11:戦の準備
わたくしは淡い紫色に輝く柄の短剣をじっと見つめておりました。
これがわたくしの愛剣。決して鋭いわけでもなければ、何か特別な力を持つものでもありません。けれどこれがわたくしのような力の弱い女が持てるたった一つの武器であり、これだけでわたくしは大きな敵と戦わなければならないのですわ。
――この日のためにずっと練習してきたのですもの、腕が鳴りますわね。
戦争が起こると知ってからというもの、それまで行っていた鍛錬の時間を三倍以上に増やし、一心に剣の腕を鍛え上げ続けていましたの。
しかし、いくら努力したとて、短剣一本のみで戦場を生き抜けるなどと甘いことは考えておりませんわ。ですがそれでも少しでも力になるのではないかと、そう信じていますの。
「負け戦だと知っていても、逃げたり手抜きするわけにはいきませんものね。全力で抗わせていただきますわ」
戦場に出ることなく、城に篭ったまま兵に命令を下せばいいだけだと思っている無能な陛下とは違いますのよ。
わたくしはふと、陛下のことを思い浮かべました。オネット王国が敗戦に追い込まれれば、間違いなくプランス大帝国の者によって毒殺、または見せしめとして公開処刑されるでしょう。ほんの少しだけ哀れには思いましたが、だからと言って手を貸すつもりはありませんでしたわ。……だってそれが彼の選んだ道なんですもの。
その分、わたくしはわたくしの選んだ道を歩ませていただくのみですわ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
戦へ赴くための準備は、大抵は兵団長をはじめ王国兵団の方々がきちんと手筈を整えてくださいましたから、大してわたくしのすることはありませんでしたわ。
剣の手入れをいつもより念入りに行えば、あとはリリーに見つからぬようにタイミングを見計らって部屋を抜け出し、あらかじめ今は使われていない馬小屋の中にこっそりと用意してあった女物の騎士鎧を試着するだけ。
軽くて動きやすい。それに……我ながらよく似合いますわ。
「兜を被って顔を隠せば、誰もわたくしと気づかないでしょうね」
それこそ、わたくしをよく知る方くらいにしか正体がバレないのではないかしら。
この姿なら兵団に紛れて王城を出ても大丈夫ですわね。間違いなく陛下には気づかれる心配はありませんわ。
「ただし、リリーの目を誤魔化す必要がありますが」
今だってきっとわたくしのことを探しているでしょうし、二日連続で姿をくらますのは難しいかも知れません。料理長にでも頼んで確実にリリーが部屋を空ける時間を設けませんとね。
そんなことに考えを馳せつつ、わたくしは騎士鎧を脱ぎ、まるで何事もなかったかのように馬小屋を出ましたの。
……その後ろ姿を見つめる視線には気づくことなく。
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