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08:焦がれる想い※ラーダイン視点

「デイビー・ヴォルールと、アイシャが」


 僕は父の話を聞いて、目の前が真っ暗になるのを感じた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 アイシャに婚約破棄されてから、三日が経った。

 その間僕はずっと抜け殻のようだった。彼女のいない毎日なんて一体何の意味があるのだろうと思った。今すぐにでも彼女に会いたい。だがしかし、彼女は僕との再会なんて望まないに違いない。それがわかっているから、会いに行く勇気は湧かなかった。


 そんなある朝、父に告げられたのはアイシャとの婚約破棄で発生した慰謝料と、そして彼女がヴォルール侯爵家のご令息と婚約するかも知れないという話だった。

 慰謝料のことは正直本当にどうでもいい。だが、ヴォルール令息の話の方は聞き逃せるものではなかった。


「そうか……。アイシャは、ヴォルール家のご子息と」


 恋仲になっていたなんて。


 僕はそれ以上父の言葉を聞いていたくなくて、慌てて部屋を飛び出してしまった。紳士にあるまじき行為だが、この時ばかりは許してほしい。


 廊下を走り、自分の部屋に駆け込んだ。そのままベッドに倒れ込み、頭をブンブンと振りながらのたうち回る。


 どうして僕に婚約破棄を突き付けたのかという疑問が一瞬にして解けた。

 でも、だからこそ胸がさらに苦しくなる。アイシャは、浮気をするような不誠実な人だったのだろうか?


 ――違う、と僕は思った。


 アイシャ・アメティスト・オネットという少女がそんな人間ではないことくらい、僕は知っていた。

 

 アイシャは今まで一度だって僕を裏切ったことはなかった。言葉にするのは恥ずかしいけど、僕は彼女のことを一番近くで見ていた。だからわかる。

 アイシャは、もっと別の理由で婚約破棄をしたんだということが。


「そうだ……。一瞬でも彼女を疑った僕はなんて情けないんだろう。彼女がそんなことをするはずがないのに」


 そして次に浮かんで来る考えは、もしかするとヴォルール令息にアイシャが弱味を握られているのではという懸念だった。

 どうしてもヴォルール侯爵家の令息と婚約しなければならない事態に陥り、やむなく決断したのかも知れない。でもそれなら僕に一言くらい言ってくれればいいのに、と思う。


 結局どうして彼女があの夜会であんなことを言い、そして今、ヴォルール令息と婚約をしようとしているのかがわからなかった。


 ――ああ、アイシャ。君はどうして僕に何も言わずに離れて行ってしまったの? 僕はまだ、君のこと、こんなにも。


 いくら強がっても、僕は弱い。

 君がいなければまともに生きていけない、弱い、とても脆い人間なんだ。


 嫌われていたって構わない。もう一度君に会いたい。

 だがこんなことを考えるのはきっと傲慢なことだ。だって彼女は僕を切り捨てたんだから、それに大人しく従っているべきなんだから。


「でも……」


 もしも。もしもアイシャが、デイビー・ヴォルール侯爵令息の婚約者になり、結婚し、夫婦になったとしたら。

 社交パーティーなどで顔を合わせた時、僕はどんな顔をしたらいいだろう。平常心を保っていられるとはとても思えなかった。


「女々しいな、僕は。……アイシャはいつもこんな僕でも大好きだって、許してくれたけど」


 でもやはりそんなところが嫌われていたのかも知れないなと思うと悲しくなる。

 アイシャは僕の愛しい人だったけれど、女神でもなければ天使でもない。そんなことはわかっていたはずなのに彼女に甘えていたからこそ、こんなことになってしまったに違いない。

 また頬を熱い涙が伝った。拒絶されてもなお彼女に恋焦がれるこの胸の気持ちをどうしたらいいかわからない。呻き、見苦しいほど身悶えても、何も変わりはしなかった。


 ――アイシャに会いたい。


 その想いは日毎、いや、分毎に増していく。


 ――会いたい。会って、話をしたい。どうしてこんなことをしたのか問い詰めたら、答えてくれるのかな。

 ――会いたい。土下座をしてでも謝りたい。許してもらえなくてもいいから。

 ――会いたい。アイシャの笑顔が見たい。一眼でいいから、それだけで、この恋心を諦められる気がするから。


 けれどそんな願いが叶うはずはない。

 きっと今頃アイシャは宰相令息の隣にいるというのに。僕は彼女の顔を見ることすらできないんだ。

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