43:ぎゅっと抱きしめられて
「アイシャ様っ! よくぞご無事で! リリー、いっぱいいっぱい心配したんですから! どうして危ないところへ行っちゃうんですか! アイシャ様は心はお強くても体はか弱いっていうのに!」
「……ごめんなさい。たくさん迷惑をかけましたわね」
憤慨する桃色髪の少女を前に、わたくしはただ謝るしかできませんでした。
リリーと再会したのは、ラーダインが乗って来た馬で――わたくしの愛馬はそれと並走していましたの――走ること数十分後。
そして顔を合わせた途端、ラーダインの腕の中から奪われ、リリーにぎゅっと抱きしめられながら怒鳴られているのが現状です。
リリーの方が体が小さいのに力が強過ぎて逃げられませんわ……。
「本当に!アイシャ様は!わかってるんですか!? もしラーダイン様がいなかったら、化け物に殺されてたかもなんですよ!? そしたらリリー、もう生きていけません!」
「そんな大袈裟な」
「いいえ、大袈裟なんかじゃないです!!! リリーの生きがいの半分はアイシャ様なんです! アイシャ様がいなくなった世界だなんて、それはもう世界じゃありませんから!」
……二の腕でキツく顔面を塞がれているので彼女の顔は見えませんが、声音からして本気だとわかりましたわ。
それを聞いて、死ななくて良かったと心から思いました。わたくしのせいでリリーの人生を狂わせるのは本意ではないですもの。
「わたくし、生きて戻ってここにいます。ですからそんなに怒らないで」
「……仕方がないですね、特別に許してあげます。でも、今度同じことをしたら絶対にダメですからね」
今にも泣き出してしまいそうなリリーの声と共に、ガチガチだった拘束が解けます。
ふぅ……。これでやっと息ができますわ。
「わかりました。二度と同じ過ちは犯さないと誓いますわ」
「本当ですよ」
「ええ。破ったら首を切ってくださいませね」
「それはダメ!!! 何もわかってないじゃないですか、もうっ!」
リリーの可愛らしい怒声が耳をつんざき、わたくしは「まあ怖い」と言って身震いして見せます。
その様子を眺めていたラーダインは、小さく苦笑していたのでした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「あら、デイビー様とお会いしましたの?」
その後、ふと気になってデイビー様の行方を尋ねたわたくしは、彼とリリーが出会っていたと知って驚きました。
デイビー様、無事かしら。
「はいっ。あの人とはちゃんとお話しして、帰らせましたから大丈夫です。二度と悪さはさせませんよ!」
「……そう。彼にも、時間稼ぎをしてくださった分のお礼をしませんとね」
わたくしへ一方的に想いを寄せていたあの方も、リリーとしっかり話ができたようで良かったですわ。
これで安心して帰れますわね。
「帰ったらまず陛下に戦勝のご報告しないと……。まだまだやることがたくさんですわ」
わたくしはそう呟きながら、愛馬へ跨ると、ラーダインとリリーの乗る馬と並びます。
そうしてわたくしたちは故郷へ帰るため、出発したのでした。
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