早急に出発できましぇ〜ん
王都に戻った一行は門をくぐり抜けると、直ぐ
ジャン隊長他13人の兵士達と別れた。
「では、我々はフローラ姫を王宮まで」
ジャン隊長がそう言うと、縄でぐるぐる巻きにした
野盗の頭を引っ張って行く。
兵士達はよっこいしょっとみこしを担ぎなおした
簡易的なみこしに乗せられたままフローラ姫が
すまし顔運ばれて行く。
門のところで馬車でも呼べばよかったのに
とも思ったが、みんな疲れて頭が回っていない
のか口に出さない。
その姿を見送っていると、
白装束のお兄さんに翼は声をかけられた。
「すみません」
「あっ、結構です」
反射的に答えたが、宗教の勧誘じゃないのか。
不思議そうに頭を傾けたお兄さんは、
「勇者様ではございませんか」
「あっ、はい。そうです」
「司教様が、一度教会の方へ顔を見せてほしいと
仰られまして」
「はぁ」
やっぱり宗教じゃん。
そう言えば、教会は魔王に敵対している
とかなんとか聞いたことが
あるような無いような。
「ご案内致します」
手を向けた先には真っ白な馬車が。
うわぁ~っと思いつつも、振り返って声を掛ける。
「皆さん。とりあえず……?」って
「ドコ行ったんだよ。何時からいないんだよ」
「先程からお一人でしたが」
「信じらんない。
目的地周辺に来たら案内終わんのかよ、俺一人だよ」
「コチラへ」白装束が白馬車に誘う。
こいつらもマイペースだよ。
まァいいや。
翼は、馬車に乗り込んだ。
思えば理由の分からないまま
こんなところまで来てしまったけど、
パパやママは心配しているだろうなぁ。
ちょっとコンビニへ行くって、言ったきりだもんな。
「ええ〜!勇者シリーズのフィギュアもうないんですか」
「ええ、先程当たりくじが出まして」
爆発的に人気が出たアニメ伝説勇者シリーズの新作、
第七段黒狼城編のくじが大人気で
ドコのコンビニへ行っても
売り切れ。
やっとのこと街外れのコンビニで、
くじのボックスを見つけたというのに
「くそう!もうルクセラちゃんのフィギュア無しかよ」
一推しのルクセラちゃんフィギュア、
初期から集めているのに……ぐやしい。
特に今回は魔落ちしたコスが絶妙にエロいのに
近所のコンビニで小遣い全部使って全ハズレ、
やっとママに小遣い前借りして来たというのに……。
「ルクセラちゃんに会いたい。
勇者になってムフフなことしたい!」
こんなに人気なのにクラスのやつら。
学校へ行っても楽しいことなんて何もない。
こんなに人気のアニメなのに、みんな大人ぶりやがって
「ええ〜、枝水くんてオタクなの。キモ」
なんだよ悪いかよ。
カースト上位の奴らなんて……絶対アニメ見るなよな。
異世界行ってら絶対勇者になる。
本気だす。
「…、お…らば……、勇者にな……いか」
「えっ、誰?怖いよ昼間っから幽霊なのか」
「……、…、」
「誰だよ。
なれるものならなりたいよ」
「良し!繫がったぞ。勇者の確約取ったぞ」
頭に響く声とともに目の前が暗くなり、
気付けば異世界。
それからは怒濤のごとく時間が過ぎていった。
魔法陣の真ん中で気が付いた俺に、
まず聖剣ポイやつを抜かせて
勝手に盛り上がっているオッサン達と
ハイタッチとかして、
綺麗なお姉さんにご飯食べさせてもらって、
そこまではまぁ良かったけど
ヤレ魔王を倒せだと?!
「無理です」
いや、マジで無理だろ。
本物の剣なんて初めて持ったし、俺一人なの?
死んじゃうよマジで、すぐ死んじゃうよ。
どうしてもっていうなら、
まず可愛い同じ年頃のヒーラーを
パーティーメンバーに入っていることが必須でしょ。
その他にもツンデレ系の魔法使いと、
短いチャイナ服を着た格闘家
ああ、それとちっちゃいけど身体と不釣り合いな
武器を持った少女。
コレくらいは必須でしょ。
ところが……、来たのがオッサン三人。
確かに強いよ。
けどさ、人を斬るわ血が出るわ
こう、パァッと死体とか消えないのかなァ。
俺トラウマになっちゃうよ。
「ああ〜、帰りてぇ」
一人になってそんなことを考えていたら
着いてしまった。
連れて来られた先は、真ん中に十字架を掲げた
白い東京駅。
のような教会。
扉を開けるとまだ作っている途中らしく、
足場を組んで壁に絵を描いている。
「これはこれは勇者様、
ようこそおいでくださいました」
この金で縁取られた白装束のおじさんが、
司教様なのだろう。
「お疲れでしょう。
どうぞ今宵は、私どもエウドーナ教会に
お泊まり下さい。
明日、気持ちよくご出立できますよう
教会の神父共々おもてなしさせていただきます」
「えっ、すぐに出ていかなきゃいけないの。
俺、顔を見せてほしいと言われただけだけど」
「それはもう、世界中の人びとが魔王の脅威に眠れぬ夜を過ごしております」
の割には司教、太ってんな。
「あ〜、連れがまだなんですが」
「え〜っ、お連れがいらっしゃるので」
あからさまに嫌な顔するな。
「いますよ。勇者一人じゃ寂しいでしょう」
「わがままな。
皆さん、お連れを連れていらっしゃい」
近くの神父に声を殺して言ってるつもりでも、
あんた地声がデカいよ。
それにしても神父さんの他には、
ママより年上だろうシスターばかり
もっと少女っぽいシスターはいないのだろうか。
旅の序盤のここは、可愛いヒーラーが新しい仲間になる
展開のハズなのだが……何もおこらない?
出ていく神父と入れ違いに、小綺麗な服を着た
剣士と他の神父ご入ってきた。
「この度はフローラ姫様救出を、お手伝いいただき
ありがとうございます」
深く礼をされた。
「いえ、俺は何も」
本当に何もしていない。
「へぇ!
姫様が救助された?誠ですか」
鳩が豆鉄砲食らった様な顔をして司教が、
驚いている。
俺は違和感を覚えながらも、
目で剣士に続きを促した。
「はっ、お礼ともども王城に招待致したく
……、他の方々は?」
「全くぜんぜん本当に、どこにいるのか分かりません」
「ではコチラで探します。
ひとまず勇者様だけでもご同行願えますか」
俺は、司教を見る。
「いってらっしゃい」
「どうぞ、ごゆっくり」
あれ、急いでるんじゃなかったっけ。
これまた豪奢な馬車に乗せられ、
国会議事堂より倍以上大きな城へ案内された。
街の真ん中にあるこの城は、横に広くあまりナーロッパっぽくない。
それこそ真ん中と左右の建物だけが
3階か4階くらいしかないようだけど、
端まで遠いよ。