11章「ここで緊急ニュースです。」
それは英智とギンガリオンが戦い始める少し前のことだった。
「ええ~~、いいところだったのに~~。」
自宅にてリアルタイムでアニメを観ていた晋太は大声で文句。
「まぁ、いいや。ジュースジュース。」
小休止がてらキッチンに向かい冷蔵庫から缶ジュースを取り出す。
「―――――通称:アニメ横丁が何者かに破壊されている、という情報が入ってきました。」
「えっ?」
すると聞き慣れた名称が耳に飛び込んできたので、反射的にテレビの方へ視線が向く。
「現場は今現在も破壊活動が行われており、被害は壮大です。」
「町が破壊・・・。もしかしてボスの出番かも!!」
アニメを観ている場合じゃない!早速ボスに連絡を!と腕時計式の通信機を起動させようとした時だった。
「只今、現場と繋がっています。木下さん。」
「はい、こちら現場の木下錫五郎です。わたくしは只今ヘリにて上空からお伝えしております。」
「あっ!」
上空から映し出された映像を見て、晋太の手が止まる。
「見えますでしょうか!この状況を。そして、カメラが捉えているあの物体がわかりますでしょうか!」
画像が荒いが、晋太にはすぐにわかった。
映っている物体―――ギンガリオンの姿が街を破壊している様子が。
「あのロボットが街を破壊しております。あっ、今建物に攻撃を!跡形もなく破壊されております。」
「ボ、ボス!?」
何故ギンガリオンがそんなことをしているのか?理由が分からないが、それでも何とかしないといけない、と瞬時に判断した晋太は大急ぎで家を飛び出した。
「てやあああああああああ!」
「うおおおおおお!」
互いの拳がぶつかる衝撃音が響く。
戦況は今の所互角。
だが、両者の心理状況は大きく違っていた。
自分が予想以上に善戦している英智は落ち着いていた。
自分が攻撃を受けることは覚悟の上。
しかし、大きな一撃は受けないよう相手の動きをよく見て、回避防御、カウンターを選択。
相手に付け入る隙を与えないよう次の動作を考えて動く。
対するギンガリオンは有利な立場に立てないことに苛立ちを募らせていた。
(何故、何故なのだ。私とエーチ君では力の差は歴然。なのに有利に立てない!)
その理由は明確。傲慢さと実践不足。
銀河の十字架本部にいた時代、自分の力に過信し怠けて模擬戦を全く行わなかったことが影響している。
さらに常日頃から相手を圧倒的な力で倒すことしか考えていなかった為、このような不利な状況に陥った際の対処法を知らないのだ。
そのせいでギンガリオンは焦り、悪手ばかりを出し、自らの首を絞める悪循環。
そう、このように、
「エーチ君のくせに小癪な・・・。」
至近距離からのレーザー光線。
次の行動を考えていない大雑把な攻撃は簡単に回避されるだけではなく反撃の機会を与えてしまう。
そしてそれが劣勢へと導いてしまう。
「もらった。」
ガラ空きの腹部にエルボー。
「がっ!」
ギンガリオンの胴体がくの字に曲がる。
彼には横隔膜や呼吸器官はないが、呼吸が一瞬止まった呻き声が零れた。
(いける!)
英智はここが勝負所と読み、畳みかける。
「いいわ、その調子よ、英智君。」
「いいぞ、ハルコンレッド!」
未亜や周囲の人達の声援が英智の力となり、ギンガリオンを追い込んでいく。
「これで終わりだ。」
集中攻撃によろめいたギンガリオンにとどめ(某仮面ライダー風)のジャンプキック。
強烈な一撃をまともに受けたギンガリオンは吹き飛ばされ、壁に激突。
そのままその場に崩れ落ちた。
「勝負ありだ。もうやめろギンガリオン。」
「(ば、馬鹿な・・・。この私が負けるはずがない。私が・・・、そう、正義の味方である私が・・・)負ける訳がないのだ!!!」
ギンガリオンの雄叫びはその場にいた全ての人々を硬直。
その迫力に英智も一瞬怯む。
「宝玉!in ギャラクシー・ソード!」
ギンガリオンの音声に右腕に装着している銀色の玉が輝く。と同時に、その玉から純銀の鋭利な細剣が出現、ギンガリオンの右手に収まる。
「スラッシュ!」
「うわっ!」
ギンガリオンが飛ばした斬撃を紙一重で回避。
後方の電信柱が紙のように斬れ、崩れ落ちる。
その威力を目の当たりにした英智の頬から冷たい汗が流れる。
「おい止めろ。こんな攻撃、危ないだろう。」
「知ったことか!正義は私の元にある!スラッシュ!」
連続で斬撃を飛ばずギンガリオン。
防御する訳にもいかないので回避の一択。
周囲の野次馬も蜘蛛の子を散らすように逃げる。
「クハハハ、どうだ、エーチ君。手も足も出ないだろう。」
「うわっ!本当にやめろ。殺す気か!」
「その通り。私の手は滅ぼしてやろう!」
「何を考えてる!俺は英智だ。お前の家主だろうが!」
「私は君の事など知らない。悪の手先よ。」
「嘘つけ!さっきから俺の名前を言っていただろうが!」
「私の記憶フォルダにはそのような情報は一切存在しません。」
「堂々と記憶改ざんするな!」
「うるさい、うるさい。喰らえ、ホーミングミサイル。」
ギンガリオンは胸部の外装が左右に開き、8連ミサイルを発射。
「うわああああああ!」
爆撃に巻き込まれ、吹き飛ばされる英智。
未亜特製の衣装のおかげで、骨折などの大怪我はなかったが、地面落下の際、受身を取り損ね、全身に痺れが。
すぐに立ち上がれない。
(マズイ・・・、このままじゃあ、殺される。)
立ち上がれない英智を嘲笑い、近付くギンガリオン。
後方で未亜が「英智君、逃げて!」と叫んでいるが、当人の耳には届いていない。
(ど、どうすればいい。俺はどうすれば・・・・。)
5年間同居してきた、傍若無人なロボットの圧倒的な力。
その前になす術もなく、このまま倒されるのか?
(だ、駄目だ・・・。ここで俺が倒れたら誰がこいつを止めるんだ。考えろ・・・・何かいい手は・・・。)
一歩一歩踏み出す金属の足音が、英智に力の差を物語る。
(力が足りない。こいつを止める力が。そう、力さえあれば。あの時みたいに―――。)
あの時?
あの時っていつだ?
そうだ、ギンガリオンと出会ってまだ間のない頃。
パトロールだと称して、大人の眼を掻い潜り廃ビルを探検していた時だ。
俺はあの時に―――
―――力を欲するか?―――
ああ、欲しい。護れる力が・・・。
―――力を欲するなら我を呼べ。我の名を口にしろ―――
名前なんて知らない。
でも脳内で黒い粒子達が集い、形――文字となる。
地球上で存在しない未知な文字。だけど英智には何故が読めた。
だからそれを口にする。
「デュランダル。」
―――yes, call―――
その瞬間だった。
英智の部屋に置かれていた両手剣は眩い光を放ち、一直線に英智の元へ。
「これで終わりだ!」
ガキーン!!
振り下ろされるギャラクシー・ソードから身を挺して英智を護ったのだ。
「な、なんだ、これは?っ!うわあ!」
眩い閃光の衝撃波によって吹き飛ばされるギンガリオン。
「・・・・・・・。」
宙に浮く両手剣を呆然と眺める英智。
―――(音声分析、解析コード発令。認識完了。識別コードへと変換、登録確認)―――
デュランダルから聞こえる機械音は先程――前聞いたと同じ音声。
―――(確認完了。マスター承認適用。全システム、コンプリート)―――
「なんだ、あの剣は?宇宙鋼鉄でも簡単に斬れるこのギャラクシー・ソードを防ぐだと!」
興味ないことは記憶フォルダに全く蓄積されないギンガリオンの頭脳。
数時間前、英智の部屋でそれを見たことはもう忘れていた。
反対に驚きの声を上げたのは遠くの物陰から戦況を見守っていた未亜だった。
「嘘!何で英智君がデュランダルを?だってあれは―――。」
そう、あれは三種の邪器の一つ――邪剣、デュランダル。
暗黒ノ鮫では最高位クラスの優れた武器で地球侵略時、長から譲り受けた物である。
地球到着時不慮の事故で失って以降、行方知らずであった武器が今、友の手元に姿を現した事に未亜は驚きを隠せないでいた。
「デュランダル?」
――――yes(はい、), Because(私の) my(力は) power is Master(為に).――――
その言葉に導かれるかのように両手剣――デュランダルを掴む英智。
するとどうだろうか。
全身の痺れが無くなりすんなりと立ち上がることが出来た。
(力が溢れてくる。)
その場で一度試し振り。
場の空気を切り裂く音。
適度な重さで英智の手にしっくり。
違和感は全くない。
まるで自分の体の一部みたい。
(すごい、これなら・・・。)
ギンガリオンを止められる。
漲る自信を糧にデュランダルを構え、そして立ち上がったギンガリオンへ、初めて自分から攻撃を仕掛ける。
「てやあ!」
心強い武器を手にした英智に迷いはない。
地面を力一杯蹴り、振り降ろす斬撃は鋭く、速い。
大剣に振られているのではなく、自分の意思で操り、攻撃する。
「うおっ!・・・、くっ。」
予想以上の重く鋭い連続攻撃に、押されるギンガリオン。
剣道の心得がある英智の丁寧且素早い攻撃は模擬戦をサボり続けたギンガリオンの雑な防御を打ち砕く。
ガキン!!
デュランダルの刃がギンガリオンのボディーにヒット。
金属音と火花がその場に飛び散る。
ギンガリオンのボディーに傷一つ負っていない。だが、ダメージは確実に与えていた。
「おのれ~~。スラッシュ!スラッシュ!スラッシュ!」
大きく間合いを空けて、斬撃を連続発射。
英智は雄叫びを上げながら、突撃。
襲い掛かる斬撃をデュランダルで弾く。
「何!?」
斬撃を全て弾かれ、驚くギンガリオン。
その隙をついて、ギンガリオンとの間合いを詰めてギュランダルを横一閃。
「もらった!」
「っ!ダッシュ・ウイング!」
「ああ!」
ギンガリオンの背部から赤いウイングが展開、空へ逃亡。
「クハハハ、残念だったなエーチ君。喰らえ、スラッシュ!そしてホーミングミサイル!」
空中から斬撃とミサイルの嵐。
斬撃が逃げ道を塞ぎ、ミサイルが英智を襲う。
「(マズイ!回避、駄目だ間に合わ―――!)うわああああああ!」
英智の悲鳴を爆撃音が掻き消し、爆煙が立ち込める。
「ワ~~ハハッハ。私の勝利だ!ワ~~ハッハッハッハ――――。」
直撃を目撃したギンガリオンは勝利を確信、哄笑。
だがそれは長く続かない。
何故なら薄れていく爆煙の中を平然と立つ英智の姿が見えたからだ。
「バ、バカな。どうやって私の攻撃を―――。」
「こ、これは―――。」
爆煙が完全に晴れた時、2人は気付く。
英智の周囲に薄紫のドーム状のバリアが貼られていることに。
―――shield mode(シールド、) set(展開) on―――
「これって、もしかしてデュランダルが?」
―――yes(その通りです), Master. ―――
「くぅ~~、あの剣、バリアも張ることが出来るのか~~~。厄介だ。」
仕留め損ねた事が悔しくて手足をジタバタするギンガリオン。が、すぐに立ち直る。
「だ、だが、まだ私が優勢だということは変わりない。エーチ君は空を飛べないし、攻撃手段もない。上空にいる限り私に敗北の二文字はないのだ。」
「くそ~あいつの言う通りだ。俺も空が飛べたら・・・。」
歯ぎしりする英智の口から洩れた呟きにデュランダルが答える。
―――wing(飛行) mode set(展) up(開)―――
「えっ?えっ?」
英智の手元から離れ、宙に舞うデュランダル。
刀身の先が2つに割れ、鍔を中心に110度開いて、英智の背中へ。
(こ、これってもしかして羽?)
―――yes(その通り), Let’s(さぁ、) fry(空へ)―――
次の瞬間、
「うぎゃ!」
「痛った~~~!」
英智の身体は急上昇、そのままギンガリオンと激突。
両者大ダメージ。
(~~~~、にしても凄い。この剣、俺の思いに応えてくれる。)
頭を抑えつつ、自分の状況を把握。
右を意識すると右に移動し、左に意識を切り替えると左に移動。
自分の意志に瞬時に反応してくれる。
(……、よし、自分の思う通りに動ける。これならやれる!)
「くっ~、小癪な~~、これでも喰らえ!!」
ファイティングポーズをとる英智にアイ・ビーム発射。
それを見事な旋回で躱す。
「は、速い!ならばギャラクシー・ミサイル、ファイヤ!」
肩部の装甲が開き、ミサイル発射。
英智は上空へ飛び上がり回避するが、ミサイルはピタリと後を追尾。
(あのミサイルは追尾型・・・。どうする?)
―――It's trusting(私に) for(考えが) me, Master. ―――
同時にデュランダルの指示が脳内に流れ込む。
(わかった。)
頷くと同時に急ブレーキ。
そしてミサイルに向かって猛スピードで突進。
「ウイングカッター!」
羽の剣で追尾ミサイルを全て切断。
真っ二つされたミサイルはその場で爆発。
そのスピードのまま「うっそ~~!」と叫んでいるギンガリオンへ突撃。
「いっけ~~ー!」
「く、く、来るな!!!!」
慌ててアイ・ビームを発射。
だが、目測が甘く撃墜できず。
超高速で突撃した英智のウイングはギンガリオンに命中。
「ぎゃあああああああああ!」
ダメージによりバランスを崩したギンガリオンはそのまま地上へと墜落した。




