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15:リリーの意思※リリー視点

 時間軸は13話直後になります。

『ありがとう。大好きでしたわ』


 リリーはその書き置きを見て、数秒間呆然とするしかありませんでした。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 最近、アイシャ様の様子がおかしいことは、わかっていたんです。

 始まりはラーダイン様と婚約破棄をなさったというあの夜から。……いいえ、よくよく考えてみればその前からも少し不安げなお顔をされることが多かったように思います。


 恋愛ごとに疎いリリーでもわかるくらい、あんなに愛し合っていたアイシャ様とラーダイン様。

 なのに破局になるなんて予想外で、話を聞いた時は夢じゃないかと思ったくらいですよ。


 でもその日の夜中、アイシャ様が泣いていらっしゃるのを聞いて――もちろん聞くつもりはなかったのですが、たまたまお部屋の前を通りかかった時に聞いてしまったのです――きっと何かお考えがあるのだと気づきました。

 何かお悩みがあるならリリーに話してほしい。ですがきっと、アイシャ様はリリーには頼ってくださらないでしょう。昔からあの方は、抱え込みすぎるところがありますから。

 ですからせめてお傍で見守って差し上げようと決めたんです。今となっては自分の考えの甘さを後悔するばかりですが。


 ――まさか、失踪なさるなんて。


 ちょうどリリーが料理長に『新作ができたから味見してほしい』などとどうでもいいことを頼まれて、厨房へ行っている最中のことでした。

 慌てて周囲を探しましたがアイシャ様の姿は見つからず、リリーは仕方なく国王陛下のところへ報告へ行きました。


「あの愚か者が……。あれでも王太女であろうに、気でも触れたか? 一人で勝手に行くなどと」


「恐れながら国王陛下、アイシャ様の行き先に心当たりがあるんですか? お願いします、どうか教えてください!」


「あれはおそらく戦場へ向かった。今すぐ兵を遣わせたいところだが、城の守りから外せる兵は全て戦に投入している。あれを追うのは無理だろう」


「えっ、戦争が!」


 この国に戦争が迫っている。

 上層部の方々はみんなご存知の様子でしたけど、リリーはそんな話、一度も聞かされていませんでした。ましてやアイシャ様は、他の兵士に紛れて戦地へ赴いたというではありませんか。


 リリーは背筋が冷たくなるのを感じました。


 戦争に一人で行くなんて、無茶苦茶です。

 アイシャ様は誰もを魅了してしまうほど美しくて、とてもお優しい方です。でも強いのは心の話であって、体は普通のか弱い女性の一人。そんなアイシャ様が最前線に行ってしまえば、生きて帰って来る見込みなんてないに等しいと言えました。

 戦争は甘くありません。それくらいリリーにも理解できます。アイシャ様はきっと決死の覚悟で向かわれたのでしょう。


 国のために戦い、命を捧げた王太女。

 これがもし物語であったなら美談になること間違いなしです。でも、


「――そんな結末、このリリーが許しません! アイシャ様が死んじゃうだなんて!」


 リリーはアイシャ様に、ずっとずっと助けられて来ました。

 出会ったあの日はもちろんのこと、それから身分差があるにもかかわらず、友人のように仲良くしてもらって。アイシャ様はリリーにとっての女神様なんです。

 だから、こんな風にお別れするだなんて嫌でした。ですからリリーは足りない頭で必死に必死に考えました。


「ラーダイン様! ラーダイン様ならきっとなんとかしてくださるはず。早く……早くラーダイン様にお知らせしないと」


 本当ならリリーが自分でアイシャ様を連れ戻しに行きたいですが、リリー自身にそんな力がないのは重々承知です。

 だからリリーはラーダイン様を頼ることにしました。婚約破棄されたことでラーダイン様はアイシャ様のことが嫌いになっているかも知れません。でも、あの方がそんなことで冷める恋心をお持ちのようには見えませんでしたから。


 きっと今でもラーダイン様ならアイシャ様の味方になってくれる。

 そんな根拠のない確信を胸に、城を飛び出したリリーは、徒歩でペリド公爵家へと急ぎます。幸いペリド公爵領は王都を出てすぐでしたから、着くのにはそこまで時間がかからないはずだったのです。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 しかし向かった先のペリド家はもぬけの殻――と言っても使用人はいましたけど――で、公爵一家は辺境へと旅立った後でした。

 思わず肩を落としましたが、こうしてはいられません。次に頼れる人を思い浮かべましたが、首を振りました。


「あの方はアイシャ様を愛していらっしゃる。今協力を仰げば、更なる混乱を招くだけでしょう」


 やはりリリーが助けを求められるのはラーダイン様だけ。

 ペリド家本邸から適当な馬を借り、急いで辺境の地へ。後は時間との戦いです。


「どうか、どうか間に合いますように……!」


 祈るように叫び、リリーは馬を走らせ続けます。

 ――一刻も早くお助けしなければ、アイシャ様が。

 脳裏によぎる不安を必死で振り払い、リリーは、ただただアイシャ様の無事を願うことしかできない自分が情けなくて仕方ありませんでした。

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