実録ジャガイモ裁判~異端は火あぶりだァ! ヒャッハー! あと税金払え!~
前作「異世界ジャガイモ法廷」では、「異世界にジャガイモがあるのはおかしーし!」、「いや、おかしくねーし!」という論争を取り上げました。
それに関して色々調べているうちに、そういえば、昔のヨーロッパでマジでジャガイモを異端審問にかけたって話があったような気が……と思い出し、それについてもちょっと調べてみた結果が本作です。
ジャガイモは16世紀頃に南米からヨーロッパに持ち込まれましたが、当時の人々の多くからは、警戒心や反発をもって迎えられたようです。
そもそも人間というものは、新しいものをそう簡単には受け入れない傾向がある上、そのあまり美しいとは言い難い見た目や、時に毒性を持ち食中毒の原因となった(芽や、皮の緑色になった部分には十分注意してください。マジで)ことなどから、初期のジャガイモは相当嫌われていたようです。
挙句の果てに、ジャガイモは宗教裁判にかけられることになりました。
罪状は、雄蕊から雌蕊へ受粉し種ができるという「神が定めたもうた正常な繁殖方法」ではなく、種芋から芽が出て殖えるというのが「性的に不純(!)」だから。
そして判決は火あぶりの刑!
その後刑吏たちがおいしくいただいた……ということはきっとないのでしょう。なにせ異端ですから。
残念ながら、これがいつ、どこでの事例なのか、あるいは一度や二度ではなく繰り返し行われたことなのかははっきりしませんでしたが、このような、人間以外のものを大真面目で裁判にかけるということは、12~18世紀、特に15~17世紀のヨーロッパでは頻繁に行われていたようです。
これに関しては池上俊一氏の「動物裁判」(講談社現代新書)という本に豊富な事例が記されています(ただし、ジャガイモの事例は載っていません)。
例えば、人間の子供を食い殺した豚(当時はまだ十分家畜化されていない半分猪のような状態で、かなり獰猛だったそうです)を吊るして処刑したりとか、作物を食い荒らした害虫を破門にしたりとか。
その裁判の過程も、人間を裁く場合と全く同じ手順で、厳格に執り行われたのだそうです。
現代人の目から見れば、この人たち何やってるの?と思わざるを得ませんが、同書によれば、これは人間が自然の理不尽さや脅威に対して、人間の基準でもって裁き、克服していく(神の権威を借りてではありますが)過程だったのだとか。
これも、現代人的には傲慢に映る考え方かもしれませんが、自然の暴威に対して泣き寝入りするしかなかった中世以前の人たちが、それに立ち向かっていったのだと考えれば、軽々しく非難すべきではないのかもしれません。
まあ、ジャガイモに言わせればとんだ迷惑な話だとは思いますけれども。
ついでながら、ジャガイモがらみの裁判ネタでもう一つ。
皆様「プリングルス」はご存知でしょうか。そう、ジャガイモを薄く切ってそのまま揚げたのではなく、粉にし小麦粉と混ぜて成型した上で揚げた成型ポテトチップスの商標ですね。
これに関して、2008年から09年にかけて英国で裁判が行われました。
争点となったのは、「プリングルスはポテトチップスなのかビスケットなのか」。
はい、皆様頭の中に「?」が乱舞していることでしょう。
詳しく説明しますと、英国の間接税(付加価値税)は、食品の中でも生活必需品と嗜好品とで課税対象かどうかを分けています。現在の日本の消費税の場合は一括りで軽減税率ですけどね。
で、イモが主体のポテトチップスは嗜好品だが小麦が主体のビスケットなら生活必需品ということで、ポテトチップスだとして標準の税率を課した英国と、小麦粉の比率が50%以上だからビスケットであり非課税だと主張するメーカーのP&G社(ちなみに、現在は撤退しケロッグ社に権利を移譲しています)とが争ったわけです。
そうか、半分以上小麦粉だったのか……。
その結果、第一審ではP&G側の主張が認められるも、控訴審では逆転敗訴、やはりプリングルスはポテトチップスであるとして、課税対象となりました。
消費税の逆進性緩和のために軽減税率や非課税対象を導入するのは大事なことだとは思いますが、線引きは難しく、こういった争いも生じるわけで、中々難しい問題ですね。
-----------------
追記
種から殖えないのが「性的に不純」というのはもはや言いがかり以外の何物でもないってかんじですが、当時のヨーロッパでは他に無性生殖する植物は知られていなかったのかな、と思い調べてみました。
基本、「イモ」と呼ばれる植物、主にサトイモ科やヤマノイモ科に属する植物は大体モンスーンアジア原産でヨーロッパの気候には合わず、あまり知られてもいなかったでしょうし、サツマイモ(ヒルガオ科)も中南米原産だし……。
トピナンブール(キクイモ:キク科)ってやつは? と思ったけど、これも北米原産か。
あ、イモじゃないけどユリって「むかご」で殖えるんじゃね? と思ったけど、どうやらオニユリ(日本を含む東アジアに自生)だけみたい。
まあ、タマネギをはじめとする球根植物はヨーロッパでも古くから知られていたようですが、これは、球根から芽は出るけど球根で増殖するってかんじじゃないからいいのかな?
うーむ。やっぱりほとんど知られていなかったっぽい。