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12:辺境への避難※ラーダイン視点

 ――まもなく戦争が始まる。


 その知らせを受けたのは、アイシャに婚約破棄を告げられてから十日と経っていないある日のことだった。

 隣国プランス大帝国が宣戦布告をして来たらしい。その話を聞いて僕は、思わず身震いをしてしまった。


 歴史は古いものの国力も国土も広くないオネット王国が、最近さらに経済が急成長しているという噂のプランス大帝国に勝利するとは考えにくいのは明らかだ。

 つまりオネット王国にとっては負け戦。戦争に負けたら王族がどうなるかだなんて、目に見えていた。


「アイシャ……」


 毒杯を賜るならまだマシな方で、見せしめとして石を投げられ人としての尊厳を奪われ、ひどい仕打ちを受けながら殺されることだってあり得る。

 彼女がそんな目に遭うなんて考えたくもなかった。僕は顔を覆い、呻く。


 本当なら今すぐにだって助けに行きたいと思う。しかしそれは彼女が望むことなのかと問われれば、僕にはまるで自信がない。

 それに両親は僕との婚約を一方的に破棄したアイシャ、ひいては王族へ協力しようだなんて思わないだろう。むしろ帝国側につく可能性もあるくらいだ。まるで頼りにならない。


「僕はどうしたらいいんだ。もし僕が今でも君のそばにあれたなら、どこへだって一緒に逃げることもできたのに」


 タイミングが悪すぎる。どうして今、戦争なんて起こるんだろう。

 これでは彼女を、アイシャを、命の危険に晒されていると知りながら放置することしかできないじゃないか。


 もしもアイシャが助けてほしいと言ってくれたなら、僕はいつでも死力を尽くしてでも守ってあげられる。

 だが彼女はそんなことを言い出さないだろうとわかっていた。いつも気高く、王太女として民を守るべく王になるために日々努力していた彼女のことだ。それに彼女はもう僕に何も期待してはいないだろう。


 今頃きっと、デイビー・ヴォルールと今後のことについてでも話し合っているのだろうか。

 ヴォルール令息は宰相の息子だ。僕なんかよりずっと役に立つはずだ。


 長年彼女の傍にあったのは僕なのに、もう手を差し伸べられないことが悔しい。

 何もできない僕は、そっと手を合わせて呟いた。


「――せめて、無事でいて」


 そう願ったとしても何にもならないのはわかっているはずなのに、祈らずにはいられなかった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 それから半日もしないうちに、僕はペリド公爵邸を離れることになった。

 ペリド公爵家は別荘を持ち、休暇を辺境の村で過ごすことがある。その別荘に移って戦禍を逃れようということだ。帝国と真反対に位置し、王宮からも離れている辺境に避難すれば、確かに危険は少ないだろう。


 どうやら僕の両親は戦争に加担する気はないらしかった。王国兵と敵対しなくて済むのは良かったけど、それでも僕は胸が痛くてたまらない。


 僕だけ逃げるだなんて、あまりにも卑怯だ。


 でも僕には力がない。剣が扱えるには扱えるが、戦争の最前線に行って何か役に立てるとは思えなかった。

 だから僕は両親と共に行くことを拒否したりはしなかった。


 多くの従者を見送られ、僕は馬車に乗り込む。

 両隣には父と母がまるで僕を守るようにしてそれぞれ陣取り座った。まもなく馬車が走り出す。


「ラーダイン。何も心配しなくていいですからね。……王国がこうなったのは自業自得。王太女殿下はいい方だと思っていたけれど、それは私の間違いだったわ。婚約破棄などしたから天罰が下ったのですよ」


 僕の心を軽くしようと思ってなのか、母がそんなことを言ってくれる。

 しかしその言葉は少しも僕の心を軽くしてはくれない。


「天罰なわけ、ないじゃないか」


 天罰が下るとすればそれは、いつまでもウジウジしていて何の力にもなれない、僕の方なのだから。

 

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