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第14話 便利屋ユクリア ③ ~旅の始まり~

 「引っ越し先なんか無い」という突然のカミングアウトのせいで、しばらく二人の間に沈黙が流れた。ユクリアは完全に言葉を失い、開いた口が塞がらないという様子だ。

 俺も正直なことを言ったまでで、特に言うことはない。


「……」

「……」


 しばらく沈黙を続けていると、ユクリアが何かに気づいたように「はっ」という顔をした。そしてしばらくぶりの発言をした。


「わたし気付いちゃいました!」


 どうやら彼女は何かに気付いたようだ。


「おう、何にだ」

「アレスさん、これは私の《加護》がどれくらいのものか試すための依頼だったんですね!物を出し入れする早さとかを見てたんでしょ?」


「おー、不正解」

「がくり」


 ユクリアは肩を落とした。前向きなところはいいが、やっぱりこのスキルは戦いに役立つことはないだろう。


「じゃあこの大荷物、どうするんですか……」

「俺にも分からん……」


 再び部屋は沈黙に包まれた。


「とりあえずな、俺は今日中にここから出ていかなきゃいけないんだ」

「え、何が」

「何があったかはあと話すから、今はとりあえず出発しよう」

「出発ってどこにですか~」


 完全にユクリアは困惑している。言うまでもないが、俺も混乱していた。とりあえず「引っ越し」と一緒に思い付いたのがユクリアの存在だったので訪問してしまったが、この先のことは何も考えていなかった。

 住むところどこか、これからどうするかという問題自体なにも解決していなかった。

 しかしそんな俺の脳内に、ある一つのアイデアが浮かんできた。


「ユクリア、これから先に仕事の予約とか入ってるか?」

「全くありません!」


 元気に答えるのには違和感があるが、これは好都合だ。俺のアイデアというのは、こういうものだった。


「じゃあ、しばらく俺と一緒に旅してくれないか?」

「え、えぇ~~~!どうしてそうなるんですか」

「実は、ギルドを追放されたんだ」

「え、えぇ~~!」

「だからしばらく放浪生活でもしようと思って」


 ギルドを追放されてしまった俺は、やることがなかった。それでたどり着いた結論がこの放浪生活だった。


「何やったんですか」

「みんなのためにやったことが、裏目に出たってとこかな」


 そう思うなら、誤解を解けば良いんじゃないだろうかと考えてしまう。ただ、自分をあそこまで否定された上に、求められてもいない場所には、努力して誤解を解いてまで戻りたいとは思えなかった。

 世界を救う~とか、モンスターを倒す~とかいうことも、今となってはどうでもよかった。


「ははあ……それでですよ、結局なんで私を連れていくんですか」


 このユクリアの疑問には、すでに答えが用意してある。


「お前には家の代わりになってもらう!」

「え、ええ~~~~~!」


 俺の思い付きは至極単純だった。家が無く、やることもない―――じゃあこのままユクリアを連れていけば解決、だろう?


「わ、わたしのどこに住むっていうんですか!」


 しかしユクリアはおかしな誤解をしているようだった。


「落ち着け、俺は住まない。その荷物さえ持ってきてくれればいいんだ」


 俺の家具や愛しの武具が収納されたかばんを指さして言った。数秒固まった後で、再びユクリアは動き出した。


「なるほど~!つまり、運搬の専属契約、ということですね!」


 ユクリアは瞬時に俺の提案を「仕事」として受け入れたようだ。納得してくれるのであればそれで十分、ということで特にツッコミも入れなかった。


「そうだ、1日いくらで計算してくれ」

「いいですよ、こんな仕事初めてなので楽しみです!」

「じゃあ早速、野宿用のテント布でも買いに行こう」

「はい!」


 ユクリアは元気に返事をして、リュックやかばんや手提げを次々に身に着け、支度した。

 俺は、念のための短剣をベルトに通してから、ほかの手荷物はすべてユクリアに預け、他の荷物はなし。

 


 こうして、元《勇者》とモブの二人旅が始まったのだった。


ここまで読んでくださってありがとう!

よかったら「読んだ」痕跡を何か残してってください~☆

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