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あの世から証人を呼び出せる男の望まぬ探偵業
令和3年7月13日六道珍皇寺境内
夜の帳が降りた洛中。
その一角でカップを傾ける男が一人。
ふっと息をつく。
ここは六道の辻。
寺院の境内の一角。
待ち合わせの刻には5分程間があるだろうか。
視界の端に映る井戸ヘと視線を移す。
今宵この場所を借りられたのは寺院の好意による。
次の機会はあるだろうが当分先の話だ。
彼は訪れてくれるのか?
只それだけを案じてカップの中の珈琲に目を落とす。
先日から自分が関わった日本史上相当難易度の謎に今日こそは結論を叩きつける。
その想いが己が心を揺さぶり落ち着きを奪う。
自分は上手くやれるのか?
カップを持つ手がかすかに震えた。
クスリと笑みが浮かんだのを自覚する。
あぁ自分は緊張していたのか。
それを理解した瞬間、その事が無性に可笑しい自分が居た。