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33:無様な敗者に成り果てて※デイビー視点

 ――私は、なんと無様なのだろう。


 勝てると思っていた。プランス大帝国が何だ。そんなのは私たちの力があればすぐに退けることができる。そしてアイシャ様をお守りすることができれば私は彼女に認めてもらえる――と。


 そんなのは大きな間違いだった。

 プランス大帝国兵を率いていた男、ダミアン・プランス皇太子。彼はあまりにも規格外だった。私のポイズンナイフではとても敵わない。他の帝国兵に圧勝していたはずの我が第三勢力軍も、ダミアンに一掃されてしまった。

 なんだあの化け物は。あんなのがこの世界にいて本当にいいのかと思ってしまうほど、奴はあり得ない強さを持っていた。


 この力の差ではアイシャ様をお助けするどころか、自分が死んでしまう。

 それを悟った私が半ばやけくそになって再度馬で突っ込むことを決めた瞬間、


「邪魔者には退場していただきませんとね!」


 澄み渡るようなアイシャ様の声がして、私は馬もろとも吹っ飛ばされていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 気がついたら私は見知らぬ場所に寝転んでいた。

 ……いや、見知らぬ場所ではない。ここは確か戦場に赴くまでの間に通った道だ。

 近くでは私と同じく気絶したらしい馬がゴロンと横になっており、よく死ななかったなと思った。


「今から戻るのは、無理だな」


 本当なら今すぐにでもアイシャ様の元へ戻りたい。だが、馬が気を失っている上、起き上がってみれば私の体はボロボロだった。もうろくに戦えるはずもない。

 どうしてアイシャ様は私を戦場の外へ追いやったりしたのだろう。そう考えて私は、自分の愚かしさに「ふっ」と小さく息を漏らす。


 わかりきったことだ。アイシャ様は私のことを気遣ってくださった。あのままでは私が死んでしまうから、と。

 なんて強い方なんだ、あの人は。でもそれではアイシャ様は今頃――。


「結局私は、無様な敗者でしかないのか。何かできると考えた私が馬鹿だった。せめて、アイシャ様には逃げていただきたかったのに」


 集めた戦力は全てダミアンに潰された。私一人ではもはや何もできない。

 計画が全部ガタ崩れだ。一体どうしてくれるんだ、と、私は誰に対してかもわからない怒りを抱いた。

 ……いいやその言い方は正しくない。私が怒っているのは間違いなく自分自身に、だ。


 この怒りをどこへやったらいいのかわからず、唇をぎゅっと噛み締める。

 ああ、私は何もできないままここで死ぬのだろうか……などと絶望的な思考に染まっていた時だった。


「デイビー様!? なんでここにいるんです!」


 聞き覚えのある少女の声とともに、どこからともなく黒馬が私の目の前に現れたのは。



 リリー・フォロメリア嬢。

 フォロメリア伯爵家の令嬢にして、今はアイシャ様の専属侍女の彼女がどうしてここにいるのだろう?


 まさか専属侍女が戦場まで着いて来るものでもあるまい。ならなぜだ?

 私がそんな疑問を抱いている間に、リリー嬢はサッと馬を飛び降りるなり私を抱き起こした。


「大丈夫ですか、デイビー様! ボロボロじゃないですか!」


「君は、どうして……」


「アイシャ様をお助けするために決まってるじゃないですか! それと、デイビー様の勝手な行動を止めるためですよ」


 やはり彼女もアイシャ様のためにここまで来たのか。

 私はかつて、リリー嬢が侍女になる前に友人だったことがある。だからリリー嬢がアイシャ様を慕っていることは知っていた。だがまさかここまでやるとは。

 いいや、私も同じだな。アイシャ様に認めていただくためだけに第三勢力などと称して無駄な群を引き連れて来ていたくらいなのだから。


 ここでリリー嬢と出会えたことは完全なる偶然だろう。だが私にはどうしても彼女に伝えなければならないことがあった。


「戦場には化け物がいる。だからもう、アイシャ様は」


 亡くなっているかも知れない。

 そう言葉を続けようとして、私はリリー嬢の掌に口を塞がれていた。


「傷だらけなんですから、喋らないでください。これ以上無理したら死んじゃいますよ?」


 ――こんな無様な敗北者は死んでもいい。だから早くアイシャ様の元へ。

 そう思うのに、リリー嬢に私の体は抱かれ、膝の上に乗せられてしまう。今はそんな状況はないだろうに彼女は慈愛に満ちた笑みで言った。


「デイビー様が無事で良かった。アイシャ様のことはきちんと頼れる人に任せましたから、何も心配しないで大丈夫ですよ。――ね、ラーダイン様」


 その時、誰も操っていないはずの黒馬が高いいななき声を上げて走り出していた。

 否。騎乗していたのがリリー嬢だけだと思っていた私が間違っていた。角度的に私には見えなかったが馬にはもう一人、乗っていたのだ。


 無言でこちらに手を振るその人物は、金髪に黄緑色の瞳の青年。


「ああ、やはり君には敵わないのか、ラーダイン・ペリド」


 ボソリと呟いた言葉は、もう走り去ってしまった彼には届かない。

 彼は今から本当の意味でアイシャ様を助けに行くのだろう。それがわかってしまったから、悔しくて仕方なかった。

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