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古森の狐は、鬼を狩る (古森物語)  作者: 来季
鬼狩り達の物語
6/8

鬼狩りになる許可

 「いまは、何時…だ」勢いよくせき込みながら、目を覚ました棟煉は一番最初にこう聞いた。「今、四時ですよ…って大丈夫ですか⁉」「そんな…驚かなくても…あの少年は?」棟煉が言っている少年は…安賀里 広野と名乗った子だろう。確か泣きつかれて寝ていたはずだ。「今、部屋にいますけど連れてきますか?」「いや、大丈夫だ」安全かどうかを確認するだけだったらしく、そう断った後咳き込みながら、壁に寄り掛かる。左眼に巻かれた包帯が痛々しい。水を渡しながら聞く。「鬼…ですか?」「そう見えるか」黙ってうなずく。『すいません、僕が…刺しました』少年、広野の言葉を疑いたかった。信じたくなかった。あんな優しそうな子が、人を、刺したなんて。「…王宮だ」「王宮で?」思わず聞き返す。一体何が、あったというのか。左眼が使えなくなるようなことが。「ある妖を…暗殺せよとの命令を、断ったからだろうな」ふと見たその顔は、誇らしげであった。その妖は、誰であろうか。拍さん達だろう、と勝手に想像しながら軽い冗談のつもりで「私の事は守らなくて、大丈夫ですよ」と言うと先程の表情が、噓のように消えて真顔になる。「そうか…」何かひどいことを言ってしまっただろうか。今更冗談と言うにはおかしい。急に重くなった空気に慌てていると、「大丈夫~?」と声がして襖が開いた。お話の中から抜け出してきたような綺麗な女性が、すうっと音を立てずに入ってきた。「菰孤脊(ここせ) (りん)です。よろしく~」(ゆる)いフワフワとした口調で名乗った淋に自分も名乗ろうとすると、「あっ、大丈夫だよ。時雨さん、名前知っているから」頷きかけて——首を振る。「何で知っているんですか⁉」「昨日でもう掴んでるよ」「地獄耳か…!」「あなただけには言われたくありませんね~」驚いた棟煉を笑顔でしかし、とげのある言い方で返す。そして、しれっと「目覚ましてから早々でごめんだけども、野﨑市で酒吞童子(しゅてんどうじ)出たって~」酒吞童子…かなり知られている力の強い鬼であるのだが…。「しれっと言わないでくれ!」棟煉のツッコミを大して気にした様子もなく、またしれッと言う。「深刻そうな表情をしたら、眼の怪我なんて気にせずに行く準備するでしょう?」質問というよりは、確認に近いその問いに呆れたような声が淋の後ろから聞こえた。「菰弧脊、怪我人を疲れさせようとしてきたのか?」「別に~? さっきの情報を教えただけだけど」「……それが疲れさせようとしているって、いう意味になるんだよ」天然か…と、頭を抱えた青年に「珍しいな。何の用だ」と棟煉が声をかける。「ん? 嗚呼、さっきの情報は今の所、噂だけど対策をどうするかっていう事と、紅月……時雨さん宛てに手紙を渡しに」「わっ、私?」急に名前を言われ声が裏返る。誰からだろうと疑問に思いながら、手紙を受け取る。差出人の名前は紅月 灯莉(あかり)、母の名前だ。嫌な予感がしながら、封を切る。嫌な予感が当たり、何故か赤い文字で早く帰って来るようにと書かれていた。「すいません。一回家に戻らなきゃいけないみたいです……」文字よりも赤で書かれているのが怖い。(死なす気か。)心の中でツッコミをしながら返事を待つ。「分かった。鬼狩りになっていいか許可をもらってこい」「はい! …良いんですか」「嗚呼、許可が下りそうになかったら、火焔家の名前を出せ」何でだろうか。そう思いながら頷いた時雨なのであった。 

                  ***

「遅かったけど、どこ行っていたの?」「ええっと、火焔屋敷」「はあっ⁉」その声に父の秦嶺(しんれい)が「どうした」と声をかける。その問いに答えずに灯莉は「まさか、失礼なことはしていないでしょうね⁉」「してないよ! 火焔って名家…」「当ったり前じゃない。で?」「へ?」質問の意味が分からなかった為、気の抜けたような間抜けな返事になった。「お見合いの話か?」秦嶺が思いついたという風に言ったその一言は、余計事態をややこしくさせた。「違うって!! 雇ってもらうの」言ってしまってから、少し違うのを思い出す。棟煉は、鬼狩りになっていいかの許可を貰ってきてと言ったのであって、雇うとは言っていない。「良かった。あそこなら安定した収入も得られるから。でも、よく雇ってもらえたわね」「鬼狩りになっていい」そう聞くと複雑そうな表情をして「雇ってもらうって……そういう事」ううん、違う。そう言いたいのを抑えて言う。初めっから覚悟は、決めたはずだ。今ここで折れてどうする。「そういう事。お母さん、お父さん。私は、何と言われようと鬼狩りになって、棟煉さんの所で働くから」素っ気無い親の期待を裏切る冷たい娘と、思われただろうか。でも、この覚悟は曲げない。曲げたくない。いつ死んでもおかしくない、そんな危険な鬼を狩る仕事をやっている人の少しでも、手助けになれればいいと思うから。灯莉は暫く黙っていたが軽い溜息をついた後、「それだけの覚悟があるならば、なってもいいですが、しっかりやり遂げて下さいね」「分かりました」緊張していたので喉が渇いて冷たいお茶が飲みたいが、まだ秦嶺の許可をもらっていない。しかし、秦嶺は意外に速く許可を出した。「灯莉がいいなら」と実にあっさりした理由だった。そして、冷たいお茶を出してくれて「すぐに戻るようか」と聞いてきた。火焔屋敷に来るのは明日でいいと言っていたことを話すと、そうかと頷いた後「ところでまだ言って無いけど、いいのか」その問いに言い忘れていた事を思い出す。「ただいま」と。

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