紫色の粒子が集い、凝縮。
大きなエネルギーの塊と化していく。
主張と意地が視線となり、ぶつかる。
「喰らえ!ジャスティスバスター!!!!」
「いっけ~~~!」
―――fire!―――
エネルギー砲が発射されたのはほぼ同時。
2つのエネルギーは正面衝突。
衝撃の爆風が周囲の瓦礫を宙に舞い上げる。
「うおおおおお~~。」
「ぐぅ~~~~!!」
両者のエネルギー砲はほぼ互角。
「う、うぅ・・・。」と歯ぎしりする英智と、
「はぁああああああ!」と雄叫びをあげるギンガリオン。
「駄目、このまま長引けば英智君が負ける。」
未亜の言葉通り、長引けばとなれば英智が不利。
ロボットであるギンガリオンは疲れを知らないのだ。
僅かだが、徐々に黄金色のエネルギー砲が押し込み始める。
「くっ・・・そ、後、もう少し、もう少し・・・。」
それでもなんとか踏ん張ろうと気合を込めるが、体は正直。
額からは疲労の汗、踏ん張る足も後ろへ下げられる。
「フハハハ、正義は必ず勝つのだよエーチ君!」
状況は自分に優勢。
相手を見下す余裕を見せるギンガリオン。
「このまま町と吹き飛ばしてくれる!トドメだ!」
勝負を決めようとした時だった。
ギンガリオンの内臓スピーカーから「ギンちゃん!!」と叫ぶ声が聞こえた。
「おお、この声はミオ君ではないか!」
勝利を手中にあるギンガリオンは美桜と会話する余裕は十二分にあった。
「どうしたのだねミオ君。私は少し忙しいのだ。要件は手短に願おう。」
「そう、じゃあ聞くわね。ギンちゃん。何しているの?」
「何って・・・。」
調子に乗っていたギンガリオンはここで気付く。
美桜の声のトーンがいつもより低いことに。
「・・・・・・・。」
先程まで饒舌で高調していた気持ちは一瞬で冷める。
今の美桜の声のトーンは怒りに満ちていると気付いたのだ。
「言えないの、ギンちゃん。」
自分は正しいことをしている、それが間違いだったとしても。
常日頃からそう豪語することが出来るギンガリオンであるが、今の美桜の声を前にその度胸は生まれてこない。
「そ、それは・・・・・・。」
怖がるギンガリオンの内臓スピーカーから「お、お姉ちゃん・・・」と晋太の震え声が聞こえる。
自宅と飛び出た晋太は地元を駆けまわり、ようやく商店街で夕飯の食材を買っている美桜を発見。
本日いい鯵が手に入り、ルンルン気分であった美桜であったが、晋太から話を聞くにつれて、彼女の表情は徐々に変化。
「晋太、あなた、ギンちゃんから通信機、受け取っていたでしょう。」
(コクコク。)←恐怖で声も出せない状況。
「貸しなさい。」の一言に晋太は通信機を即座献上。
そして只今、ギンガリオンと通信している美桜の横で直立不動の状態で待機中。
その姿はまるで晋太が怒られているようだ。
「晋太から全て聞いたわ。貴方何やっているの?」
(ひぃ~~~~~。)
美桜から固有名詞で呼ばれない時、それは彼女が激怒している事を証明している。
こうなったら彼女に逆らえる者はもういない。
例え、それが総理大臣でも自分勝手で反省を全くしない傍若無人なギンガリオンであったとしても、だ。
「わ、私は悪の組織から地球を守るために――――。」
「ギン、ちゃん。」
「は、はい!」
美桜に名前を呼ばれ、反射的に直立不動で敬礼。
それによって、ギンガリオンが放っていたエネルギー砲は消失。
――It's now.――
「いっけ~~~~~!!」
デュランダルの合図に最後の力を籠める英智。
「ギンちゃん、今日から食事抜きよ。一切駄々をこねても絶対に与えません。」
「そ、そんな、殺生な!それでは私は死んでしまいます。」
懇願するギンガリオン。
彼の楽しみはアニメ・特撮鑑賞とゲーム、そして食事。このうちの一つでも取り上げられることは彼にとって死刑を宣告されたと同じなのだ。
「あら、貴方は食事をとらなくても太陽光で充電出来るのでしょう?」
「で、ですが!ご、後生ですミオ君。どうか考えを改めて―――え?」
我に返るギンガリオン。
自分は今まで何をしていたのかを?
目の前まで迫るデュランダルから放たれたエネルギー砲。
「うぎゃあああああああああああああああああああ!」
エネルギー砲に呑み込まれるギンガリオン。
「エーチ君、覚えてろ~~~~~~~~~~!」
恨み節を残し、ギンガリオンはエネルギー砲と共に消え去っていった。
「はぁはぁはぁ・・・、終わった。」
精根尽き果て、足の力が抜ける英智。
デュランダルを杖代わりにして倒れるのを何とか堪える。
―――good(お疲れ) job(様です), Master. ―――
「や、ったわ・・・。」
「ハルコンレッドが悪のロボットを倒したぞ!」
「アニメ横丁が守られたぞ!」
未亜の呟きに、物陰で戦いの行方を見守っていた人達の歓声が湧く。
「「「「バンザ~イ、バンザ~イ!」」」」
こうして、アニメ横丁の平和は守られたのであった。




