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31:死闘の末に

 およそ百人ほどの私兵団の半分が一気に死体へ化す様を前に、わたくしは息を呑んでただただ見つめるしかできません。

 ある者は驚愕の表情で、ある者は苦悶の表情で、身を引き裂かれる兵士たち。あたりが真紅に染まるその光景はまるで地獄絵図のようでしたわ。


「残ったのはたった半分かよ。つまんねえの」


 本当につまらなそうな顔で呟いたダミアン皇太子。その手に握られているモーニングスターはドロリと血で汚れ、ところどころに肉片が残っていました。

 それを目にしただけで思わず吐き気が込み上げて来ましたわ。……意地でどうにか耐えましたけれど、普通の令嬢であれば立っていられないほどだったでしょう。


 一方で恐怖に震える第三勢力の方々。仲間がこんなにもズタズタにやられたのですから無理はないでしょう。

 そしてダミアン皇太子はその隙を見逃すことなく、鉄球をもう一振り。それだけで回転する鉄球に頭部を抉られ、新たな死体が山のように出来上がってしまいました。

 ……狂戦士とは聞いておりましたが、これほどまでとは。もはや人間業ではございませんわ。


「よくもやってくれたものだ、ダミアン皇太子」


 寸手のところでたった一人だけ皇太子の攻撃から逃れて無事だったデイビー様が苦々しい顔でおっしゃいました。そんな彼をダミアン皇太子は「ふん」と鼻で笑うものですから、デイビー様はきっと堪忍袋の尾が切れたに違いありません。


 次の瞬間、彼はなりふり構わず……届くはずもないのはわかっているというのに、ポイズンナイフを振りかぶって突進していったのですから。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 デイビー様にわたくしがなんらかの好意的な感情を抱いているかと問われれば、否ですわ。

 こうして国を裏切るような真似をしてまでわたくしの元へ駆けつけてくださった理由は想像に容易く、彼の懸命さをすごいと思うところもあります。ですが、だからと言って彼に心を許したりするつもりはございませんの。


 ――だって鈍感な男はわたくし、嫌いですもの。


 あんなに一途に想われておきながら、わたくしなどに目が眩むなんて、見る目のない殿方ですわ。

 ですが……いえ、だからこそ、彼にここで死んでもらわれては困るのです。それではきっと、わたくしの大切な人が悲しみますもの。


 なんとかわたくしにできる最善手はないのかしら?

 必死で考えを巡らせても答えは全く見つかりません。そして目の前ではたった今、デイビー様がダミアン皇太子に向かって行ってしまっています。

 ――こうなれば取れる方法は一つだけですわ。


「邪魔者には退場していただきませんとね!」


 叫びながら、わたくしは持てる全力を振り絞り馬でデイビー様に突進しました。

 こちらを振り向いたデイビー様が「えっ」と声を上げたと同時に、今の今までダミアン皇太子を避けることしか考えていなかったであろう彼の体はあっという間に吹っ飛び――――空の彼方へと消えたのですわ。


 こうして第三勢力の方々は全て戦場から姿を消しましたの。


「余計なことしてくれたな」


「……これでやっとあなたと二人きりですわね。そう考えるとゾッとしますわ」


「言ってくれるじゃねえか」


 後に残されたのは、ダミアン皇太子とわたくしのみになっていましたわ。

 ダミアン皇太子の目は相変わらずギラギラと光り、次の標的をわたくしと定めたのは明らかでした。



 もはやこの場に邪魔者はおりません。わたくしも安心して逝くことができるというものですわ。デイビー様に邪魔された時はどうしようかと思いましたけれど、全て予定通りに済みそうですわね。


 デイビー様、ごめんなさい。わたくしはあなたを求めてはいませんでしたのよ。

 ――せめてあなたが、彼女と結ばれるようお祈りしておりますわ。

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