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騎士と隣の前線魔術師  作者: 日向の猫
プロローグ
9/10

9話

「終わりましたね。シル。」

弛緩した空気の中、魔術師の内の一人がリズを氷漬けにした魔術師に声をかける.

「やりすぎだ。特に魔術師の方はできれば生け捕りに、という話だっただろう。」

もう一人の魔術師がシルを諫めるような声を上げる。

もともと広範囲の氷結魔術は作戦に組み込まれておりシルは戦闘に参加せず最善を待っていた。それはあくまで相手の足を止め,その間に生け捕りにするための作戦であった。

「連携の要である前衛が行動不能にされ、相手の騎士と魔術師は無傷。十分に危機的状況でしょう。相手の生死まで気にしてたらこっちがやられてましたよ。」

「その割には相手の魔術師は無抵抗に思えたがな。テレンスさんの言うように魔術の行使に時間がかかる相手ならもう少し様子を見てもよかっただろう。」

「二人とも。気が緩むのもわかりますが、まずは剣士さんの治療が先でしょう。」

それもそうだ、と魔術師二人が治療に移ろうとする。

見れば剣士の右腕は凍り付き、すでに出血は止まっていた。

「氷での止血をこのまま続ければ細胞が壊死してしまうわ。早くローブで圧迫して氷を解かさないと。」

シルがいそいそと着ていたローブを割く。

その様子に二人の魔術師は動けずにいた。

(あれほど大規模な氷結魔法で剣士の腕の切断面だけを正確に、細胞が即座に壊死しない温度で凍り付かせるとは)

異常な精度。神業と呼んで差し支えない。

シルヴィアはすでに魔術のコントロールにおいてテレンスに比肩している。

(最年少で魔力探知をものにした天才。)

その才能の片鱗を目の当たりにし、二人の魔術師は気が滅入りそうになるが腐っても歴戦の魔術師、今それをしている暇はないと切り替える。

「治療が終わったら早いとこ二人の死体を確保して移動しましょう。ここでは応急処置しかできませんから。」

魔術師は言いながら死体袋を取り出す。

そこで何かの気配に後ろを振り返る。

「は」

すぐ後ろに迫る倒したはずの敵の魔術師を目の当たりにし、魔術師は魔法陣を構築する間もなく押し倒される。

(失敗した。)

相手は未知の魔術を扱うやり手の魔術師。

余りにあっさりと倒されたことにもっと疑問を持つべきだった。死体の確認を優先するべきだった。

(いや、あっさりではないか。)

魔術師団にもそういない規模と威力の氷結魔術。だからこそ確認もなく警戒を解いたのだ。あれで倒せないのであれば相手が悪かったとしか言いようがない。

意識が暗転するまでの数秒。

魔術師が見たのは周囲に舞うおびただしい量の光輝く術文字だった。





問題は見張りだった。

さかのぼること数分。

フィンはリズが戦闘を開始した直後に敵の魔術の解析を終えていた。

(敵の魔術基盤は古い文献に記された法陣魔術で間違いない。)

フィンや王国の魔術師が使用する筆記魔術とは異なり、術文字ではなく魔法陣を用いて行使される魔術が法陣魔術である。

その特質は、術文字は魔力線が組み合わさって意味を成すのに対して魔法陣は魔力線そのものが意味を持つことにある。

魔法陣の構築は円形魔力線の記述が起点となるが、この円形魔力線が座標軸の役割を果たし、その内外に記述される魔力線が座標によって意味付けされる。

これにより法陣魔術は圧倒的な魔術の起動時間短縮と魔力効率の良さを実現する

筆記魔術はいちいち術文字を書かなければならないのに対し、法陣魔術は円形魔力線さえ記述してしまえばあとは線と点を書くだけで済む。

一本の線を引くのと文字を書くのでは、前者の方が時間をかけずに済む。

加えて円形魔力線を用いて魔力を循環させることで魔法陣全体への魔力供給がほぼノータイムに行え、そのおかげで魔力のロスも少なく済む。

ダメ押しでそもそも筆記魔術に比べ必要な魔力線の量が少ないため魔力を通す部分も少ない。

これだけメリットの大きい法陣魔術だが、王国では全く普及していないどころか使い手は一人としていない。

原因は起点となる円形魔力線の記述難度の異常さである。

円形魔力線の記述自体は難しくない。魔力線で丸を書けばいいだけなので魔術師であればだれでもできる。

だが記述される円形魔力線は座標軸代わりであり、縦横比が変われば座標が示す意味を変わってくるのだ。

そのため一つの円形魔力線において各座標の示す魔術的意味を解読しても、再度相似な円形魔力線を記述できなければまったく意味がない。

相似な円形魔力線を毎回寸分たがわず記述するなど、もはや人の手によって実現できる芸当ではない。

相似な円形魔力線を記述する筆記魔術を毎回行使すれば可能だが、一工程増えるだけで起動速度と魔力効率という強みは大幅に下がる。

それをするなら最初から目的の魔術を筆記魔術で組み上げた方がいいというほどに。

ゆえに法陣魔術は王国では普及していない。

一時期フィンも研究していたがデメリットの解消法が見つかず使えない魔術として見向きもしなくなった。

(んだがな。)

目の前の他国の魔術師がその法陣魔術を行使しているということはおそらくデメリットの解消法が存在するということ。

そしてデメリットさえ取り除ければ法陣魔術は前線で扱うにおいて最適と呼べる魔術だ。

命を懸けるくらいの価値はある。

(とはいえ円形魔力線の記述方法が全く掴めないな。どの解析魔術にも引っかからない。とすれば外部機構ではなく内部、体内にカラクリがある可能性が高い。)

いくらフィンの解析魔術とはいえ他者が操作する濃密な魔力の流れる魔術師の体内まで見通せるほどの精度はない。

(触れられれば何とかなるが)

他国の魔術師に触れられるほど肉薄する、という目標に対して問題は一つ。

目前の魔術師たち三人でも、剣士でもなく。

(なんなんだあれはいったい。)

先ほどから法陣魔術を解析するための魔術に引っかかっているまったく別方向の人型。

反響定位魔術でも単純な索敵魔術でも見つからなかった、他国の魔術師と思われる人影。それを見つけた時、フィンは驚愕を表に出さずにいた自分を褒め称えたい。

反響定位魔術だけならまだしも、索敵魔術で見つかる人特有の魔力の流れはどれだけ巧みな魔力操作や気配偽装を用いてもそうそう隠しきれるものではない。魔術で隠そうとしてもその魔術自体が索敵にかかる。

基本的に索敵魔術に抜けはない。

その索敵魔術を掻い潜る魔術師というのは、つまりやばい。

(なんて隠密性能してるんだ。自分の体内の魔力を周囲になじませてるのはまだわかる。体内魔力濃度を下げながら自然界で起こりえる魔力の揺らぎの範囲内で望遠魔術の行使ってどんな精度と集中力だよ。)

解析用の、本来ならノイズとして切り捨ててしまうような微細な情報をすべて拾い上げる魔術を用いて得られた生データを数種類の解析にかけて偶然発見できたのだ。

そして距離もまた絶妙だ。

敵の法陣魔術の解析結果から射出型の有効射程はある程度推測できる。その推測における最大有効射程ぎりぎりにこちらの戦闘範囲を入れ込んでいる。

戦闘範囲全域に即座に援護可能な限度距離の的確な判断。

魔術師たちに触れて解析を始めようものなら間違いなく攻撃してくる。そしておそらくこちらが目くらまし用の魔術や妨害魔術を仕掛けた時点でアウトだ。これだけの隠密性能を持つ魔術師がその隠密を看破した魔術師を警戒しないわけがない。

法陣魔術という前線特化のような魔術を扱う、目の前の魔術師たちよりも格上の魔術師。

流石にこの魔術師が参戦してくれば勝ち目はない。

問題は、この見張りだった。

だから、フィンは敵が大規模な魔術を行使したのをきっかけに、奥の手の一つを使った。





視界を埋め尽くすほどの術文字。

それらは消えず常に周囲を飛び回っている。

にもかかわらずあの隠密魔術師からの援護はない。

(ひとまず第一段階突破。時間をかけたかいがあった。)

思考しながら残り二人の魔術師と剣士に触れる。

フィンの筋力では明らかに不可能な素早い動き。

俊敏の魔術を自身に行使することでそれを可能にしている。

そして触れることで使用可能となる一つの魔術を行使する。

感覚遮断。

全身に使えば半分ほどの確率で死に至る危険な魔術の一つだが、今回は殺して他国に喧嘩を売るわけにはいかないため首から下の感覚を奪う。邪魔をされないためだ。

先に押し倒した魔術師には加えて昏睡の魔術も行使している。

「これで邪魔はなくなった。」

ようやく、法陣魔術の芯に迫れる。

フィンは満面の笑みを浮かべ、魔術師体内を解析する魔術の記述を始めた。


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