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34:王太女としての決意

「つまり、あなたは最初からわたくしの身柄が目的でしたのね? そのために、多くの者を死に追いやったというんですのね?」


 静かな声で問いかければ、ダミアン皇太子は挑戦的な視線を投げかけて来ました。


「呆れたか? それともご立腹なのか? まあどちらにせよ、『ああ』と答えておくぜ」


 この男は完全にわたくしをおちょくっている。嫁にしたい、などと口にしておきながら、実のところこちらを弄びたいだけだとすぐにわかりましたわ。

 きっとわたくしのことなど、虫ケラほどにしか考えていないのではないかしら。


 ――まったく、反吐が出ますわね。


 力さえあれば、今すぐにでもねじ伏せてやることもできるでしょう。しかし数の力にも負けなかったダミアン皇太子の凄まじい戦闘力を思い返せば、とても女ひとりで勝てるような気がいたしません。

 どうしたらダミアン皇太子を殺すことができるのか。この難問を前にし、わたくしの頭脳は未だかつてないほどに働き出していましたの。


 そしてすぐに結論は出ましたわ。

 わたくしは何度目になるかわからない覚悟をして、頬をわずかに吊り上げ――お望み通りの言葉を言って差し上げたんですの。


「ふふ、なかなかに苛烈で興味をそそる殿方ですわ。実はわたくし、あなたの武勇伝を耳にしてずっと憧れていましたの。先ほどのあなたの強さを見て、さらに惚れてしまいましたわ。デイビー様とは大違い。……ですから、もしよろしければ嫁に迎えてくださってもよろしいですわよ?」


 本当は今すぐにでも彼の命を奪いたい。しかしそれが無理なのであれば、機会を伺うしかありませんわ。


 ダミアン皇太子の花嫁になる道を選べば、きっと彼を暗殺することができる。

 これはあまりに浅はかな選択なのでしょう。それでもわたくしには、それが最善手としか思えませんでしたの。


 もちろんわたくしがダミアン皇太子に何らかの好意を抱いている事実など、微塵もございませんわ。

 むしろ怒りや憎しみの感情さえあるのですけれど、他に仕方がないのです。


 ダミアン皇太子とて、わたくしに対し無警戒ではないでしょう。

 ですが戦争の目的がわたくしの身柄であるのなら、それが手に入った以上は穏便に手を引く可能性もありますわ。そうなれば無駄死にをする人は減るでしょう。そうして平和的解決に向かえばオネット王国的には良いはずですもの。


 ――これが王太女として果たせる役目なのかも知れませんわね。


 戦場で死ぬのが己の定めだと思っていましたが。どうやら違ったようです。

 たとえ尊厳が踏み躙られたとしても、国のためならそれも厭わないのが王たる者の使命。だとすればわたくしはそれに従うまでですわ。


 ですが――。


「お前の考えは手に取るようにわかる。俺を欺こうと思っても無意味だぜ、アイシャ・アメティスト・オネット」


 直後、わたくしは地面に組み伏せられ、動けなくなってしまっていましたの。

 こちらを見下ろすダミアン皇太子の獣のような赤い瞳と、返り血に染まった唇。それを見てわたくしは思い知らされましたわ。


 わたくしがどんな決意をしようとも無駄なのであるということを。

 そして、わたくしはどこまで行ってもこの男にとっては捕食対象でしかないのだと。


「これから俺がしっかりわからせてやる。綺麗な顔して悪事を企む女も嫌いじゃないが、うっかり殺されちゃあたまらねえからな。それくらいの意欲は削らねえと危ないだろ?」


 わたくしの細い体にのしかかってくる重みと、興奮したような荒い息遣い。

 次に彼が何をしようとしているのか、嫌でも理解してしまい――身の毛がよだつ感覚を覚えました。


 ああ。こんなことなら、早く死んでしまえば良かったのですわ。

 後悔しても、今更遅すぎるというものでした。

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