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異世界の極道物語【第一章・完】  作者: 葵尋人
第一章 騎士と極道
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第五話 出会い、獄中にて


 バァン!


 凄まじい轟音を立てて、逆十字党事務所の扉が吹き飛び、後から続いて花形舜英(ハナガタ・シュンエイ)が一周二周と石畳の街路樹を転がった。

 ゆっくりとそれを追いかけるようにやって来た右京が花形の胸ぐらを掴み無理矢理直立させると、


「花形組長、頭目(オヤジ)が破門ってどういうことっスカ?」


 話の真偽を問い(ただ)す。


「やめろ右京! 気持ちは分かるが花形組長は燈影会(ホンケ)の若頭! そんな人に楯突いたらお前だって破門になるぞ!」

「うるせぇ!」


 右京の進退を案じた他の子分たちが止めに入るが右京はそれを突き飛ばし、話を続ける。


「なぁ、失礼ですが、花形組長。アンタ、破門の意味分かってやってんですか? 破門になった極道がどういう末路辿るか、分かった上でやったんスか?」

「……極道社会からの実質的な追放。破門状を出された極道の噂はすぐに他の組織にも出回り、そういった扱いをされた極道を受け入れる組は少ない。奇特な連中がいればそれで良いがそうでなければ待っているのは――ただの“非国民”に戻る道だけ」


 右京はギリと、音がなるほど歯嚙みすると花形の顔面を一発思い切り殴りつけた。


「この国の連中が“片端(カタワ)”に対してどれだけ差別的か分かってんならやって良いことじゃないんスよ! まして元極道! 人から恨まれている分余計に居場所もねェ。極道って後ろ盾もねぇから騎士共だって忖度(そんたく)する必要もねぇ。だから下手すりゃ殺される」


 ホロリと右京は涙を流す。


「……これが、これが義子(むすこ)に対する仕打ちですか? あの人、言ってましたよ。『花形の組長(おやっ)さんは俺を拾って、ホントの息子みてぇに育ててくれた。あの人には感謝してもしきれねぇ恩がある。だから俺は花形組をもっとデカくしてぇ』って。アンタに、親としての情はないんですか?」

「……これも燈影会の未来の為だ」


 溜まらず右京は花形の顔面を拳で打ち抜いた。

 そして、もう一発殴ろうとして、


「やめろ! 右京! これ以上やったら花形組長が死んじまう!」


 逆十字党の子分総出で右京を羽交(はが)()めにし、それをなんとか止める。


「……ッ! 何しやがる、放せ! お前らこれで納得出来るのか!」

「そりゃ、出来ねぇけど……でも……」


 数人に揉みくちゃにされながらも、右京はなおも花形を睨み続ける。


「第一、おかしいだろ! アウグステ卿といえば、“龍星の日”に空から落ちてくる無数の龍を相手に戦い非国民すら分け隔てることなく救った英雄だ! その英雄をどうして頭目(オヤジ)が殺さなきゃならねぇ? 頭目(オヤジ)がその御仁(ごじん)を恨んでたなんて話聞いたこともねぇのに!」

「……それを答えることは出来ない」


 花形の言葉にまた腹が立ち、もう一度殴りつけようとして――そこで右京は手が止まった。


「……どうした? 気が済むまで殴れ。こんな俺で良いならとことん殴っていい」


 ぐちゃぐちゃと血に(まみ)れた顔の中には、悲痛な感情があった。

 右京の拳が痛いからではない。

 自分の心が痛いから泣いている。

 そんな顔だった。


「くそう。そんな顔するなよ……」


 右京は花形を開放し、その場に力なく崩れ落ちる。


頭目(オヤジ)……」


 †


 録郎が目を覚ましてから、まず感じたのは体中の痛みだった。

 確認すると体の至る所に痣や生傷があった。

 と、そこで自分が上半身裸の状態であることに気が付く。

 そして、手には鉄製と思われる手枷。


 ――壊せねぇわけじゃねぇ。だが……


 まだ、自分の状況が掴めない以上性急にことを進めるべきではない。

 そう判断し、録郎は辺りを見渡す。

 といっても見渡す余地もなかった。

 あったのは石の壁と鉄の格子と、格子の外の壁にはめ込まれた鈍く薄明かりを放つ青白い色の石だけ。

 どうやらここは独房らしいということが分かった。


「あいたたた……ッ」


 ふと、録郎は背中に途轍もない痛みを覚える。

 動きが制限されているなりに背中を確認するが、体の前側よりは怪我が少ない。

 どうやら、原因は自分が寝ていた“布団”が悪いためであるようだった。

 石床の上に筵が一枚の場所に眠っていたとあっては体が悲鳴を上げるのも無理はないだろう。


「……そういや、腹が減った」


 筵を見ていたら、不思議と腹が鳴った。

 恐らく自分は長い間眠ったままで、何も口に入れていなかったのだろうと録郎は分析した。

 とりあえず、足元の筵を引きちぎり丸めて口に放り込む。

 むしゃむしゃと十数回咀嚼してから飲み込むと、


「まずい」


 率直な感想を述べた。

 筵というのは稲や麦の藁を編んで作ったものであるから食えるだろうと録郎は判断したが、食えることと食味が優れていることはまた別の問題である。

 とはいえ、筵のお陰が腹の虫の鳴き声も勢いを弱めた。

 格子の外を見れば細い廊下が続きそのずっと奥が暗い。

 ここが一体どこぞの刑務所の中なのかそれとも別の何かなのか録郎には分からなかった、独房にしても“独”が過ぎる離れ小島に流されたことだけは理解出来た。


小鬼(ゴブリン)か? 俺は」


 人に対する扱いではないというのが録郎の率直な意見である。


「……まぁ、鬼ではあるのか。人、()っちまったんだから」


 尤も、録郎にはこんな扱いを受ける理由に充分過ぎるほど心当たりがあった為、この扱いも仕方ないと受け入れることにした。

 ただ目を覚ます前の記憶がどうにも曖昧で、その点にだけは喉につっかえるものを覚えたので、


「花形の組長(おやっ)さんに会った後、その足で自首しに行った筈だよな?」


 録郎は順を追って起こったことを整理することにした。

 花形と別れた録郎は英雄殺害の現場からほど近くにある町“チャンタブリー”の警吏官詰所に足を運んだ。

 そこで、建物の出入口の前に剣を地面に突いてふんぞり返っていた警吏の騎士に事の次第を説明し、すると体を拘束されて詰所の中に連れ込まれた。

 今、自分がいる独房よりはまだ広い牢に閉じ込められた録郎に待っていたのは“取り調べ”であった。


 具体的には罵声を浴びせられながら、鞭で叩く、棒で殴る等々である。

 それがどれだけ続いたか録郎には分からない。

 半日だったか、一日だったか。

 とにかくエスカレートする暴力がかなりの時間続いた。

 そして、そんな痛みの記憶は煮えたぎる油の風呂に投げ込まれたところで終了している。


「……どうやら、アレが切っ掛けで気ぃ失ったみてぇだな。情けねぇ」


 自首をした詰所の外観から考えられる奥行よりも格子の外の廊下の方が遥かに長いことから察するに恐らくその後どこぞの監獄に移送されたのだろうと、録郎は考えた。


「さぁて、じゃあここはどこよって話なワケだが……」


 と独りごつと、廊下の奥の暗闇の方から、がしゃがしゃとやかましい音が聞こえた。

 やかましい音の中には、かーんかーんと別の音が混じっている。

 録郎にとっては聞き覚えある音であった。

 全身鎧(フルプレート)を纏った騎士の鉄靴(サバトン)が、石畳を踏みつける音である。

 どうやらこの音の持ち主はかなりせっかちな人物であるようでこちらに向かってくる音が大きくなるのがかなり速い。

 その人物が録郎の目の前に現れるのにそうはかからなかっただろう。


「やぁ。ご機嫌はいかがかな、ロクロウ・ガドウ殿」

 

 録郎は格子の方に向き直ると、胡坐をかいてその人物を見上げた。

 まず思ったのが綺麗な女であるということ。

 金の波打つような長い髪はあまり艶やかではなく、化粧っけもないからきっと自分を手入れすることに関してあまり頓着の無い女なのだろう。

 しかし、凛冽(りんれつ)な印象の顔立ちと、鳩の血のように赤い瞳とそこから発せられる(やじり)にも似た眼光には息を飲むような美しさがあった。


 そして次に思ったのが色々とデカい、である。

 録郎は男として見てもかなり長身であり、自分の手足の指の全てと歯の全てを合わせただけでは足りないほどの人間と付き合ってきたが自分よりも背が高い男は片手で足りる程度であった。

 まして自分よりも背の高い女とであったことなどない。

 多分、今この瞬間が初めてであろうと録郎は思った。

 だが、それ以上に“デカい”と感じたのは胸部である。

 鎧の胴の部分と実際の彼女の体の間に明らかに不自然な隙間が存在しているのだ。


美人(べっぴん)さんだねぇ」

 

 尤も考えたこと全てを言ってしまうのは失礼極まるのは明々白々の為、簡潔にそれだけ伝え、現れた疑問の解消に移行する。


「アンタ誰だい?」


 女は答えた。


「ルザリア・イシュトバーン」


 その名を聞き、録郎は目を見開いた。

 それが神聖国家ルニカス、最強の十三人の一人の名前であったから。


「面白かった」


「続きが気になる」


「更新早くして欲しい」


そう思ってくださった方々へ。

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よろしくお願いいたします。

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