三者三様
遡ること、翼が教会の馬車を降りた頃。
「じゃ、私は忙しいので」
軽く手を上げて颯爽と酒場を出ていくアルフレッドに
杯を掲げてバレルが応えていた。
まさか、あやつのナンパが上手くいくところを初めて見たわい。
姫様たちと別れてとりあえず寄った酒場で
一杯飲んだ後、マスターと何やら話ているルーカスが
とっととどこかへ消えて行きよった。
次いでカウンターで一人飲んでいる熟女に声をかけた
アルフレッドが今、出て行きよった。
流石アルフレッドじゃ、
ストライクゾーンがデカいわい。
まぁええ、こうやって周りの喧騒に耳を傾けつつ
ひとり飲む酒もわるくはない。
「あの後家さんに声を掛けた奴、初めて見たぜ」
「まったくだ」
おっと、気になるのぉ
「なぁ、教えてくれんか。
その後家さんと出ていったのは儂の連れなんじゃ」
隣のテーブルで飲んでいた二人は、怪訝な顔をする。
「なんだよ」
「まぁそう言わんと、ここの酒代は持つから」
そう言うと掌を返したように二人はにこやかになった。
「仕方ねぇ〜なぁ」
「あの女は、キャンディ・ホーンつってな。
死んだ旦那は大蔵大臣の秘書やってたんだ」
「そうそう、昔っから生真面目な男でよ。
こんな酒場に来たことねぇーんじゃないか」
「ああ、来てねぇーよ。来てもつまんねぇけどな」
ガハハハと笑う2人は、
けっこうアルコールがまわっている
話がズレてきそうだ
「で、なぜその大臣の秘書さんは死んだんじゃ」
「ああ、ハメられたんだよ」
「そうそう、ロバート・ホーン。
ガキの頃から勉強ばっかやるやつで、いじめたな〜」
「こいつら、話が昔話になっているわい」
「まぁ聞けや、兎に角ロバートはガキの頃から
なんでもコツコツと真面目だけが取り柄の
ガリ勉野郎だったんだ」
「キャンディも若い頃は可愛いかったよな」
「そうそう、キャンディの親はそんな真面目な男ならって愛娘をロバートの嫁にしたんだ」
「その頃ロバートは、前大蔵大臣に才能を認められ秘書に抜擢された。
その後も順風満帆、子供には恵まれなかったが
キャンディの親御さんの葬式も立派なもんだったぜ」
「いやいや、親御さんの葬儀はええから
本人がなぜ死んだか聞いてるんじゃ」
「ああそうだったな、罪状は横領なんだけどよ。
んなことあのロバートができるかよ。
超ビビリで真面目だけが取り柄の男だぜ。
二人ともなんら派手な暮らしをしていたわけじゃし、
全くの濡れ衣なわけよ」
「そう、流石にロバートも
あまりにも身に覚えのないことだから
自分が犯人じゃないって証拠を集めてたんだ。
けどその矢先、首をつった」
「ああ、自分がやりましたって遺書付きでな」
「誰がどう見ても不自然だけど、
結局自殺で処理された」
「誰もわが身がかわいいからな」
「その頃のキャンディは見てられなかったぜ」
「そんなズタボロのキャンディに声をかけたのが
このあたりを仕切っているマフィアの幹部
サルサ・アネモスだ」
「いつのまにか家も何もかも無くしたキャンディは、
街の女郎屋で見かけるようになり」
「年くってとうとう買い手のつかなくなった
オバサンは、こんな場末のバーで
美人局みたいな真似までさせらせてるわけだ」
「つー理由であんたの連れ、ヤバいかもしれねぇ」
ガハハハ!大声で笑う2人に
「大丈夫じゃよ」
「?バックにはマフィアがついてるんだぜ」
「俺たちだって気にはしてるんだ」
「ケドなぁ」
「大丈夫!ケドたまには痛い目にあわされれば、
面白いがのう」
ガハハハ!今度はバレル1人が高笑いした。
それから3時間ほど、
酔っ払いと談笑していたバレルを
やっとのこと城の兵士達三人が見つけた。
「勇者様のお連れの方でしょうか」
「いかにも、勇者と言ってもいいほど凄いバレルです」
ベロンベロンで、ろれつの回らないちっさいオジサンが、
上機嫌で応える。
「やっぱり三人一緒じゃないんだ」
「見つからないわけだ」
「あの〜、他の二人はドコに……」
「いや、もはや儂が勇者じゃ」
「ダメだコリや」
「兎に角、城へお連れしよう」
「バレル殿、城へ参りましょう」
「ん゙、酒は?」
「もちろん存分に」
「行こう!」
さっさと外へ出るバレル。
「まだ飲む気だよ」
「やっと一人か」
「お前ら勇者様の連れじゃねえよな」
バレルと飲んでいたいかにも町人風の二人にも
とりあえず声をかけるが、コチラは酔いつぶれて
返事もしない。
「おおーい。次行くぞ次」
「ハシゴじゃねえんだけどな」
そう言って、バレルを追いかけるように
店を出ようとした兵士達に
強面の店主が声を掛ける。
「あ~お支払いがまだなんですがね」
「えっ、……っと。
城の方につけといてもらえませんかね」
「なんですか、城の方って。
舐めてんすか。金払わないつもりなんですか」
「おい、いくら持ってる」
「……」