翼の決意
おじさん三人は大浴場へ向かい、防具は綺麗にしてもらっている。
「大浴場あるんだったら、僕もそっちの方がよかったなぁ」
中庭のテラスで朝食をフローラ姫ととりながら後に控えているメイドさんにそれとなーく愚痴る。
「翼、イリーネはおまえを思って自室で入浴させたのでしょう」
軽く頷くメイドさん
「?」
「あの段階で翼が大浴場へ行けば、十中八九暗殺されていたでしょう」
頷くメイドさん
「それじゃあ、寝ている間ずっと部屋にいたのは…」
「おまえを守るため」
カクカクと頷くメイドさん
「そうだったんだ。
ありがとう何も知らないで、怖いなんて思って」
何も言わずに微笑むメイドさん、なんで喋らないんだよ
やっぱりあんたちょっと怖いよ。
「それにしても、ヒドイ貴族だったな」
「バリエブ公爵は、私の叔父にあたる方です。
母の死後、気落ちして持病が悪化した父王の代わりを王太子に任せたのですが元々政に興味が無いせいか政務は宰相のイーサンに投げておりました」
「お母さんはなんで死んだの?」
「肝臓を悪くしまして……」
「すみません。余計なことを聞きました。
叔父さんの話でしたね」
「えっ、あああの人は元々自尊心の強い人でした。
最初は王太子の手助けのつもりだったのかもしれませんが、徐々に俺に任せろと言い出して」
「宰相は?」
「あの方はイエスマンです。
父王の言う通り動く官僚上がりの…、
父王も俺に任せろ的なところがあるものですから」
「兄弟ですからね」
「ええ、ですから公爵も名実ともに実権を手にしたくなったのでしょう。
自らの私兵を強化しつつ、マフィアとも結託。
ただ一人苦言を呈したのが当時の司祭でしたが
老齢の為引退して、かわりに来たのがポルカ司祭です」
「会いましたよ。
この国に着いてすぐに。
早く国を出ろだとか、ゆっくりしろだとか
よく分からない人だったな〜」
「彼は元使徒十傑の一人。
相当な猛者だったようです」
「使徒十傑ってなんです?」
「えっと、私も良くは知らないのですが、
神の矛と呼ばれている人々です」
「強そうですね」
なんかかっこいい肩書きだなぁ。
「はい、いらっしゃらなかったのは不幸中の幸いです。
ただこの方相当な好色家らしく、問題を起こしてここへ飛ばされて来たと言う噂もありまして、いろんな意味であまり会いたくない司祭様でした」
「で、その司祭とも結託していたと」
「そうです。
民衆を体のいい言葉でポルカ司祭が導き、
都合の悪い者がいればアネモス兄弟が始末する。
仮に訴えられてもバリエブ大臣がなかった事にする」
「完璧じゃないですか」
「はい。
ですので逃れられない証拠とともに帝都へ赴き、
皇帝に助力願えないかと思ったのですが」
フローラの目が曇る。
嫌な思い出が頭をよぎったのだろう
「皇帝のかわりに俺たちが、やっつけちまったと」
わざと明るく言い放つ。
「はい」
そこへ城から別のメイドさんが昼食の
準備が出来たと伝えに来た。
「えっ、今さっき朝飯食ったばかりですけど」
「翼、おまえは随分と寝坊しましたからね。
もう昼なんですよ」
ありゃま、
「それじゃあ、あの三人も」
「いいえ、あの御三方はお休みになっておられます」メイドさんが苦笑いで答える。
「なんで。こんな時間に」
「はぁ、入浴中にそのまま寝てしまいまして」
「やりたい放題だな」
「ある意味、理想の姿ですね」
姫様、それは良いようにとりすぎです。
結局、昼食は昨晩と同じ部屋で同じメンバーで取ることとなった。
薄暗いのと眠いせいだと思っていたけど、
この部屋余計な装飾品が何もない。
そういえばこの城で絵や彫刻の類いを見たことがない。
寝る前に思っていたなにげない違和感の正体。
この城で起こっている異変に、昨日の時点で気付くべきだっのだろうが……。
改めて三人から礼を言われ、恐縮しつつ昼食が始まった。
誰も一言も喋らない。
ただ配膳されたものを黙々と口に運んでいる。
昨晩は僕が黙っていたせいもあって静かなのかなと、
思っていたけど食事中は静かにするものなのね。
ナイフとフォークのわずかな音が響く。
まぁこれはこれでいいか。
食後テラスへ移動して四人でお茶する事に、
テーブルの真ん中に美味しそうなお菓子の塔が立っているが誰も手をつけない。
僕はもうお腹いっぱいだ。
「翼殿。
言葉だけではなく何かお礼の品をお渡ししたいのだが、
お恥ずかしい話先ほど改めて城内を見てみるとコレと言ったものがないのだ。
これも体調が悪いからと寝込んでいた我のせいだ」
青白い顔の王様が頭を抱える。
「父王のせいでは、……私がもっと見ていれば」
王太子はその通りだな。
お前がしっかりしろよ。
「そこで国政について、先程から官僚たちと話ていたのだが翼殿から何か意見はないか?
……意見と言うか、案はないか?」
王太子僕に聞くの。
「え〜っと」
政治の事なんか分からないから日本では、
って選挙の事やら総理大臣やら二院制で昔は一方を貴族院といていた。とかだったような
いつの間にやら僕の周りを難しい顔をしたオジサンたちが取り囲み、何やらメモしはじめた。
質問とかしないでよ。
「質問なのですが」
ほら来た。
最後に『知らんけど』で閉めようと思ってたのに
とにかくうろ覚えの知識でお茶を濁す。
嫌な汗をかきつつ空気が少し冷たくなる時間まで話ていると、王様が咳をしだした。
顔色が悪い。
「申し訳ないが翼殿」
「ああ、もちろん構いませんよ。
ゆっくりお休み下さい」
「うむ、ありがとう。
だがその前に、礼の件だがエリスをもらってくれんか」
「はひ?エリスさんって……?」
「妾はフローディア・エリス・ウェルミナ。
父王は子供の頃からエリスと」
胸に手を当て自己紹介してくれる姫様。
「実はこんな事になってしまい、帝国第三皇太子との結納の件を辞退せざるを得なくなった」
「傷物の妹で申し訳ないが」
「止めて下さい!」
目の端に見えるフローラ姫が小さく見える。
「傷なんて何処にも無い、僕なんかには勿体ない人だ」
「では好いのだな」
「いやいや
本人の意見が大切でしょう」
チラッと見たフローラ姫の顔がピンク色に染まる。
「決まりじゃ!
まだ婚約破棄しておらん故に、盛大にとはいかんが
今宵は内々で祝おうではないか!
皆、宴の準備……ゴボ、ゲボ」
「父王は少しお休みください」
王太子が王様を支えて退出する。
あれよあれよとフローラ姫と二人っきりになった。
えっ、なんか僕
結婚するの?!
落ち着け……、アレ?なんでこうなったんだ。
落ち着け、落ち着け。
「フローラ姫は僕でいいの?」
「妾をただ一人で守ってくれた翼なら」顔が赤い。
マジか〜、そうか〜、女性と付き合った事もないのに
いきなり結婚か〜。
別にイヤな訳じゃないけど僕はこの姫の事
どう思っているんだろう。
う〜ん、今朝は何だか腹が立ったんだよなぁ。
女の子一人に周りが敵だらけってどうよ。
幼馴染っぽい騎士まで裏切ってるし、
そういえばさっきも王太子がひどい事言った時もムカついた。
フローラ姫がけなされると何だか嫌なんだよな。
大切にしたい。
うん、それは間違いない。
恋とか愛とか分からないけど、小さく見える姫様を見ていると抱きしめたくなる。
僕が右手を差し出すと姫もそっと手を乗せてくれた。
心臓がバコバコうるさい。
二人なにも喋らず部屋へ戻って行った。




