44:戦勝の報告※国王アリソン視点
「陛下、お会いして早々ですがどうしても伝えなければならないことがございます。我がオネット王国が戦勝いたしましたわ」
自信満々に紫紺の瞳を輝かせ、そう言い切った王太女の言葉に私はなんと答えていいのやらわからなかった。
先ほど、側近がバタバタと駆けつけて来て、「面会したいとおっしゃる方がいます」と騒ぐのでその人物を通せば、それは藤色の髪の少女……他ならぬアイシャ・アメティスト・オネットだったのである。
度肝を抜かれたどころの話ではない。そもそも目の前にいる彼女が、我が娘であるのかと疑わずにはいられなかった。戦地などに行き……王国兵団が誰一人として戻らなかった中で、王太女だけが帰り着いたなどという都合のいい話があってたまるものか。
しかも、戦勝などという知らせを持って。
「……それは、誠か」
「もちろんですわ。プランス大帝国のダミアン・プランス皇太子を降伏させ、確かに戦争は幕を閉じましたの。証人はわたくし以外に複数人いらっしゃるからご安心なさって。数日後に、正式に敵国からの敗北宣言があるはずですわ」
もちろんこれが彼女の戯言という可能性もある。いや、むしろそう考えるのが普通だ。
しかし王太女の瞳に、嘘はなかった。
それを見て、私は確信を得た。
この娘はやり遂げたのだ――と。
だが、王太女は首をゆるゆると振ってこんなことを言ったのである。
「勘違いをなさっているかも知れませんけれど、これは決してわたくしの力などではございませんの。この戦勝に大きく貢献した人物がいるのですわ」
「誰だ、その者とは。死した兵団長か、それとも他の兵士のいずれか?」
「いいえ、そうではございませんわ。……入っていらして」
ほんの少し頬を染めた王太女が呼ぶと、執務室の扉がギィッと音を立てて開かれた。
そして入って来た人物に、私はまたもや驚かされることになる。
「オネット王国の太陽、アリソン・ペール・オネット陛下にご挨拶申し上げます。ペリド公爵家が長男、ラーダイン・ペリドでございます」
そう言って深く頭を下げたのは、ペリド公爵令息。
長年王太女の婚約者を務め、そして王太女が一方的な婚約破棄を告げたはずの少年だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……というわけですの」
王太女が口にした話は、作り話かと思うようなものだ。
そもそも、ペリド公爵家が戦争へ加担し、しかも王太女を援助する理由がわからない。むしろ反逆したっていいくらいであるというのに、そんな都合のいい話があるものか、と思った。
「そんな話を私に信じろというのか。仮にそれが嘘偽りない事実だとして、貴様らは私に何を求める」
私が鋭く問い詰めると、ペリド公爵令息が私をまっすぐに見つめた。
その視線は臣下が王に向けるものではなく、『私』自身に向けられたもので。
「王太女殿下との、再度の婚約を。それだけをお許しいただければ、他には何も必要ございません」
ああ、そういうことか。
それで私は大方を察した。どこまでわかった上での行動だったかはわからないがここまで計算づくめで王太女は、アイシャは行動していたのだ。
感動、その言葉が今の感情には一番相応しい言葉なのかも知れない。
今更身勝手な話だということは自分でもわかっている。だが――。
「王太女と、話をしたい。ペリド公爵令息、悪いが少しの間だけ退室してくれるか」
「わかりました。国王陛下のお心のままに」
ペリド公爵令息が消え、再び二人きりになった執務室。
私はここで改めて我が娘を見た。彼女は美しく微笑み、首を傾げている。
「それでお話とは一体何ですの?」
言いたいことはたくさんあった。聞きたいこともそれ以上にある。
だが今はそんなことはどうでも良かった。どうしても王太女に……否、アイシャに、たった一人の娘へ向けて、どうしても言ってやりたい言葉があったのだ。
「アイシャ、今まで本当にお前には辛い思いばかりさせた。お前が不在の間、ずっとお前への不当な扱いのことを思い出して悔いていた。本当に謝っても謝り切れない。すまなかった。
それでも、一つだけ言わせてもらいたい。――ここまで無事で帰って来てくれてありがとう」
「ふふっ。まあ、なんて嘘くさいことをおっしゃっていますのかしら、お父様は。まさかそんな口から出まかせを、わたくしが信じるとでも? 本当に愚かにもほどがありますわね。
ですが一応、そのお言葉はありがたく受け取っておきますわ」
そう言ってくすくす笑う娘に、私は救われた気がした。
面白い! 続きを読みたい! など思っていただけましたら、ブックマークや評価をしてくださると作者がとっても喜びます。
ご意見ご感想、お待ちしております!




