第12話 便利屋ユクリア ① 【挿絵アリ】
―――ドンドンドン!
年季の入った木の扉が、叩くたびに大きな音を立てる。多分だが扉を囲む土の壁もノックのたびに少し崩れている気がする。
「ユクリア!引っ越しを手伝ってくれ!」
何度か扉をたたき続けていると、部屋の奥から物音が聞こえてきた。
「ちょっとうるさいですよ~!」
扉の向こうから、足音とか細い声が聞こえてくる。
なんだ、いるじゃないか。
「誰ですかブシツケな……あ、アレスさま!」
出てきたのは、背が俺の胸のあたりまでしかない「おちび小間使い」のユクリアだった。
彼女は、作業着とも子供着とも言えない分厚い生地の装いで、修理工や職人を思わせる服装ではあるが、色味がパステルで子供っぽさも抜けない。
「おおユクリア、でかくなったな」
そう言って彼女の頭にポンと手を置いた。
「絶対思ってない!やめて!」
か細くも大きな声で嫌がるユクリアは、すぐに俺の手を払った。
手を払って、そのまま俺を見上げた。
「それで!今日のご用はなんですか」
きりりとした仕事モードに戻るユクリア。
「ああ、そうだ。今日は引っ越しをお前に手伝ってほしくてな」
「それはそれは!便利屋ユクリアの出番ですね!」
ふんす、と彼女は鼻を鳴らした。両手を胸の前で「ぐっ」とやっているのが可愛い。
「ああ、お駄賃はいっぱいやるからな」
「報酬は後で請求します!さあ準備しますので少しお待ちを~」
ユクリアはしっかりと子供用の表現を「オトナに」訂正して、てててっ、とものだらけで狭い部屋の奥に入っていった。
そして、使い古した革のリュックと、前掛けカバン、大きな手提げ袋などいろいろなバッグを身に着けて、部屋を出てきた。
これが彼女の仕事姿だ。引っ越しの手伝いをするのに、小さな女子が手押し車もなくて平気なのかと思うかもしれない……が、彼女の小間使いにぴったりな《加護》の前では心配無用であることは後々語ろう。
「さあ、準備万端です!」
「じゃあ頼むぞ、こまづ……ユクリア」
この仕事が、俺の情けない立ち退きの手伝いとは知るはずもなく、ユクリアはとても張り切っている様子だ。
おそらく仕事を頼まれること自体久しぶりなのだろう。仕事内容が俺のみじめな追放物語の第一歩だと知って残念がるんじゃないかと心配になる。
「いちばん最近は、いつ頼まれたんだ?」
「先々週に、パブのごみすてを頼まれました!あれは大仕事でした~」
思った通り、最後の仕事はかなり前みたいだ。しかも、単発でごみ捨ての仕事とは謎が深い。
「ごみ捨てって、そんなこともやってるのか」
「手広くやらないと便利屋は務まりません!」
「……そうだな、偉いぞ」
目をキラキラさせながら言っている彼女に、ネガティブな事は何も言えなかった。
俺は追放されてしまった身だが、これまでは《不死の勇者》としてチヤホヤされてきた。モンスター退治の出発の際は華やかに送り出されたし、町を歩いても同じようにもてはやされた。
しかし、そんな裏で《加護》に恵まれない人々はモブとして、厳しい生活やぞんざいな扱いを受けていた。
「モブ脱出のためにはもっと頑張らなきゃです!」
ユクリアは元気に言う。自分の《加護》のスキルを活かして生活しようとするユクリアのようなやつは《勇者ギルド》に登録し、評価を得ようと努力するのだが―――
「まずはランクEから脱出しなきゃなあ」
ほとんどのやつはギルド内最低の「ランクE」でモブ脱出すら叶わなかった。
「便利屋として人気が出ればランクD……いや、ランクCまではいけるはずです!」
ギルドメンバーとしてランクを上げていくには《勇者ギルド》内でランクアップの認定を受ける必要があった。しかしモブのランクは最低のEから上がることはな
く、功績や有名さを得て初めてランクが少しずつ上がっていくというような構造になっていた。
ランクが上がれば給金も出るが……そもそも役に立たないスキルしか持たないモブは、ランクを上げることは最初から出来ないといっても過言でなかった。
ただ、これが《加護》によって生き方が変わるこの世界のルールだった。
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