38:思い通りにならない女と気に食わない男※ダミアン視点
「……クソ、どんどんどんどん邪魔な奴が湧いて来やがるじゃねえかよ」
口の中だけで呟きながら俺は舌打ちしていた。
黒髪の奴をやっと追い返すことができた――というより結局女が弾き飛ばしたんだが――と思ったら、次は金髪の小僧が邪魔しに来るなんて、つくづくついていない。
もう少しで王太女をものにできると思っていたところでこれだ。何が「僕の姫君」だ、胡散臭い野郎め。
格好つけにしか見えない。正直言って萎えるだけなのだが。
さらには気に食わないことに、金髪野郎は俺に剣を向けて来た。
きっと俺を一般兵だとでも思い込んで舐め切っているんだろう。そう考えると少しだけ俺の残虐な部分が刺激された。
こいつをぶちのめしてやりたい、と久々に心から思った。
女を躾けるのは後回しだ。とりあえずは早くこっちのうるさい蠅をぐぅの音も出ないくらいに叩き潰さなくてはならない。それに、女を助けに来た勇者気取りの金髪野郎のプライドをべきべきにへし折ったら楽しそうだ。
しかも王女の方は「戦いをやり直したい」だなんてふざけたことを言い出している。
本当なら鼻で笑ってやりたいところだが……まあそれも一興になるかも知れない。何より俺が金髪野郎を下せば、この女の歪んだ顔が見られるわけだしな。
だから、
「面倒臭えが戦いは嫌いじゃない。いいぞ、ちょっくら乗ってやろうじゃねえか。――お前ら二人とも二度と立ち上がれないようにしてやるぜ」
俺は嗜虐的な笑みを見せながら、女の挑戦を呑んだのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ほらよ、これがお前の武器だ。返してやるよ」
俺は王女に短剣を投げ返してから自分の鉄球を握りしめる。
相手は二人。だがどちらも雑魚だ。公爵令息とやらの方は黒髪に比べればまだマシな体をしているものの、とてもじゃないがまともに戦えるような体つきはしていない。
もって数十秒だろう、と俺は考える。殺す前にできるだけ痛ぶってやろうか。
「……どこからでもかかって来い。手加減はしてやらねえぞ」
俺がそう言い終えるかどうかという時、再び馬に跨ったアイシャ・アメティスト・オネットが短剣をぶん回しながら襲い掛かって来た。
狙いは悪くない。だが、女の細腕では威力が弱い。それでは俺を殺すことはまずできないだろう。
一方、反対方向からは金髪の奴も飛び込んで来る。挟み撃ちにしたら勝てるなどと馬鹿なことを考えているんだろうか、こいつらは。
――ねえダミアン、覚えておきなさい。戦いってのはねぇ、相手を甘く見たらダメなのよ。素人こそ思わぬ隙をついて来るものなの。だから常に警戒して全力を尽くしなさい。
そう言ったのは、確か幼馴染の女だったように思う。
俺が最初に戦いのやり方を教わったのはあいつだったし、今でもあいつは間違いなく俺より強いだろう。……ただ、戦いを好まないだけで。
いけない、どうでもいいことを考えていたら手元が狂う。
今はこの戦い……もとい『遊び』に集中することにしなければ損だ。
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