03:結婚パーティー①
「アイシャ様、綺麗ですっ!」
ドレスの着付けを終えたリリーが歓喜の声を上げ、いそいそとわたくしの目の前に鏡を差し出しました。
そこに映っているのは、ウェディングドレスを纏ったわたくし自身の姿。
自分で言うのは少々恥ずかしいですけれど――我ながら美しいですわね。
なめらかな純白の生地のところどころにあしらわれた金糸が映え、煌めいて見えます。
……こんなドレスが着られるなんてまるで夢のようですわ。結婚式など出られるはずもないととっくの昔に諦めていたはずですのに。
「わたくしが花嫁になるだなんて……なんだか不思議な気持ちですわね。けれど、いくら戦勝で経済的発展が進んでいるとはいえ、資金はドレスよりも国の復興や軍事費などに充ててほしいものですわ」
「ふふっ。そういう割にはアイシャ様、すごく嬉しそうですけど」
「それは仕方がないでしょう。愛する人と結ばれるなんて、この上なく幸せなことですもの」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
わたくしとラーダインの婚約が再び成ってからひと月ほど経ち、わたくしたちの結婚パーティーが開かれることになりましたの。
本来であれば――わたくしが仮に一度婚約破棄をしなければということです――一年先に結婚することになっていたのですけれど、どうせならこの戦勝のお祝いムードに合わせて結婚させてしまおうとお父様が決めたようですわ。
わたくしとしてはラーダインと一刻も早く結ばれたいので、意義はありませんでしたの。
「ああ……いよいよですのね」
リリーの言う通り、わたくしは非常に興奮しておりましたわ。
それこそ、今にも倒れてしまいそうなくらい。
リリーはそんなわたくしをじっと見つめて言いました。
「リリー、アイシャ様のウェディングドレス姿が見られて、嬉しいです。泣きそうなくらい、嬉しい」
「そんなに喜んでいただけると照れてしまいますわ、リリー。……あなただってもうすぐウェディングドレスを着る側になるんですのよ、わたくしのことよりもその方が嬉しいのではなくて?」
リリーはオネット王国の戦勝に貢献したことの褒美として、国王のサイン入りの婚約手紙を渡され、それを使ってデイビー・ヴォルール侯爵令息に婚約を申し込んだようですの。
サイン入り手紙であれば相手側も断りづらいでしょう。案の定すぐに肯定のお返事があったとのこと。
ちなみに、リリーへの褒美をお父様に提案したのはわたくしなのですけれど……うまくデイビー様との婚約は無事に成立したようで良かったですわ。
「あの方と婚約を結ぶことができた時は、確かに飛び上がるくらい喜びましたよ。でも、リリーはそれと同じくらい、アイシャ様が幸せになれたことが喜ばしいんです」
「そこまで言うなら構いませんが……。それでも、結婚後もわたくしの侍女として仕えるというのはさすがに問題ではないかしら?」
「大丈夫です! デイビー様からきちんと許可をいただいてますから。それに、デイビー様も将来は文官になってアイシャ様をお支えしたいって言ってるくらいですし」
「まあ、そうなんですの?」
デイビー様の文官のお話は初めて聞いたので少し驚いてしまいました。
でも確かに、侯爵家次男であり、爵位を継がないであろうデイビー様が何かの職に就かねばならないのは当然ですわよね。納得ですわ。
「夫婦共に、わたくしに優しくしてくださいますのね」
「はいっ。だってリリーもデイビー様も、アイシャ様のことを大事に思ってますから。そういうところは似た者同士なんです」
リリーの青の瞳はキラキラと輝いていて、それが彼女なりの本心からの答えなのだろうと思えました。
これほど大事に想われているだなんて、わたくしはきっと最高の幸せ者ですわね。
「リリー。お互いに、必ず幸せになりましょうね」
「もちろん。絶対、約束ですよ」
そしてわたくしとリリーは、他には誰もいない衣装室で静かに約束を交わしたのでした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「そろそろ時間ですね。じゃあ、行って来てください。リリーは最前列で見てますから」
わたくしは頷き、リリーを背にして歩き出しました。
この部屋を出るとまもなく会場へ着きます。そうすればそこには、わたくしが愛する人が待っていることでしょう――。
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