41:愛の勝利※ラーダイン視点
「わかった。俺の負けだ」
僕が剣を突きつけている相手――赤い青年が、負けを認めた。
その敗北宣言はあまりにもあっさりしていて、聞き間違いではないかと疑ってしまうほどだったけれど、確かなもので。
僕は誰にも気づかれないように、安堵の息を漏らしていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
正直、アイシャを傷つけようとした彼を許せるはずがない。
ダミアン・プランス。隣国の皇太子であり『血塗れの狂戦士』と名が高い男だ。
ここで負けたらアイシャが死んでしまうと思って力の限りを尽くしてなんとか勝つことができたが、勝負はかなりギリギリだった。勝利したのは奇跡だと思う。
そんな男を、降伏宣言程度で野放しにすることを認めるのか?
問われれば僕は否と答えるだろう。本当であるなら、今すぐここで殺すべきだ。
だけど僕は、僕の姫君の意見を尊重しようと思った。
アイシャが許すと言うなら、今だけは見逃してあげよう。
「――もちろんもう一度挑みかかって来るようなことがあれば、今度ばかりは許しはしないけど」
「怖いこと言うなよ金髪野郎。もう俺に闘う意志はないから剣を下ろせよ。なんなら腕を落としてくれてもいいぜ?」
「そんな物騒なことはしないよ。アイシャの前では、ね」
アイシャの前でなければ、腕くらい切り落としてやっていたさ。せいぜいアイシャに感謝してほしいものだ。
ダミアン皇太子はそのまま解放され、舌打ちしながらも文句は言わずにそそくさと自国へ帰って行った。
躊躇いなく人々の命を散らし、暴れ回り、そして去っていく。
まるで嵐のような男だった。できれば二度と会いたくないものだ――。
そうそう、最後にあの男はこんな言葉を残して行ったな。
『その女、なかなか思い通りにはならねえぜ? せいぜい愛想尽かされないように躾けるんだな』だったか。
まったく余計なお世話だ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
勝利したのは奇跡だ、と言ったけれど、それは正しくない。
僕らの勝因。それが今わかった気がする。
口にするのは小っ恥ずかしいけれど、きっとこれは愛の勝利ということなんだ。
僕の想いがダミアン皇太子より優った、ただそれだけの話。
僕が何年もかけて高めていたこの恋心が誰かに負けることなんて絶対ないのだから。
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