集合
バレルの攻撃はことごとく躱されてはいるが、
決して劣勢というわけでもない。
コヤツ躱すのは上手いが決め手に欠けておる。
ジャック・アネモスのほうでも
このちっさいおっさん、少しでも気を抜くとやべー。
と感じながら誰かもう一人いれば……。
焦りはしないものの手詰まり感は否めない。
だが周りにはマフィアの仲間が大勢いるものの
強者と呼べる者は一人もいない。
「クソ」
悪態をつき一人ごちる。
なぜならどれだけ待っても、加勢に来るはずの
ゼクスの旦那や兄貴それに教会のポルカ司教まで
誰一人やって来ないのだ。
それどころか廊下から雑兵の一人もやって来ない。
[違和感]
百戦錬磨のその感が警笛を鳴らす。
「なんやねん。まったく客室どころか
牢屋に連れて行くって、おかしいやろ」
「それで文句言ったら、抵抗するな!
だもんな。
そりゃ抵抗するよ」
何人殺せばそうなるのか、
血まみれの男二人が廊下を歩いてやってくる。
違和感の正体にジャック・アネモスが取る選択肢は
逃げるの一手だけ。
ちょうどその時、聖剣を振り回していた男が
横薙ぎに10人程を一気に真っ二つにしていた。
流石の出来事にバレルが気を向けたその瞬間ジャック・アネモスはそっと気配を絶ちその場から逃げた。
小康状態に飽きていたバレルは、
わざと隙を作ることにした。
多少リスクはあっても攻撃に転じてくれれば
十分勝機はあると踏んでいたが……、
逃げられた?
疑問の答えがすぐに廊下から聞こえてくる。
「なんやねん。
こっちでもナンヤやってるで」
「どうなっているだよ、この王城は」
ヒョイと廊下に姿を現したバレルがそれに答える。
「こうなっとる」
中を見た二人は唖然とした。
真っ二つにされながらもかろうじて生きている様な
兵士達がゴロゴロを転がっている。
「アルフレッド。
お主、翼とやり合わんで良かったのう」
「なんやコレ、真っ二つなのに血がほとんど出てへん。
コレ翼がやったんか」
「そうじゃよ。見てみぃ」
ホール奥の窓際では、フローラ姫をかばいながら
聖剣を構える翼の姿がある。
残った雑兵は10人程、本来の守るべきバリエブ大臣を盾にして奥の扉から逃げようとしている。
「貴様ら!何をしている。
押すな、私を守れ!」
「ふざけんな。
あんなのとマトモにやれるか」
詰め寄る翼は、振り返らずフローラ姫に問う。
「姫様いいですね」
「是非もありません」
言質をとった翼の聖剣がまとめて薙ぎ払う。
ルーカスとアルフレッドは目を丸くした。
今まで無理やりくっついていた物を放したかの様に
上半身と下半身がバラバラバラっと離れ離れになった。
思わず二人とも大口を開ける。
「なァ」
バレルは冷静に親指を後ろの翼へ向ける。
「これでこの国は終わりだ。
私以上に国政を担える者が誰も……」グサッ!
落ちている剣を拾い上げた国王が
いつの間にか翼達の近くまで来て、
まだ死に絶えていないバリエブ大臣の脳天に、
国王自ら剣を突き刺した。
「誰がやっても、お前よりはマシだよ」
王は顔を上げると
「皆すまなかった。
弟かわいさのあまり、まさかと思っていた。
いや、思おうとしていた。
その結果、国を腐敗させてしまった。
全ての責任は私にある」
辺りを見回して頭を下げる。
「あの身なりのええおっさん、国王やったんか」
「先に牢屋に入ってた人が国王とはな」
「お主ら知らんで助け出したのか、
ある意味すごいのう」
三人のバカ話はよそに、国王は隣りにいる陰気な男へ
「次期国王としてジカルド王太子。
あとを頼む」
そう言うとバリエブ大臣の頭を足で押さえ剣を抜き、
逆手に持って喉元にあてがう。
しかしその剣を両手で掴み国王を睨みつけるフローラ姫がいた。
「ふざけないでいただきたい。
腐敗の原因が父王の怠惰であろうことは
否めないのに、何の責任も取らず死ぬなど」
「いや、だからこの命を持って」
姫の両手からは血が二の腕をつたい流れている。
それを見て剣を持つ手力を緩めた国王は、娘に甘く
そして優しい国王なのだろう。
国の行く末を気に病み
だけど病床の身にあってはままならない。
そこを悪意あるものに狙われた。
翼は、フローラ姫を後ろから包むように
剣を掴んだ両手を解いた。
「しかしこれからが大変ですぞ。
国を守る兵士がいない」
「大丈夫だ。
主力は帝国へ援軍として貸出している」
王太子のジカルドは、楽観的に考えているようだ。
援軍ということはいつ、何人戻ってくるのか分からない。
学者肌、なるほど政治家には向いていない。
「なら、街の衛兵を騎士団に
取り上げてはどうじゃろう」
「ジャンのこと言うてんのか」
「ふむ、あやつなら人望もあるから
国民の受けも良かろう。
なんなら姫様を助けたのを
アヤツの功績とすれば王国騎士の株も上がろう。
あながち間違いないでもないしの」
「しかし、それでは勇者一行の功績が」
「国王様、功績は結構です。
バレルさんが言った通りにしませんか」
姫を抱きかかえるようにして、翼が微笑む。
「功績は要らぬが、褒美はねだるか。
エリス、よいのか」
「お父様、翼は私フローディア・エリス・ウェルミナを生涯守ると誓ってくれました」
「ならば良し」
ガハハハっと力なくも、高笑いの国王
微笑み合う若者二人
取りあえず一緒に笑い出すバカ三人
一人ジカルド王太子のみ、
死体に囲まれて笑う気にはなれなかった。




