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異世界の極道物語【第一章・完】  作者: 葵尋人
第一章 騎士と極道
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第十話 脱獄あるいは出所


 ルザリアに案内され録郎の独房の前に立つとリズは、格子の向こう側で倒立腕立て伏せに勤しむ録郎の背中を見つめた。

 広く知られた極道の生態の中に異国の神や霊獣、英雄を描いた“刺青”を刻むといったものがある。

 ルニカスの国教において神に見放されていると定義されている非国民たる彼らにとって、他の神からの加護を得ていると自分を鼓舞する暗示や願掛けの意味合いが含まれており、また“信念の象徴”として特別な意味合いを持つ。

 そして、録郎の“刺青”はこれまで極道を研究していたリズにとって異質に映るものだった。


「……逆さまの十字架につるされた山吹色の法衣を(まと)白髭(しろひげ)の聖者? 義王(メルキゼデク)教のシメオン・ケファか?」


 義王(メルキゼデク)教とはルニカスからは海を遠く隔てたミスカト大陸全土に広がる宗教である。

 無銘の神を宿し、自らを義の王と自称し各地を旅しつつ苦悩を抱える人々を救済した貧民“メルキゼデク”を開祖とした宗教でシメオン・ケファはその“メルキゼデク”の一番弟子とされている。


「分かるのかい? アンタ?」


 倒立腕立て伏せを続けたまま録郎はリズに問い掛ける。


「ああ。同時代の王であった“ゲルマニクス”に“メルキゼデク”が詐欺(ペテン)を疑われた時、逆さ吊りに十字架にかけられメルキゼデクの救済の否定を迫られてもそれを拒み続けた忍耐の人。そしてその死後は、人々の生き方の善し悪しを裁定する審判者となったとも言われている聖人だろう?」

「よく知ってんね。そっ。そんでコイツ込められている意味も“忍ぶ心”ってわけ」


 そう語ると録郎はそのままの体勢で飛び上がり、空中で体を入れ替えてからリズの前に腰を落とした。


「……俺としては気に入ってんだが、極道の中じゃ評判が悪くてさ。ダセェって。アンタもそう思う?」

「いや、()は素敵だと思うよ」


 その感想に満足して録郎はニカッと笑みを浮かべる。


「そいつぁ嬉しいな。ところで、アンタ名前なんつーの? ルザリアちゃんのお友達?」


 と、録郎がリズに質問するとゴンと轟音が鳴り、鉄格子が大きく陥没した。

 ルザリアの拳がめり込んでいたのだ。


「ちゃん付けはやめたまえ。恥ずかしい」

「……分かったよ。肝に銘じとく」


 このやり取りを聞きながら、リズはあははははははと大声を上げて笑う。


「こんなルジーは久しぶりにみたよ。チャン君、面白いね」


 録郎は目を見開いて、リズの顔を見る。


「おっと、自己紹介がまだだったね。チャン(ボク)の名前はエリザベス・ヴィシャス。お察しの通り、そこのルジーの大親友(マブダチ)さ。あ、堅苦しいのは嫌いだからチャン(ボク)のことは可愛くリズちゃんって呼んで欲しいな」

「おう、よろしくなリズちゃん。てか、さっきと雰囲気変わった?」

「いんや? そんなことはないでござるよ?」


 目を逸らし、ぴゅーぴゅーと鳴らない口笛を鳴らすリズ。

 

「まぁ、良いか。それよりも、ルザリアさんよォ」


 録郎はルザリアに視線を送る。

 

「――ああ」


 ルザリアは録郎がこの場で言葉に出しづらいあることを聞きたがっていることを察して話し始める。


「彼女は私の協力者だ。というより、寧ろ(けい)の釈放を依頼したのは彼女なのだ」

「そうなん?」


 録郎がリズに目を遣ると彼女は右手にVサインを作り見せつけた。


「ってことはアンタが色々知ってるワケか」

「なぁんでもじゃない。知ってることだけ。たとえば、誰があのボンクラを殺したかとかは知らないよ」

「ボンクラ?」

「アウグステのこと」


 リズがそう吐き捨てたことが意外であった。

 たしかにアウグステが悠慈の手にかかった理由を考えればそう言われなくもないかもしれないが、それでも彼は国家の英雄である。

 小さいことで片付ける者がいてもおかしくはなかったし、やったことを噓として片付けられたとしてもなんら不思議はなかった。

 それがこの言い草である。


「……もしかして、この事件って意外と根が深かったりする?」

「ここじゃ話せないくらいには長い話んなりそうかなー?」


 もっともどんな事情があろうが録郎にとっては知ったことではなかった。

 その事情の為に人一人の人生が大きく狂ったのだ。


「なるほどね。じゃあ、一刻も早くここから出たいとこだ」


 一体どんなふざけた理由で親友が陥れられることになったのか。

 それを知りたい欲求を録郎は抑えることが出来ず、ルザリアを訴えかけるように見つめた。

 ルザリアはそれに従い、独房の鍵を外す。


「サンキュ、ルザリア。で、ずっと気になってたが、こっから具体的にどう出る気だ?」


 牢から出ながら録郎は肩を解すように回す。


「これに入って貰う」


 そう言ってルザリアが指差したのはリズが引きづっていた棺桶だった。

 リズはその蓋を開けにっこりと笑う。

 棺桶の中身は空洞で、比較的大柄な録郎が体を伸ばして入っても問題のないスペースがあった。


「正気で言ってんのか!? アンタらは!?」

「いやいや。チャン僕ってば、普段から棺桶型の武器を持ってるから。それが普通の棺桶になってたとしても疑問には思わないと思うんだよね」

「疑問に思わなかったとしても、身体検査とか色々あんだろ? 普通にそん時バレんじゃねぇのか?」


 その疑問をルザリアは呵呵(カカ)と一笑に付した。


「大丈夫、問題はない。私を信じろ」

「ホントかよ……」


 その言葉に、録郎はルザリアに疑いの眼差しを向けた。



「面白かった」


「続きが気になる」


「更新早くして欲しい」


そう思ってくださった方々へ。

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よろしくお願いいたします。

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