表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/50

23:国王の後悔※国王アリソン視点

 私はずっと娘――王太女アイシャを、蔑ろにし続けて来たのだと思う。


 妻の命を奪ったあいつが許せなかった。

 妻に瓜二つなあいつを見ると、心が痛んだ。


 だからずっと彼女のことは『王太女』という立場でしか見て来なかった。一人の人間として向き合えば、こちらの弱味を見せることになる。国王としての誇りや意地といったものがそれを許さなかったのだ。


 だが、だからこそ私は今、人生で最大の後悔に打ちひしがれ、憤っている。


 ……あいつは今、城にはいない。

 数日前の朝、あいつがいなくなったと専属侍女から聞かされた時は信じられなかった。


 ――あの娘は、そこまで考えていたのか。


 あいつが単なる馬鹿ではないことくらい、私だって知っているはずだった。

 今は亡き息子のジャックと比べれば国を継ぐ者としての素質は足りないところもあるかも知れない。だが女としては利口な方だし、行動力はある。実際国内各地から上がる諸問題を片付けているのは、八割方あいつだった。私が手を入れようと思い立つ前に、もうあいつは何か行動を起こしているのだ。


 だからあいつが馬鹿をやらかした時点で裏があると勘づいておくべきだった。


 このことをペリド公爵家に知らせようかと躊躇った。

 だが、知らせたところで何になる。ペリド家がこの戦争において加担しない――つまり王家に協力的でない姿勢を取っているくらいなのだ。当然、あの事件に対し腹を立てていると考えるべきだろう。そんな彼らに何を言っても無駄だ。


 ならば力づくであいつを連れ戻すしかない。だが、戦争のために守りに必要な最低限以外の全ての兵が城を離れてしまっており、あいつのために出せる人員は一人もいなかった。


 ――どうしてそんな無謀なことをした。


 今は居場所すらわからない娘を問い詰めたくなる。

 だがそれは無意味だ。理由はとっくに理解している。私がせいだ。あいつに寄り添ってやれなかったからだ。あいつを直視し、父親として言葉をかけたことが一度でもあったろうか。


 そんな私を頼らないのは当然の話で、死を覚悟の上であいつは行動したのだろう。私が頼れる父親ならば、あいつは命懸けの無茶をしなくて済んだかも知れないというのに。


 そもそもこの戦争は、あいつの存在が発端だ。

 別にあいつに非があるわけではない。プランス帝国側の一方的で無茶苦茶な要求なだけだったから、別にそこを責め立てるつもりはないのだ。

 だが、こうなるくらいだったなら向こうの要求を呑んでいれば良かった。結局あいつが、戦地へ向かってしまうくらいなら。


「私は貴様に……お前に幸せになってほしかったのだ、アイシャ」


 今更な言葉をポツリと呟く。

 あいつを不幸にしたのは私自身だ。それは痛いほどわかっている。


 よく考えてみれば、あいつの声さえろくに覚えていない。

 『お父様』ではなく『陛下』と他人行儀で――いや、実際あいつにとって私は他人でしかなかった――呼ぶその透き通るようだと評されていた声が、まるで思い出せないのだ。


 私は一体何年、彼女を放置していた?

 話し合える機会はいくらでもあったはずだ。なのに、同じ王宮で暮らしていながら時には何年も会わなかった。いや、私があいつを避けていたと言う方が正しい。


 別に不幸にしたいわけではなかった。ただ愛してやれなかった、それだけのこと。

 もしももう一度顔を合わせられるのだとしたら謝りたいと心から思った。だがもうそんな機会は訪れない。あんなか細い女が戦場を生き抜けるはずがないからだ。


 あいつは最期まで私を恨みながら死ぬのだろうか。そう思うと胸が痛くなった。




 ああ……死んだ妻が今の私の姿を見たらどう思うだろう?

 そんなことをぼんやり考えながら私は、がっくりとうなだれたのだった。

 面白い! 続きを読みたい! など思っていただけましたら、ブックマークや評価をしてくださると作者がとっても喜びます。

 ご意見ご感想、お待ちしております!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
短編版はこちら

作者の作品一覧(ポイント順)



作者の婚約破棄系恋愛小説
あなたをずっと、愛していたのに ~氷の公爵令嬢は、王子の言葉では溶かされない~

この度、婚約破棄された悪役令息の妻になりました

悪役令嬢は、王子に婚約破棄する。〜証拠はたくさんありますのよ? これを冤罪とでもおっしゃるのかしら?〜

婚約破棄されましたが、私はあなたの婚約者じゃありませんよ?

婚約破棄されたので復讐するつもりでしたが、運命の人と出会ったのでどうでも良くなってしまいました。これからは愛する彼と自由に生きます!

公爵令嬢と聖女の王子争いを横目に見ていたクズ令嬢ですが、王子殿下がなぜか私を婚約者にご指名になりました。 〜実は殿下のことはあまり好きではないのです。一体どうしたらいいのでしょうか?〜

公爵令嬢セルロッティ・タレンティドは屈しない 〜婚約者が浮気!? 許しませんわ!〜

隣国の皇太子と結婚したい公爵令嬢、無実の罪で断罪されて婚約破棄されたい 〜王子様、あなたからの溺愛はお断りですのよ!〜

婚約破棄追放の悪役令嬢、勇者に拾われ魔法使いに!? ざまぁ、腹黒王子は許さない!

婚約者から裏切られた子爵令嬢は、騎士様から告白される

「お前は悪魔だ」と言われて婚約破棄された令嬢は、本物の悪魔に攫われ嫁になる ~悪魔も存外悪くないようです~
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ