歩兵の槍
差し込まれた槍をかちあげる。
と、同時にこちらの間合いまでつめ……
こめないうちに叩かれる。
ので、あえなく引く。
実に鬱陶しい。
柔らかい歩兵が持つ槍は、ほとんどが
素人が扱う。
故に、突き刺す様な真似は普通出来ない。
よってほとんどが叩く。
槍は刺すものと思われがちだが、ある程度
修練をつまなければ相手を点で捉えることは出来ない。
しかし叩くことなら誰でも出来る。
ブンブン揺らしながら相手の頭へ当てればよいのだ。
想像してほしい。
棒の先に鉄の塊が付いている。
それを死に物狂いで振り回してくるのだから、
当たれば相当痛い。
それどころか打ちどころが悪ければ、
脳震盪か頭蓋骨陥没骨折になる。
兜も何もない状態のルーカスが無防備に
突っ込んで良いわけがないのだ。
正確に眉間を狙って突いてくる槍を
首をひねって避けていたが
「なら、これはどうだ」
ゼクスが小刻みに槍を揺らしながら突いてきた。
これはギリギリで避けるわけにはいかない
下から突き上げるが、すぐに頭を叩きに来る。
「サスガ旦那、野郎手も足も出ないぜ」
「ヤッちまえ!」
「いいぞ旦那」
周りのギャラリーからの声援に気を良くしたのか、
ブンブンと揺らしながら
突いてくる。
ルーカスは時折跳ね上げくらいで、攻撃らしきモノをしてこない。
「なんだルーカス、槍がない間に
避ける鍛錬ばかりしていたのか」
ギャラリーに乗せられたのかゼクスも
ルーカスを煽りながら攻撃の手を緩めない。
「大した事ねぇな」
ギャラリーも参戦しようとすると
ゼクスの槍が大きく揺れ三下の鼻っ柱を切る。
「ウギャー何すんでぃ」
「それ以上近づくと死ぬぞ」
「コイツが大した事ねぇ様に見えるのは、
俺が攻撃を続けているからだ」
ルーカスの口もとが上がる。
「攻撃は最大の防御だからな」
いい気になっているゼクスを冷めた目でルーカスは
見ていた。
マフィアの三下にのせられていい気になっているようだが、用心棒に成り下がった腕は確実に落ちている。
どんな手を打っていても予想の範疇であり、対応できなくはない。
ただルーカス自身、鍛錬不足なのは自覚していた。
ので一つに練習相手として長時間賭場の周りで相手をしている。
そしてもう一つ
「あぁこら!いい加減クタバレや」
ゼクスの槍が荒くなってきた。
ルーカスの大槍と比べれは軽い長槍ではあるが、
それはそれなりの重さがある。
たぶん鍛錬を怠っているゼクスは今、
腕が鉛のように重くなっている事だろう。
「かかってこいルーカス」
そろそろか
今までとは違った勢いで槍をかち上げ
ルーカスは間合いに入った。
万歳の形になったゼクスの手から槍がスッポ抜ける。
その手をスッと降ろすと、胸元を探り暗器を……
取り出そうとした身体には、首がついていなかった。
ブバババババッ
噴水の様に大量の血が吹き上がる。
呆気に取られていた賭場の元締が叫ぶ。
「てめぇら何してやがる。
相手は一人、
それも旦那相手に長げぇこと戦った後でぇ!
全員でヤッちまえ!」
「鍛錬を怠った上に、最後は暗器か……ゼクス
お前こそ道場を馬鹿にしてるやないか」
ルーカスを囲っていた男達が得物を手に
一斉にかかって来た。
「ふん!」
気合一閃、振り回した大身槍が
男達の首を飛ばす。
「かかって来るんやったら、容赦はせんで」
最初の攻撃で完全に威勢を削がれたとはいえ
二、三十人はいた賭場の男達は
一分足らずでもの言わぬ姿に変わった。
「ぐぶっ、一歩下がった所にいた元締だけは
かろうじて息をしている」
そこへ途中から観戦していたアルフレッドが
「うわぁ~、こりゃヒドイな」
ビシャビシャと血溜まりの薄い所を選びながら、
近づいて来た。
「なんで見てるだけやねん。
ちょっと前から、見てたやろ」
大身槍を立てて一息つくルーカス。
「いやいや、私だって入れるものなら
入りたかったよ。
けど、どこで入るんだよ」
そう言うとアルフレッドは、クイッと親指を
外へ向ける。
「それより、バレルも誘って王城へ行こうぜ」
「へっ、王城になんかあるん?」
「何かある」
「そりゃ、なんかあるやろうけど
何があるんか聞いてんねん」
「ふふふ、行けば分かるさ」
「はぁ~、コレやから嫌やねん東の奴は」
そう言うとルーカスは、賭場へ戻って行く。
「おい、もう誰も居ないだろう」
「ちゃうちゃう、勝った分もろ〜て行くねん」
今日一驚くアルフレッド
「嘘だろ」
「嘘ちゃうわ。
なぁ」
ルーカスが虫の息の元締へ話を振る。
元締は、ただニヤっと笑って応えた。
「ほら」
「なにが?なんにも言ってないぞ」
ゴソゴソとカウンターの裏から大きな包を取り出した。
「ほんまやて」
金の包を肩に背負うルーカス。
「ほな、約束通り勝った分はもろて行くで」
なんか納得出来ないアルフレッドと
それを見送る元締。
その元締の最後の言葉は
「そんなに…、勝って……な、い」だった。
酒場の女将は、ようやくバレルが出ていったので
残った酔っぱらい二人を追いだして店を閉めようとしていた。
「ウギャー!!」
追い出した男二人が叫ぶ。
「なんたい、うるさいねぇあんた達は」
下ろした暖簾で二人の頭を小突いた女将は
「ゲッ」
蝦蟇の様な叫び声をあげた。
「あースンマセン。
ココにいたちっさいおじさんどこいったか
知りませんか」
血まみれの二人組みは、
確か昼間ちっさいおじさんと一緒に居たオッサンだ。
なんとなーく思い出した女将は
「ああ、あんたらの連れならさっき
王城へ呼び出されて行ったよ」
女将が王城を方に向かって暖簾を向ける。
「ほら、王城に何かあるぞ」
なんでアルフレッドがドヤ顔やねん。
「あんがと」
手を振りながらルーカスたちが酒場から離れる。
「王城に行ったら、風呂あるかなぁ」
「あったらええな。
もう、臭っさいわベトつくわで
さっぱりしたいわ」
このあと、もーっとベトつく事になるとは
二人ともまだ気づいていない。




