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39:皇太子との決闘①

「ほらよ、これがお前の武器だ。返してやるよ」


 そんな言葉と同時に雑に投げ渡されたのは、愛用の短剣でしたわ。

 この男が持っていましたのね。決闘を受け入れてくださっただけではなく親切にこちらの武器をお返しくださるとは、少しばかり想定外だったので驚いてしまいましたけれど、一応、戦士として最低限のマナーは知っていらっしゃるようで安心ですわね。


 わたくしが武器を構えると同時に、ダミアン皇太子も鋭い棘のついた鉄球を握りしめました。

 先ほどその威力は存分に見せつけられましたから、勝つのが容易い相手など思っていません。ただ、ここで負けることはできない。それだけですわ。


「……どこからでもかかって来い。手加減はしてやらねえぞ」


「なんとも強気なことをおっしゃいますのね。では遠慮なくいかせていただきますわ!」


 わたくしは叫びながら、戦場で剣を交えるうち愛馬となった馬を走らせ、皇太子へと突っ込んでいきます。

 うまく彼を転ばせ、その体にこの剣を突き立てることができるならわたくしにも勝ち目がありますわ。


 ――しかし戦いがそんなに簡単ではないことも事実。

 彼はわたくしと、挟み撃ちにしようとして声もなく向こう側から攻め込んで来たラーダインを、武器の一振りする子とであっさりと退けてしまいましたの。


 ふぅ、危なかったですわ。

 あの鉄球をまともに喰らえば生きていられるはずがありません。馬が寸手のところでかわし、飛び退いてくれたのでなんとか無事でした。


 それにしても、思っていた通り、いえ、思っていた以上に厄介な相手ですわね。

 これは早めに決着をつけないと、体力が持ちそうにありませんわ。

 ですから――。


「使えるものは何でも使ってあなたを倒して差し上げますわ!」


 きっと死んだ兵士のものだったのでしょう――周囲に散らばっていた防具の破片を拾い、ダミアン皇太子へと思い切り投げつけます。

 防具というものは簡単に剣を通さないために硬く頑丈な素材でできているものですから、それが脳天にでも直撃すれば意識を失うか、最悪死に至りますわ。ですから必然的に避けなければなりません。


 ですがこちらの手札は多いのです。

 一度避けたところですぐにまた次を投げればいいんですもの。これはいわば石つぶてのようなもの。――直接剣が届かないなら、数で殺ればいいのですわ。


「クソ、なかなかやるじゃねえかよ」


 獣のような笑みを浮かべた皇太子が、楽しげにモーニングスターをびゅんと振るいます。

 すると破片の半分は地面に叩きつけられ、あるいは鉄球の棘に食い込んで無駄になりました。ですが残りの半数は生き残り、彼を襲いましたの。


 さすが百戦錬磨の『狂戦士』、どれ一つとして急所に命中することはありませんでしたが、少しでも傷つけられたのでよしとしましょう。

 いいえ、その言い方は正しくありませんわね。今のわたくしの行動は攻撃ではなく、気を逸らすためのものに過ぎませんでしたもの。


 本命はここからなのですわ。

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