45:「新たに婚約を結ぶことを宣言させていただきますわ!」
煌びやかなパーティー会場には華やかな音楽が鳴り響き、シャンデリアの眩い光がわたくしたちを照らしています。
こうして公の場に姿を晒すのはあの夜会以来かしら? つい数週間前のことだというのに、だいぶん昔のことのように感じてしまいますわ。
――現在わたくしは戦勝の祝賀会へ出席しておりますの。
ちなみにお父様に報告をしてから数日後に、プランス大帝国からの正式な敗戦宣言がなされたようです。素直に敗戦を認めてくださって良かったですわ。
陛下に……お父様にあれほどラーダインの功績だと伝えましたのに、わたくしがダミアン皇太子を打ち倒したという話になっていて腑に落ちませんわ。ですがまあ、そこには目を瞑って差し上げるといたしましょうか。
「王太女アイシャ・アメティスト・オネット殿下、壇上へ」
宰相ことヴォルール侯爵の声がし、わたくしは菫色のドレスの裾を摘んで壇上へと駆け上がりましたわ。
祝賀会の参加者たちの視線がわたくしに注がれます。わたくしも彼らを見回し、できるだけ優雅に見えるようにカーテシーを披露すると、口を開きましたわ。
「この度は祝賀会へのご出席いただき、心より感謝申し上げますわ。
プランス大帝国との戦、王国兵に犠牲者は出ましたけれど、どの領の民の命も落とさせることなく追われたこと、わたくし、心から嬉しく思っておりますの。
――今回の戦争はわたくし、正直勝てるなどと思っておりませんでしたわ。そもそも敵国との戦力差がございましたし、王家の力が足りないばかりに皆様に信用していただけませんでした。
沈みゆく船に乗るほど愚かなことはございませんから、デイビー・ヴォルール様率いる第三勢力に加担した方々を責めるつもりは毛頭ございません。信頼はこれから勝ち取ればいいと思っておりますから。
……わたくしは愚かなことに、陛下の協力を仰がず独断で戦地に向かいましたの。王国に勝ち目などなく、帝国兵の剣によってこの命を散らすはずでしたわ。
しかしそうはなりませんでした。この国を救ってくださった英雄がいたのです。――本日はここに、その英雄をお呼びしておりますのよ」
わたくしの長台詞を聴き終えた群衆が、ガヤガヤと騒ぎ出します。
多くの者はわたくしが戦地へ向かったことはデイビー様が伏せていたせいで知らなかったようですし、さらに英雄の話は予想外だったに違いありませんわ。
さあ、ここからが本番ですわ。
わたくしはそっと拳に力を込め、再び声を張り上げましたの。
「英雄にしてわたくしの愛するたった一人のお方を、ご紹介いたしますわ!」
お父様とお会いした時と同じように、わたくしが合図します。
そしてすぐに彼は姿を現しましたわ。
英雄というには少し細すぎる体を白い礼服で包み込む青年。
その姿を目にした貴族たちがどれほど驚愕したか、想像に容易くはありません。王太女に婚約破棄をされた元婚約者たる彼が英雄などと誰も考えもしなかったでしょうからね。
「窮地のわたくしを助け、皇太子を降伏させた英雄――ラーダイン・ペリド!
そしてわたくし、アイシャ・アメティスト・オネット王太女は、ラーダインと新たに婚約を結ぶことを宣言させていただきますわ!」
――しばらく静まり返る会場。
つい先日婚約破棄したばかりなのに、再びの婚約をするだなんていうのは異例中の異例ですもの。きっと誰一人として信じられないでしょう。
しかしそこへ国王アリソンが現れ、「皆の者、祝福を!」と言ったものですから、認めないわけにはいきません。
あっという間に拍手で溢れ返り、祝賀会の会場は凄まじい歓喜の嵐が吹き荒れたのです。
「はぁ……。余計なお世話ですのよ、お父様」
本来はもっと後になって姿を見せる打ち合わせだったというのに、まったく出しゃばりな方。
わたくしが戦に出ている間にどんな心境の変化があったのかは知りませんが、急にわたくしを構い出して、気持ち悪いったらありませんわ。
「でも、おかげで祝福ムードになったから、結果的には良かったんじゃない?」
「そうですわね……。ラーダインがそう言うなら、そういうことにしておきますわ」
そんなことを言って小さく笑い合いながら、わたくしはラーダインにそっと身を預けたのでした。
これにて本編完結となります。
おまけでアイシャたちの結婚話や、皇太子たちのその後なども描く予定です。そちらもぜひよろしくお願いします。
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