クーデター 2
バレルが千鳥足で近づいてくる。
「殺れ」
バリエブ大臣の声と同時に周りの兵士達が抜刀する。
一気に緊張感が増す。
僕はそ〜っとフローラ姫の横に並んだ。
姫様の兵士、僕を迎えに来てくれたアルデバランさん。一緒に守ってくれたらなぁ
と思ってたんだけど。
それは甘い考えだった。
もう一人の姫様の兵士、
フローラ姫に余計な策を提言したギルバートが
アルデバランさんを突き刺したのだ。
「何をしているのですギルバート」
目を剥いて驚くフローラ姫
アルデバランさんは血走った目でギルバート
を睨んでいたが、直ぐに膝をつき倒れてしまった。
「邪魔だったもので」
剣を引き抜くと同時にアルデバランさんから
大量の血が溢れ出す。
ああ、両手で顔を覆い震えているフローラ姫。
「ギル、幼少よ頃からそばにいてくれたではないか
お前がどうしてなのだ」
手の隙間から弱々しい声が漏れる。
「信じてしたのだ。
捕まった時も、少しでもお前を疑った
妾が許せぬほどに信じておったのに、
信じて……」
そうか、この人はフローラ姫の幼馴染なんだ。
そして絶対の信頼を寄せていた。
「おめでたいんですよ!だから簡単に拉致れる。
王様も王子様も貴女も……、
そんなだから公爵に
この国を奪われるんだ」
その言葉を聞いたフローラ姫は、
一回り小さくなったかのように見えた。
「お前は妾を守る騎士になってくれると、
幼少の頃とはいえ、妾を愛していると、
一生守ると……」
小さく呟く声が、僕には悲鳴に聞こえる。
「子供の戯言ですよ。
……家は、しがない男爵家です。
本気でお相手になれるとでもお思いでしたか、
それにこの国の全てを牛耳っている公爵大臣に刃向かえる訳ないじゃないですか」
なんだコイツは、腹が立つ。
「それでも、大変かもしれないけど
姫様を守るのが、兵士以前に男じゃないのか!」
僕は叫んでいた。
「うるさい。
うるさい。お前なんかに俺の気持ちが
分かってたまるか」
僕に剣を突きつけてギルバートは、怒鳴る。
すると、兵士達が囲んでいる輪の中から声がした。
「よう言うた翼。
それでこそ男子じゃ」
?
バレルさんのこと、完全に忘れていた。
無事だった、の、か
すると、バレルを囲んでいる
五人の兵士達がバタバタと倒れた。
何したんだこのおっさん。
そう思ったのは兵士達も同じようで、
分かりやすく士気が下がった。
これは形勢逆転か、と思われたその時
入り口からデカい声がする。
「何してんだてめぇら」
あちこちから「お頭」と言う声が聞こえる。
出てきたのは野盗の頭だ。
「お主、捕まっとったはずじゃ」
野盗の頭は、ヒョウ柄のガウンを着ている。
どう見ても牢屋に居た人には、見えない。
野盗の頭は、邪魔くさそうに
「まァな、王城まで連れてこられてそのまま
客室でゆっくり捕まっていたのに。
なんなんだこのザマは、てめぇらしっかりしろい」
頭の一喝で瞬く間に士気が上がる。
「腐ってるのうこの国は」
「おう、腐っきってるのさ。
国の実質は大臣が表には教会の司教が
裏は俺たちアネモス兄弟が仕切っているのがこの国
ナーヴィスだ」
「だがな、汚い水だからこそ魚は住めるっうもんだ」
そこで奥にいたフローラ姫に気付く。
「よう!フローラ姫じゃねぇか。
また後で抱いてやっからな」
そばにいる彼女の体温が急に下がった気がした。
「汚すぎる水では魚が死ぬぞ」
ゆらゆらと近づくバレルの一撃をアネモスは、
さっと避けた。
「酔拳か、初めて見るな」
「初見で躱されるとは、
儂ちぃ~っとショックじゃわ」
バレルの戦いに気を削がれていた僕を
フローラ姫がグイッと引っ張った。
「危ない」
僕がいたところにギルバートの剣が突出されている。
「何してんのギルバートちゃん。
ちゃ〜んと始末しないと、後でフローラ姫を
回してあげないよ」
なんだコイツは、
「バレルさん!」
「わかっとるわい」
バレルの連撃がアネモスを襲う。
「お主、少し黙っておれ」
尻もちをつきかけた僕の手をフローラ姫は
ギュッと掴んでいる。
震えている
ああ、コレは僕の手か。
くそう、なんで震えが止まらないんだ。
僕はなんて意気地なしなんだ。
このままでは僕だけじゃなくて、
フローラ姫も殺されてしまう。
フローラ姫ならまだしも、僕が震えるのは違うだろう。
強く握った彼女の手は、
氷のように冷たい。
くそう、くそう
「くそう!!うぉー!」
僕は雄叫びを上げて聖剣を初めて抜いた。
ギルバートに向かって構える。両足は肩幅よりも少し広く
右足に重心を置き左足の踵を内股に上げて
腰を少し右側に捻り聖剣を持った両手は右耳の後ろ少し上、脇を締め気味にタイミングを計る。
翼の抜いた聖剣は輝いていた。
ヒカリの剣は凄いはずなのに、翼の構えを見た兵士達からは失笑が漏れていた。
「なんだありゃ、隙だらけじゃねえか」
「まったくの素人だ」
連撃の途中バレルが見た翼の構えは
確かに隙だらけのど素人ではあったが、
なぜか堂に入っている。
不思議な構えであった。
バレルがチラッと翼を見たのに気づいたアネモスは、
兵士から剣をもらい。
連撃を躱しだした。
フン
構えるアネモスに隙がなくなった。
◇
僕は小さい頃から野球ばかりやってきた。
大リーグのスーパースターに憧れ、中学では
ピッチャーで4番を任されていた。
有名高校からもスカウトが来るほどで、
今思うと人生の最高潮だっのかもしれない。
中学3年生の夏大会、肘を壊した。
野球の出来ない僕の周りには誰もいなくなった。
何もなくなった。
虚無感に支配された僕を
救ってくれたのが漫画やアニメやラノベだった。
野球ばかりやってきたせいか、
何のエンタメにも免疫がなかった僕は、
高校で完全にオタク連中とつるむようになり、
異世界に憧れるようになった。
実際の来てみたら、随分違ったけど。
この世界でまず、聖剣を抜けと言われた。
聖剣を抜いてこその勇者だそうだ。
しかし僕が見た聖剣は細いバットにしか見えなかった。
聖剣を抜くというよりも、
立ててあるバットを手に取った。
と、言う方がピッタリくる。
で、バットを持つと自然この構えになる。
剣なんて持ったこともないけど、
バットなら何万回も振っている。
◇
「来いよ」
ギルバートを挑発する。
「ふざけんなよ。貴様なんぞ」
ギルバートは、翼に斬り掛かった。
僕は切っ先めがけて聖剣を振った。
なんの手応えもない。
空振り?
すぐさま構え直す。
が、ギルバートは2歩3歩と後ずさる。
代わりに兵士には見えない野郎三人組が、何やら目配せしながら距離を詰めてくる。
1番僕に近い男が大剣を左肩に添えるかたちで
二番目と三番目の兵士は、突き刺せるように
剣を引いて身構えている。
「つばさ」
弱々しい声が聞こえる。
「大丈夫!絶対守る
姫様、僕は裏切らない」
三人が同時に突っ込んで来た。




