騎士団の落ちこぼれ
「なぁルーシィ、良いだろう」そっと尻をなでたら
バチッーっと頬をぶたれた。
「アル。あなた昨日はアマンダに同じ事言ってたよねぇ。一昨日は誰だったっけ
兎に角あんたは誠意ってもんがない」
行きつけの酒場の女給のルーシィは怒っているようだ。
「そんなことはない。心をこめて……今晩どうだい」
「そんなところがダメなの」
「他は完璧なんだけどなぁ」
「ふん、やせろ!」
言い終わるや踵を返して厨房へと姿を消す。
「ぎゃははあっふ。
エールを吹いちまうところだったわ」
「きったねぇなぁバレル。おまえこれだけ飲んでんのに太らねえなぁ」
テーブルの上には、エールのジョッキが10くらい並んでいる。
「そこはホレ儂は場合は……」と、そこでバレルの目がアルフレッドから
肩越しに奥へ向かう。
「どうした」
「振り返ってみてみい見てみい」
そこには店の入り口でてっぺん禿の男が素っ裸で手で立っている。
「きゃ~!!!!!!」女給達が叫び声をあげる。
「無残だなぁ」アルフレッドが横向きになって哀れんだ目で見ている。
「自業自得じゃ」
「そんなこと言わんと。なんや着る物ないか」
「なぁルーカス、俺たち行く前に言ったよね」
「ほんまついてたんや。最初は」ぶえ~くしょん。
ルーカスが鼻水をたらす。
「ほれ、風邪をひくぞ」
バレルが上着を貸してくれるが、身長差がありすぎてルーカスには合わない。
「ありがと」
そういうとバレルの上着を腰に巻いた。
「おい、儂の上着できたねぇもんかくすな」
「いや、そやかてこれじゃあ……ねぇ」
「そうならないようにするのが、大人なんだけどねぇ」
「大人は職務中に酒場でたむろしないがな」
「ああ~、団長じゃ」
いつのまにか入り口に騎士団団長のブライアンが立っていた。
はぁ~、っとため息をついて団長は
「まぁいい、今から王城へ来い。仕事だ」
とは言ったが、バレルは真っ赤な顔をして酒臭い。
小柄な男だけにこの姿を猿と馬鹿にする者もいるが、実は酔拳の使い手にして王都一の拳法家である。
「仕方ないですねぇ」
どっこいしょ。と、言わんばかりに脂ぎった巨体を起こしたアルフレッドはスカウトだ。
その体に似合わず、いざというときの動きはピカイチで暗器まで使う。
「アルフレッド。おまえも飲んでいるのか」
はぁ~っと息を吐いて「臭いますか。店に入って何も注文しないわけにもいかなかったもので」
「私は飲んでまへん」
おまえはそれ以前だろう。
ブライアンが目を細める。
「そういえば、槍はどうした」
ルーカスはランサーだ。
長身の彼が操る槍裁きは
敵をも魅了するほどの腕前ではあるが
「てへっ」
禿頭をコツンっと叩いたその姿は、
けっして可愛くは無い。
「一時間後、城門前に集合。王様に謁見する。正装で来い」
踵を返し一度店から出たブライアンは、直ぐさまもう一度店の扉を開く。
そこには11杯目のエールを頼んでいるバレルと、座り直しているアルフレッド。
それに女給からお金を借りようとしているルーカスがいた。
「お前らー!今急にしたくせんかー!」
三者三葉バツの悪そうな顔をして、ゾロゾロと店を出て行く。
結局三人を追い出してからブライアンが最後になった。
何度目かのため息をつくと、後ろから女将に声をかけられる。
「団長さんもたいへんだねぇ」
「そう言ってくれるのは、女将さんだけだよ」
出て行こうとするブライアンの腕を
女将がしっかっと掴む。
「お代」
「俺が払うのか」
「騎士団員が飲み逃げじゃ、体裁が悪いだろ。
それにうちは、明瞭会計が基本だからねぇ」