10章 正義のヒーロー
助けてくれ!
こっちに来たぞ!逃げろ!
誰か、この暴走ロボットを止めてくれ!
四方八方から飛び交う悲鳴と叫び声。
そして周囲に充満する恐怖をさらに膨らますかのように高笑いするギンガリオン。
「どこだ、出て来い!暗黒ノ鮫!」
彼の思考回路には「何が何でも暗黒ノ鮫を捕まえる!」、「エーチ君を見返してやる!」の2つしかなく、罪悪感など全く存在しない。
鋼鉄の拳を振り下ろし、鋼鉄の足を蹴り上げ、指先と眼から放たれる光線は建物を瞬時に瓦礫と化し、地面にひび割れや大きな穴を作り、電信柱を圧し折る。
まさに縦横無尽。
無差別攻撃が降り注ぐ中、幸いな事に大怪我や命を落とした者はいない。(逃げる際の転倒で軽傷を負った者は何人かいるが。)
しかし人々の心には『恐怖』という大きな傷痕を深々と切り刻んでいる。
そんなロボットを誰が『正義の味方』だと思うのであろうか?
「さぁ出て来い、暗黒ノ鮫よ!この私が成敗してやる!姿を現せ!さもないともっとこの町を破壊するぞ!ハ~ハッハ~!」
堂々たる破壊宣言を口にした時だった。
「そこまでだ!」
逃げる人々を庇うように一人の勇者がギンガリオンの前に立ちはだかる。
「誰だ?!」
ギンガリオンの視覚レーダーに映し出されたのは、赤と白を基調にしたヒーロースーツに炎のように真っ赤なヘルメット―――そう、金属戦隊ハルコンジャーのハルコンレッドが目の前に立っていた。
「灼熱に輝く赤き金属、金属戦隊ハルコンジャー!ハルコンレッド、只今参上!」
セリフに合わせ、格好良くポーズを決めた一人の男に逃げ纏う人々は足を止め、そして歓喜と驚きの声を上げる。
「ハ、ハルコンレッドだって?」
「ハルコンレッドが俺達を助けに来てくれたぞ!」
「助けて~、ハルコンレッド~!」
ここは三度の飯よりもアニメや特撮、ゲームを愛する者達が一同に集う場所―――アニメ横丁。
そんな彼等の中に一代風靡した大人気ヒーロー、『ハルコンジャー』を知らない者は一人もいない。
ハルコンレッドのコールが沸き起こる中、冷静に戦況見つめる一体のロボットとハルコンレッド。
「あれは、エーチ君か・・・。」
身体データを照合。(声はヘルメットのせいで判断出来なかった。)
その結果、99.9%で英智だと結論が出された。
「何であんな格好で私の前に?そうか、自分の間違えを正されないために私の邪魔をしに来たのだな!」
彼の電子頭脳はすでにオーバーフロー。
その為、支離滅裂な考えしか浮かばない(そしてこのことにギンガリオン自身も全く気付いていない。)
「いいだろう、この私に歯向かうことがどれほど愚かなことか、その身に刻みこんでやる!」
いかにも敵役がいいそうなセリフを口にするギンガリオン。
(あいつ、何言っているんだ?)
ギンガリオンの独り言を聞いて呆れ返るハルコンレッド――ではなく英智。
しかしそんな悠長な考えは一瞬で無くなる。
何故ならギンガリオンが英智にトルネードパンチを繰り出してきたのだ。
「危なっ。おい、何をするんだよ!」
素晴らしい反射神経と運動神経で攻撃を躱した英智が叫ぶが、ギンガリオンは聞く耳持たず。
次なる攻撃を仕掛ける。
「この馬鹿野郎!」
華麗なステップで躱し、反撃。
右足を軸に回転し、回し蹴り。
ドーン!
回し蹴りがギンガリオンの脇腹を直撃―――しなかった。
ギンガリオンは瞬時に円状の鋼鉄製の盾を左腕に装着し、ガードしたのだ。
「甘い。そんな攻撃、通用しないぞ!」
「なら、これはどうだ!」
すかさず右足で地面をジャンプ、ギンガリオンの顔側面を狙う。
「くっ!」
反対の腕でガードするギンガリオン。
反応が少し遅れたため、衝撃を全て逃がせず上体が揺らぐ。
その隙を英智は逃がさなかった。
そこだ!と言わんばかりにラッシュ攻撃。
右拳、左拳のコンビネーションから足払いを挟んでのソバット。
決定打ではなかったが、幾分かのダメージは受けたはず。
そのまま畳みかける英智。だが、
「うぬぬ、調子に乗るなよ、エーチくん!」
不容易に繰り出した右パンチを掴まれた。
「しまった。」と思った時には、天地が逆に。
ギンガリオンの一本背負い。
英智は瓦礫の山へ投げ飛ばされた。
「くそ~~~ってあれ?」
咄嗟に受け身をとった英智は周りの瓦礫をどかして立ち上がった時、自分の身体の異変に気付く。
「身体が痛くない。衣装も破れていないし・・・。何でだ?」
今英智が着ているのは未亜の力によって最大強化されたコスプレ衣装。
その強度は鋼鉄より遥かに上。
つまり英智の全身は鋼鉄の鎧で守られているのと同じなのだ。
そして重さは普通の服と変わらない。
「余所見をするとはずいぶん余裕だね、エーチ君!」
「わ!」
ギンガリオンの飛び蹴りを地面に転がって回避。
「こいつ~~。」
考えるのを後、英智はまずこの馬鹿ロボットを止めることに集中する。
「あの少年、意外にやりますね。」
1人と1体の戦いを少し離れた場所でひっそり観戦するクルサードと未亜。
「でしょう。英智君は運動神経抜群だもん。私みたいに部活の助っ人も頼まれるほどだし。」
「・・・・・・、ミア様、何故あなたがそんなにも自慢げなのですか?」
嬉しそうに胸を張る未亜に対してため息をこぼすクルサード。
「いいじゃない。別に・・・。あっ、そこよ!」
「ミア様、今のうちに逃げた方が・・・・・・、って全然聞いていないし。」
英智の応援に夢中の未亜にまたもやため息をこぼすクルサード。
(それにしても両者、何か言い争っているような・・・・・・・・、駄目だ、周りの音がうるさすぎて全然聞こえない。)
何を話しているのか気になるが、聞こえないので渋々諦める。
「まぁ、詳しいことは後でミア様を通じて聞けば―――「あっ、そうだわ!!」って何ですか?いきなり叫んで!」
「クルサード!私、いいこと閃いたわ。」
「・・・・・・。」
「何よ、その不満そうな顔は。」
「いいえ、こういう時のミア様の閃きはあまり嬉しくないことが多くて・・・・。」
「何言っているのよ。とにかく時間がないから耳を貸して。」
渋々クルサードは自分の耳を未亜の口元に近づける。
「ふむふむ・・・・・・・・・・・・・。はい~~~~~~~~~~~!?」




