9章 『正義の光沢よ、今ここに集え!!』
「―――と、間違ってボタンを押しちゃった。」
段ボールへ仕舞う際、金属戦隊ハルコンジャーの変身ブレスレット(超合金)からボイスが流れてしまう。
ギンガリオンが逃亡して2時間が経過。
部屋は何とか元の形を戻しつつあり、今現在は思い出の品を段ボールへ仕舞う作業を行っている。
「それにしても懐かしいな~~。」
購入した当時の思い出が甦り、懐かしさに触れながら丁寧に段ボールの中へ。
「―――ん?なんだ、これ?誰が使っていた武器だ?」
最後のおもちゃ―――両手剣を手にした英智が首を捻る。
段ボールへ直したおもちゃはをいつ、どこで買った、誰の武器か思い出せることが出来たのに、この両手剣だけは全く思い出せない。
「他の物と比べてずいぶん大きいし、買ったなら絶対に覚えているはずなんだけど・・・。」
それなのにこの武器の名だけは鮮明に――脳内にはっきりと文字が浮かび上がっていた。
「でも知っている。俺はお前の名を・・・。」
自分の意志を反して勝手に、呪文を唱えるかのように口が動く。
まるで外部からの意志がその剣の名を呼ばせようとしているかのように。
朦朧とした意識の中、英智は徐に口を開く。
「そう、お前の名は――――。」
キァイーン!キァイーン!金属戦隊ハルコンジャー♪
「!!」
携帯電話の着信音で我に返った英智。
両手剣から携帯電話に持ち返る。
「もしもし。」
「英智君。」
電話の相手は未亜だった。
「あのね、この前撮影で使ったハルコンレッドの衣装、まだ英智君が持っていたよね。」
「そうだけど。」
「実はお得意さんがイベントで使いたいらしく、今すぐ用意しないといけないの。」
「了解、なら今から持って行こうか?」
「本当に!じゃあお願いしてもいい?」
「任せて!それじゃあまたあとで。」
電話を切り立ち上がる英智。
一瞬、床に置かれた両手剣に後ろ髪を引かれる感覚に陥るが、それを振り切って部屋を後にする。
誰もいなくなる部屋に残された両手剣。
「・・・・・・。」
柄の先の勾玉が一瞬輝きを放つのを目撃した者は誰もいなかった。
「店長、衣装の件、大丈夫です。」
「そうか、それは助かるよ。」
安堵の表情を浮かべる店長。
買い出しついでに先に昼食を食べに行く、と言い残して店長は店を出ていった。
一人店番の未亜。
(さてと、お仕事頑張りましょっと。そうだ、英智君が来たら、お礼ついでに一緒にご飯を食べに行こうっかな。)
そんなことを考えていた時だった。
「ミア様~~~~~~~~~~~~~~~!」
扉が開いたと同時に猫の姿のクルサードが未亜の胸元へダイビング。
「ど、どうしたのよ?クルサード!」
本来なら猫の姿で人語を話すな、と戒めるのだが、眼に涙を浮かべて切羽詰まった表情を見て、ただ事ではないことを察知した。
「た、たた、大変です。じ、実は銀河の十字架に見つかってしまいました!」
「な、なんですって!」
驚きと興奮のあまり、クルサードを激しく揺さぶって事情と問いただす。
「ちょっとどういうことよ!ねえねえ!」
「ぐぷっ、ミ、ミア様。せ、説明しますので、激しく揺らすの、勘弁。」
未亜の激しい揺さぶりで軽く酔ったクルサードは嘔吐しないよう気を付けつつ、ギンガリオンと出くわした経緯を説明した。
「何とか裏路地と猫の姿でここまで逃げ延びてきたのですが・・・。しかしまさか・・・、銀河の十字架の刺客が地球に来ていたとは・・・。」
「まさか、そんな・・・。そ、それでそのロボットは今どこ?」
「分かりません。何せ吾輩は逃げるのに必死で。」
「それは仕方がないわね。」
クルサードは諜報要員。
戦闘用ロボットに敵うはずはない。
(まさか、銀河の十字架に出くわすなんて・・・。ああ、長から授かった三種の邪器さえあれば何とかなるのに・・・。)
「ど、どうしましょう?ミア様。」
「と、とりあえず暫くは身を隠していましょう。大丈夫、まだ私の姿を見られた訳ではないし、クルサードも姿を変えれば何とか逃げ延びれるわ。」
クルサードだけにではなく、自分自身にも言い聞かせた時だった。
「出てこ~~い!悪の組織、暗黒ノ鮫の一味よ!隠れても無駄だ。貴様がこの近くにいるのはわかっておるのだ!!!」
大音量で叫ぶ声が未亜達の耳に突き刺さる。
「ミ、ミア様!」
「落ち着いて、あの感じでは私達がどこにいるかわかっていないわ。」
恐怖で震えるクルサードを叱咤激励。
「大丈夫よ。このままやり過ごせば―――。」
「さっさと出て来い!!私の名はギンガリオン。正義の使者、銀河の十字架の一員だ!」
苛立ちの声がアニメ横丁中に響き渡る。
(くそっ、どこに消えたのだ。この近くにいることは確かなのだが・・・。)
上空から追跡していたのだが、この付近で見失ってしまったギンガリオン。
焦りと苛立ちが募る。
(この付近に逃げ込んだということはアジトがこの近くにあるはず。一体どこだ?)
地上ではギンガリオンの大音量に群がり始めた野次馬達。
「なんだあれ?」「何かのイベントか?」と首を傾げる者がほとんどだ。
(どうする?どうすれば奴らを見つけ出せる?)
再びカビの生えた電子頭脳で演算開始。
誕生してから今日まで、これほどたくさん使用したことがなかった為か、コンピューターはオーバーフロー気味。(しかし当人はそのことに気付いてはいない。)
そんな彼が導き出した方法はこれだった。
「よく聞け、暗黒ノ鮫の一味よ!投降しなければこの街ごとアジトを破壊する!!」
「な、なんですと!ミ、ミア様!」
「落ち着いてクルサード。相手は正義を謳っている銀河の十字架よ。地球人を危険な目に遭わすような行動はしないわ。」
「そ、そうですよね。」
「ええ、だからやり過ごせば大丈夫。相手は私達の居場所が分かっていないのだから。」
「10数えるまで待ってやろう!さぁ、おとなしく出てこい。」
そう言ってカウントダウンを始めるギンガリオン。
その間、「おい、この街を破壊する、って言っているぜ。これ、拙いじゃねえか。」「なんかの撮影だろう、これ。」などと野次馬達の騒ぎは大きくなり始める。
少々の不安があるが、逃げ出す者は誰もおらず。
何かの撮影だと考える者が殆どだった。
「5,4,3,2,1、・・・0。・・・・・、やはり出てこないか、仕方がないな。」
両手を前へ突き出す。
十指の先に溜まるエネルギー。
狙いは群がる野次馬達の中心。
「おいあれ。本気でやばいじゃねぇ?」
野次馬達もここで気付く。
一人が抱いた疑心暗鬼が瞬く間に伝染、周囲は騒然となる。
「それでは敵アジト壊滅のため、街破壊を開始する。」
十指から発射されるレーザー光線。
ドーン!!
「きゃあああああああああ!」
「に、逃げろ!!!」
地面は爆撃され、大きな穴が形成。
逃げ迷う人々。
数分前までは活気に溢れ、平和だった町は一体の(自称)正義ロボットの登場により破壊されていく。
「ふははは、素直に投降しなかった奴らが悪いのだ。」
「ミ、ミア様!あのロボット、本当に町を破壊し始めましたよ!」
クルサードが爆音に負けじと大声を出す。
「全く何を考えているの!」
怒りを露わにする未亜。
「こんなにも活気に溢れて、触れ合う人々の繋がりを大切にするこの町を破壊するなんて、許せない!」
「だ、駄目ですミア様。相手は銀河の十字架の戦闘ロボット―――ZS‐R03です。ミア様の力だけではどうにもできません。」
街を破壊するロボットを止める為、エプロンを脱ぎ捨て外に出ようとする未亜の足を掴んで引き留める。
「わかってるわよそれぐらい。でもこの町を破壊されるのをただ、指を咥えて見ているなんて私にはできないわ。」
「ミア様・・・。」
「私は戦うわ。勝てなくても、この街の為に!」
未亜の言葉に感銘を受けるクルサード。だがすぐ我に返る。
(あれ、おかしくないか?我々は悪の組織の一員でどちらかと言うと街を破壊する立場であって・・・。しかし、相手は正義の使者。つまり、我々の敵であるので相手の行動に対して阻む権利があって・・・。んん?)
今の状況がよく分からなくなり頭を悩ましている隙に未亜は外へ飛び出した。
が、
「きゃっ!」
「うわっ!」
店の前で出会い衝突。
「痛~~、ご、ごめんなさい・・・て、英智君!?」
「だ、大丈夫か未亜?」
先に立ち上がった英智は未亜に手を差し出し立ち上がらせる。
衣装を届けに来た英智。
彼がアニメ横丁に到着した時にはすでに破壊活動が開始されていた。
英智自身、何が起こっているのかよく分からなかったが、とりあえず未亜のことが心配で押し寄せる人の波に逆らって未亜の元へ辿り着いた次第である。
「ど、どうしてここに?」
「未亜のことが心配だったんだ。」
(えっ!英智君が私のことが心配して。)
まさに不意打ち。
胸がときめく未亜であったが、すぐに考えを改める。
(ううん、駄目駄目。英智君には美桜がいるんだから。それに今の英智君の言葉に他意はない。友達として心配しているだけなの。)
彼との付き合いはそれなりに長い未亜。
どういうつもりで今のセリフを発したのはよく理解できていた。
未亜は気を引き締め直す。
「それにしてもこれは一体何の騒ぎだ?街が破壊されている、とは言っていたけど・・・。」
「えっと、ね・・・。信じられない話なんだけど。」
未亜は少し真実をぼかしながら現状を説明する。
「実はロボットが街を破壊しているらしくて・・・。」
「ロボット?」
眉を顰める英智。
(まぁ信じられない話よね。)
疑心暗鬼になるのは仕方がない、と心の中で頷く未亜。
しかし、真実は違う。
英智は疑心暗鬼ではなく、嫌な予感を抱いていたのだった。
(ま、まさか・・・。)
英智の背中に嫌な汗が流れる。
「ど、どんなロボットなんだ?」
英智からそんな返答が来るとは思ってなかった未亜。
おもわず詳しい内容を教えてしまう。
「えっと、銀河の十字架、ギンガリオンって名乗っていたけど―――(っ、しまったわ!)」
(やっぱりあいつか!!!!)
お互い、頭を抱える。
(あいつ~~、遂に人様まで迷惑をかけるようになったか!)
脳内で高笑いするギンガリオンへの怒りが再び急上昇。
自然と騒ぎの方へ足が進む。
「あれ?ちょっと英智君。どこに行くのよ?そっちは危ないわよ。」
英智の行動があまりにも予想外だったので驚き、慌てて引き留める。
「未亜。君は危ない。早く避難した方がいい。俺がこの騒ぎを止めに行く。」
「無茶よ!」
未亜の掴む手の力が強くなる。
「英智君も危ないから避難して。」
「いや、それは出来ない。」
「な、何で?」
その問いに答えられない英智。
お互い本当のことが言えず、無言になる2人。
爆発音と崩れ落ちる瓦礫の音が徐々に近づいてくる。
「答え、られないの?」
「ああ、ごめん・・・。」
見つめ合う2人。
(強い意思。やっぱり英智君だわ。)
「・・・・・・、わかったわ。」
未亜の手の力が緩む。
(ミア様!?)
(無理よ。私には止められない。この英智君の眼を見たら・・・。)
強い意思と曇りのない眼差し。
どんな困難でも正面から立ち向かってみせる、という信念が十二分に伝わってきた。
(止められないのであれば。それなら私は・・・、彼を助ける。)
「でも、お願いがあるわ。」
「お願い?」
「そう・・・。これを使って。」
そう言って英智に手渡した物――それは英智が持ってきた紙袋だった。
「英智君の助けになる筈よ。」
「わかった。ありがとう。」
「無事に帰ってきてね。間違っても美桜を悲しませないでね。」
「わかってるさ。ありがとう。」
英智は爆風の塵舞う戦場へと駆け出していった。




