28:嫁にしたい女※ダミアン視点
――ここにいたのかよ、アイシャ・アメティスト・オネット。
あまりにも呆気なくつまらない戦いという名のお遊びが終わった後、たった一人生き残った女を見て俺は少しばかり嬉しくなった。
まさかわざわざ表に自分から出て来るとは。城に引きこもる姫を連れ出すためのバトルが減るのは残念だが、こうして主役が自らお出ましになるのも一興かも知れない。
不揃いになった藤色の髪を風に靡かせ、俺の前に立つ鋭い印象の少女。それがオネット王国の王太女であり、そして、俺が嫁にしたいと思ったたった一人の女だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
我がプランス大帝国が戦争を仕掛けたのにはわけがある。
ズバリ、それは俺が望んだからだ。戦いに飢えていたというのも一つだが、大きな要因はこの女が欲しいと思ったから。
俺は正直言ってモテる方だ。いかなる貴族の娘にも言い寄られる。令嬢だけじゃなく既婚者にさえ擦り寄られるんだからたまったもんじゃねえぜ、ったく。
そりゃあ貴族とだけあってキラキラ美人はわんさかいた。だがどの女を見ても俺の食指は動かなかった。
一言で言えばつまらない女に見えたから、ただそれだけだ。
可愛さだけを詰め込んだ従順なお人形。何度か遊んだことはあるものの、貞操を奪う価値すら見出せず、全員途中で捨てた。
婚約者は何人いたか覚えていない。飽きる度婚約破棄だの慰謝料だのとうるさかったが、まあそこはなんとかなるので問題ない。
いくら漁っても、なかなかいい女は見つからない。
平民の中に楽しい女がいるかと思って探したこともある。だが全然いい巡り合いはなかった。
――くだらない。どうしてこいつらは揃いも揃って俺に媚びる。
俺に甘えてくる女たちを見ると無性にイライラした。
もう女なんて嫌だ。そう思っても皇太子である俺に後継者は必須で、つまり適当な女を娶る必要がある。
「そんなに悩んでるなら私を妻にしてくれればいいじゃない。私は甘んじて受け入れるわよ?」
そう言ったのは幼馴染の女だったと思う。
だがその女は俺より歳上でお姉さんぶるから嫌だった。どうせこれも質の悪い冗談に違いないから、すぐに断ってやった。
俺は元々頭がいい方じゃない。考えるのに疲れて適当に部を極めたりして問題を先延ばしにしているうちに、すでに十五になっていた。
とうとう親父も俺を見限るだろう――そう思っていた頃、俺は人生で初めて、『いい女』に出会ったのだ。
それが彼女、アイシャ・アメティスト・オネットだった。
俺を目にして媚びない女は初めてだ。国際的な場とあって表面上は笑顔だが、その実こちらを値踏みするような――男としてではなく、人間として――のような目をしていた。
こいつは信頼に値するのか、どうなのか。それを見定められているのだと気づいた俺は、彼女に興味を持った。
――この女、面白いじゃねえか。
俺はこの女なら嫁にしてやってもいいと思った。異性としての興味というよりは人間性に対するものだ。あの女をどうしても手に入れたい。
しかしそこには問題があった。何せ、王女にはすでに婚約者がいる。気が強い王女はちょっとやそっとの脅しでは屈しないだろうし、俺のものにするのはなかなか難しそうだったのである。
そこで俺は考えた。なら、実力で奪い取ればいいだけだ、と。
幼馴染の女には散々反対されたが知ったことかと彼女を払い除け、俺は周囲に根回しをし、二年ほどかけて準備をした。
そしてオネット王国との戦争――勝利することは最初から決まっているも同然だ――が幕を開け、今日やっとあの女が俺の手に入る。
王女が最前線に出ていたのは意外だったがその方が話が早い。後は捕まえて連れ帰るだけ、そう思っていたのだが。
「――アイシャ様に触れないでいただこうか、汚らわしい悪党め」
背後から声が聞こえて振り返れば、そこには黒髪黒瞳のヒョロヒョロした男……少年が馬に乗って兵士どもを跳ね飛ばしながら突っ込んで来てやがった。
ああ、面倒臭い。こいつが王女の婚約者だったか? なんだか前と違う気がするが、意外と王女も浮気性で婚約者を前の奴から替えたのかも知れねえな。
そんなどうでもいいことを考えながら、俺は自慢の武器である鉄球を適当に後方へ放り投げていた。
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