勇者登場
「で、あるからにして他国と協合をする上でも
勇者召喚は我が国の悲願でありました。
思い起こせば早幾歳月、失敗を重ねつつも
焦らず慌てず迅速に……あの涙の日々」
玉座に座る王様に一礼の後、前に立って摂政の話が始まること一時間と少し、
ルーカスは、焦点の合わない目でまえを見つめ。
バレルは、アルフレッドにもたれて立ったまま寝ている
アルフレッドは、バレルの肩をしっかとつかんで、
貴婦人を見つめ何かを想像しているようだ。
「つ・ま・り!!」
急に大声を上げた摂政を、全員が凝視した。
その中で一番ビクッとして見たのは王様である。
「あぁ良かった。
王もずっと寝ていたんじゃな」
と、バレルが小声でルーカスに言う。
「ワイはずう〜っと起きてたで」
「いや、そういうのいいからの」
王様が摂政を手招いて、何やら話している。
眉間にシワを寄せて、定位置に戻ると
うー、オホン。と、咳払いをして
「では、勇者様の入場である」
「ふぅ~、やっとじゃ」
勇者が上てからやって来る。
「ながいよー!ずっと袖口で待ってるのに、
やっとだよ」
「まぁまぁ気にせずに」と、摂政。
「この摂政なかなかの傑物と見た」
「やっと前、見たんやな」
「あの貴婦人は、ずっと熱い視線を投げかけているのに目を合わせてくれん」
「お主もなかなかの傑物じゃぞ」
「そこ、静かに」
摂政が3バカを諌めつつ、勇者を真ん中へ招く。
「こちらが、勇者!枝水 翼様である」
3人からは、なんの反応もない。
「勇者様、こちらが同行する者達です。
騎士団の中でも、強者を選抜しました」
「男じゃん」
「そのとうりでございます。
この者たちこそ男の中の漢」
「イヤイヤ、そういう意味じゃなくてね。
勇者パーティーって、可愛い姫様キャラとか、
弓を持っているツンデレエルフとか、
ロリっ子の魔法使いとかあるでしょ」
「はぁ?
姫様は皆、嫁いでおりますが」
「そうじゃなくて、王女じゃなくても……」
「なんと!貴族の娘を側女にしたいとおっしゃるので」
摂政があたふたする。
内心見物に来ただけの貴族たちが、どよめきだす。
「ウチの娘が、狙いだったのか」
「あなた、落ち着いて」
「おっ、なかなか話の分かる勇者様じゃないの」
「お前は、黙っておれ」
「アホちゃうか」
「あ~もう、摂政さんが何もわかってないことは分かったよ!」
「では、こいつらという事で」
ご不満マンマンの勇者をそっちのけで、
さっさと摂政が話をまとめる。
先程とは打って変わって、話はすぐにすむ。
「では、明朝出発と言うことで」
摂政がそういうと
「大義である」
王様のシメで、終わった。
バラバラと帰る人波の中、ポツンと佇む勇者が
「あ~もうやる気しねぇわ」
と、呟く。
「まぁそう言わんと、次の国でいい女が
パーティーに加わるかもしれへんで」
ルーカスが、そう慰めると
なにを思ったのか
「そうか、そのパターンがあったな」
と、ひとりごちる。
「男旅の後から、ナミやロビンが仲間になるパターン
いいんじゃない」
少し不憫に思いつつルーカスは
「ああー、その女の人は知らへんけど。
ガンバロな」と言って、出ていこうとすると
「あぁ、ありがとう。君は良い人だな」
そういうと、懐からゴッソリと金貨を取り出した。
「旅費らしいんだけど、チョー重くてさ。
もしよかったら持っといてくんない」
ルーカスは、震えた。
自分にお金を預ける人間がいた事に
「ありがとう!もちろんだよ。
明日には、倍にしてみせるよ」