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42:やり直し

「ラーダインっ……!」


「あんまり無理しちゃダメじゃないか、アイシャ王太女殿下」


 ダミアン皇太子が去った後、なぜか横抱きにされたわたくしは、彼――ラーダイン・ペリド公爵令息の腕の中で泣きじゃくっていましたわ。

 こうして涙を流すのは二回目でしょうか。ただし一回目とは違い、これは心からの嬉し涙でしたけれど。


「ごめん、なさいっ……。わたくし、あなたを守りたくて。なのに」


 危険なことに巻き込みたくない。ただその一心で奔走していたというのに、逆に助けられただなんて格好がつかないにもほどがありますわ。

 皇太子に勝利してもなお、色々と理解の追いつかない点もありますが、とにかく彼の膝に体を預けているという事実だけでわたくしはとても幸せな気持ちになれましたの。


 ――本当に、ラーダインの体温は温かくて心地いいですわ。


 泣いて泣いて泣きじゃくって、泣き腫らして。

 ずっと頭を撫でていてくれたラーダインは、わたくしが泣き止むのを待ってから口を開きましたの。


「僕が現れて、君は驚いたかい?」


「ええ。でもどうして、来てくださったんですの」


 ダミアン皇太子の前では答えていただけなかった問いを、もう一度投げかけました。


 わたくしは確かに、ラーダインへ婚約破棄を告げたたはずですわ。

 たとえわたくしが今でも彼を愛していたとしても、それは公然の事実で。そんな女をどうしてここまで追って来たのかがわたくしにはわかりませんでしたの。

 するとラーダインは笑顔でこう答えましたわ。


「言ったでしょ、何でもするって。愛する人のためなら僕はどこにだって駆けつけたいと思うんだ。……っていうのは格好をつけすぎかな。君の侍女のリリーから教えてもらった。君がどうしてあの夜、あんなことを言ったのかをね。

 リリーと一緒にここまで来た。わけあって今はここにいないけど、リリーも無事だよ。本当にリリーが知らせに来てくれなかったらどうなっていたことか……」


 ――ああ、リリーが。


 わたくしは納得し、小さく頷きました。

 彼女一人で追いかけては来るだろうことは薄々わかっていましたわ。ただ、一人では戦場まで辿り着けないに違いないとたかを括っていましたけれど……ペリド公爵家へわざわざ真実を伝えに行ったのでしょう。

 その可能性を想像していなかったわたくしの失態ですわね。


 余計なことを、と思いはしたけれど、おかげでこうして今ラーダインと一緒にいるのだと思えば何も不満はございませんでしたわ。


「むしろ帰ったら真っ先に感謝しなくてはいけないですわね」


「ああ、僕もさ。おかげでこうして君が汚される前に助けることができた。……アイシャ王太女殿下、本当に、ご無事で良かった」


 安心したように息を吐く彼を見て、わたくしはたまらなく愛おしい気持ちになりました。

 ああ、再び彼と同じ道を歩めるならどんなに素敵でしょう。そんな風に思ってはいましたが、まさか現実になるだなんて。

 ――神様は見てくださっていたのですわ。


「ねえ、ラーダイン」


「何かな? 僕の姫君」


「……わたくしのことはぜひアイシャと、そうお呼びくださいませんかしら? そして――わたくしとまた、やり直してほしいんですの」


 先ほどの戦いでわたくし、思いましたの。わたくしにはやはりこの人が必要なのだと。

 非常に自分勝手な話であるとはわかっていますけれど、もう彼の手を離すことは嫌だからとわたくしはわがままを言いました。


 わたくしの紫紺の瞳とラーダインの黄緑色の瞳がそれぞれ見つめ合って、しばらくの沈黙が落ちます。

 そしてその沈黙を破った声はとても甘く柔らかく、まるで天使のもののようにわたくしには思えたんですの。


「そんなに不安そうな目で見なくても大丈夫だよ、アイシャ。僕も、君と同じことを思っていたから」




 そしてラーダインはわたくしへ、そっと触れるだけの口づけをくださいました。

 それはわたくしたち二人にとって初めての口づけであり、二人の愛が確かなものとなった瞬間でしたわ。

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